イギリスの地主的・職業的なジェントルマン階級と人々の実際の身分より良く見られたい欲望

19世紀のイギリスのヴィクトリア王朝で保守党党首・首相を務めたベンジャミン・ディズレーリ(Benjamin Disraeli,1804-1881)は、議会制民主主義・労働者保護を推進したりインド・エジプトへの積極的な帝国主義政策を展開したことで知られるが、『イギリスはジェントルマンとそうではない庶民という二つの国民(階級)からなっている』という言葉を残している。

近代化を促進する都市文化と消費文明:“貴族・身分”の時代から“職業・金銭”の時代へ

ジェントルマンの起源は公爵から男爵の爵位を持つ先祖が高い身分であった『貴族の大地主』にあるが、貴族の数は17~18世紀でも非常に少なかったため(約200家族しかいなかったため)、『平民の大地主=ジェントリ』と合わさってイギリスのジェントルマン階級を構成していた。

ジェントルマンとは貴族・大地主(金持ち)の階級が起源であるが、その中には『高所得の労働者(人に雇われて働いている高所得者)』は含まれておらず、自分・一族の保有する土地の資産からの不労所得によって、経済的・文化的・教養的・慈善的に豊かな暮らしをする『有閑階級』を意味していた。

自分の肉体を使って時間拘束される労働や会社・人に雇われて働いている立場だというだけで、どれだけ稼いで豊かな暮らしをしていても、18世紀までのイギリスではジェントルマン階級の一員として認められにくかったのである。

日本との比較で欧米社会は『労働蔑視の文化・歴史・価値観』があると言われることもある。従来その最大の原因は、労働を楽園追放(労働の必要がない楽園の喪失)によって神から与えられた罰と見なす『キリスト教(一神教)』にあるとされてきたが、それだけではなくイギリスのジェントルマン階級を典型とする『労働をしない文化的・教養的・政治的な有閑階級の身分評価(歴史的な階級社会・階級意識)』が影響してきたのである。

近世以前の日本の支配階層の公家・武家も税(年貢・地代)を取り立てる大土地所有者であることは多かったが、荘園制を収入基盤とした公家(朝廷の貴族)はともかく、武家は大名クラスを除けば大名・上位者に雇用されるサラリーマン的な位置づけにある人が多かったので、イギリス的な地主ジェントルマンの貴族と同一視することはできない。

武士といっても半士半農で平時は自ら鍬・鍬を握って農業に勤しむ地方の労働者的な下級武士も多く、そういった下級武士は身分が農民より上位の武士であっても(名字・帯刀の特権はあっても)暮らしぶりが農民と大差なく、ジェントルマンのような経済的余裕のある地主階級ではない。身分は平民でも農村社会で大きな実力と大規模な農地を持つ『庄屋・名主・富農』がいて、むしろこういった小作農を従える大地主の富農のほうがイギリスの農村部を支配していたジェントルマン階級(平民のジェントリ)に近いのかもしれない。

イギリスでも貴族・平民の地主ジェントルマン階級だけではなく、貴族階級で家督・土地を継ぐことができない次男・三男以下が就くことの多かった『弁護士・医師・将校・官僚』などが擬似的なジェントルマン階級として次第に承認されるようになる。

帝国主義の時代には経済力のある貿易商・植民地の農園経営者・金融関係者も擬似的なジェントルマンに加えられていった。ジェントルマン的職業とされた弁護士・医師・将校・官僚などは、現代の先進国においても学歴・社会的地位・所得の高い仕事(中流階層の中での職業的な成功者)として評価されているものである。

イギリスの資本主義発展のエンジンとして『貴族階級的なジェントルマンやレイディへの憧れ』があったと書いたが、これが更に『実際の自分の身分・立場よりも上位に見られたいという欲望(見得・自己顕示・体裁)』を生み出して経済競争や消費を促していったのである。

実際の自分の身分や地位(立場)よりも良く見られたいという欲望は、『都市文化+消費文明』と非常に相性が良いものである。

特に大勢の人が集まる大都市の匿名性がファッション文化と結びつくことによって、『良い服装をすれば見栄えが良くなる(実際よりも階層が高く見られる)というファッション市場の消費の動機づけ』が高まっていき、次第に誰もが自由に自分の着たい服を着ることで『服装・身なりによる身分制秩序(見た目の服装や外見から誰がどんな身分の人かわかる指標)』を崩壊させていったのである。


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