小保方晴子『あの日』の書評1:小保方氏の学生時代と再生医療への興味

STAP細胞問題と研究不正疑惑で話題になった小保方晴子さんの自伝的な著作だが、『生命科学・多能性幹細胞(万能細胞)』についての専門的な知識や具体的な実験手法の説明にも多くのページが費やされている。

生命科学の生物実験の具体的プロセスの描写などは決して読みやすい内容とは言えない。専門用語の予備知識や科学実験の経験のない人が読んでもスムーズに理解できるものではないが、再生医療分野の科学者(研究者)としての自己アイデンティティーの原点や動機づけを再確認したいという思いが滲む内容になっているように感じた。

小保方さんが生命科学・再生医療に興味を持つようになった最初のきっかけは、小学生・中学生時代の親しかった友人が現代医療では治癒できない難病の『小児リウマチ』に罹患していたことだという。病気の理不尽さに立ち向かう力の希求が、再生医療研究を推進する分野への転向にも影響している。多能性幹細胞の作成・分化・応用(治療への利用)を行っていく再生医療分野は、正に現代医療の限界を超えてパラダイムシフトを起こすことが期待されている分野である。

都内最難関の国立大学付属高校の受験に失敗して、不本意な滑り止めの高校に入学した彼女は、指定校の推薦入試枠(AO入試)で『早稲田大学の応用化学科』に進学する。応用科学科の学部に合格したのだが、大学進学の目的はその時点でも『難病の治療法の開発』であり、化学・工学は飽くまで医療にアプローチするための手段という認識に近かったようだ。

早稲田大学での大学生活や体育会系のラクロス部の活動の部分を読むと、小保方さんがテレビ報道で印象づけられたようなおっとりしたお嬢様研究者という感じだけではなく、文武両道で自分の肉体と精神をストイックに鍛えようとする努力家であるという印象を受ける。何となく日々を過ごす現状維持をよしとしない努力家であり、今よりも可能性のある高いステージに全力で上がっていこうとする野心家でもある。

卒業研究を目前にしても朝4時起きで(部員の中で体力的・素質的にかなり劣っていたという)ラクロス部の練習に必死に通っていたエピソードなど、目の前にある今やりたいことの目標を達成するために無我夢中で取り組めるタイプの人なのだろうとは思う。そういったひたむきに努力して食いついていく側面が、自分を引っ張り上げてくれた人脈の拡大や他者(指導者)からの支援といった幸運にも結びついてきたのだろう。

小保方さんは研究者としての能力や姿勢の良さ、人・女性としての印象の良さもあるのだろうが、研究者キャリアの中で出会う恩師・同僚のほとんどから好かれて高く評価されてきたこと(より高いステージへの引き合い・誘いが多かったこと)も、早稲田大の応用化学科からは通常はまずほとんど進む人のいない世界的な研究者のキャリアに行き着いた一つの要因であることが分かる。

卒業研究では人類の未来に貢献できる環境か医療の研究を志望していた。授業が分かりやすく、『卒業研究が一生の研究テーマになるわけではない』と言ってくれた常田聡先生の水質浄化の研究室に所属したという。

大学院修士課程に進む時に再生医療分野へと研究テーマの変更を願い出て、画期的な細胞シート作成技術の研究でリードしていた東京女子医大・先端生命医科学研究所の大和雅之先生に教えを受けるようになるが、常田氏や大和氏との良好な子弟関係がその後の小保方さんのハーバード大留学と研究者キャリアを大きくバックアップすることにもなる。

細胞を培養して医療応用が可能な細胞シートを作成する研究では、細胞を観察することによる新鮮な感動を経験したことが書かれている。『人間を含む生命体は、こんなにキラキラとした美しいものの集合なのだと思うと、これまでの世界が違って見えた』と、純粋な生命科学の研究者への夢に向かって進んでいく小保方さんの率直さが伺われる。

再生医療の飛躍的な進歩に貢献する『人工的な多能性幹細胞(万能細胞)作成の夢』は、小島宏司先生との出会いによるハーバード大学留学によって急速に現実味を増していく。ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授の研究室(博士課程)に留学するため、アメリカ・マサチューセッツ州のボストンに渡航した小保方さんは、海外で初めての一人暮らしを経験することになる。

だが、アメリカでの一人暮らしの不安や慣れない英語圏の大学での研究生活の問題よりも、長年やりたかった再生医療に関連する分野で先端的な研究に取り組めるという期待・興奮が勝っており、ボストンの街並みや周囲の景色が輝かしく見えたという感想からも『これからの研究生活に対する前向きな気持ち』が分かりやすく伝わってくる。


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■書籍紹介

あの日
講談社
小保方 晴子

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