“少子化対策”と“女性の労働力活用”の一石二鳥を狙う政府と男女の人生設計:2

日本政府が少子化対策として出している政策の中心は、『女性が出産後も働きやすい環境や法律を整備すること(0~2歳の子どもを預けられる保育所を増設して都市部の待機児童を減らすこと)』『仕事と家庭・育児の両立を支援すること(男性の家事育児の参加率・育休取得率を高めて女性の負担を減らしたり、長く働き続けられる女性の職場環境を整備すること)』『子育てにかかるコストを可能な範囲で減らすこと』『出産の前提となっている婚姻率を高めること(晩婚化・未婚化を改善すること)』などである。

近代社会の少子化の原因として、以前は『女性の高学歴化による就労率・社会参加率の上昇(男性に対する経済的依存度の低下・女性のキャリア志向による晩婚化未婚化)』が指摘されることも多かったが、現在では昔のような“男女の性別役割分担への回帰”という保守的な主張は説得力を失い、『男女共同参画社会における仕事と家事育児の両立を可能にする制度的・経済的な支援』を中心にして少子化対策が語られるようになっている。

しかし、今でも少子化・晩婚化・高齢出産(不妊リスク)などを『男女双方が関係する問題』ではなく『女性の問題』として語る政治的な論調は少なからずあるし、これから子どもを出産する若い女性に『外でフルタイム(正社員)で働くよりも家で家事育児に専念したい・パートタイム(短時間労働)でも育児ができる経済力のあるパートナーを求める』という価値観の保守化(キャリア志向からの撤退)が進んでいるというアンケート調査もある。

少し前に有識者会議『少子化危機突破タスクフォース』が少子化対策の一案として出していたとされる『女性手帳(生命と女性の手帳)』は、結婚や妊娠出産、家庭構築を軸とした人生設計を考えてもらうための情報を記した女性手帳を“10~20代前半の女性だけ”に配布するということが批判された。

少子化対策としての『女性手帳』の当初の目的は、妊娠しにくくなったり先天性疾患(受精卵の遺伝的なエラー)が起こりやすくなったりする『晩婚・高齢出産にまつわる各種のリスク』を正確に啓蒙することで、出産時期の前倒しや子どもをいずれ持ちたいという女性が加齢の不妊症で子どもを持てなくなるリスクを減らすことにあったようである。

妊娠出産をする『女性の身体』に関係する問題だから、女性だけに女性手帳を配布することも妥当ではないかという意見もあるかもしれないが、結婚にしろ出産・育児にしろ『女性一人だけ』で計画して実行すべきライフイベントではなく、基本的には『パートナーとなる男性の理解・賛成・協力』も必要になってくるライフイベントである。そのため、『妊娠・出産に関係する女性の身体生理』『結婚・育児と関係する家庭構築を前提とした人生設計』の啓蒙教育を政策として行うのであれば、男女双方に対して行うのが当然であり効果もでやすいということになるのではないかと思う。

少子化の原因には、『子どもを産みたいという既婚夫婦が、子どもを産みづらい(育てづらい)という問題』と『結婚しない(結婚したくない)・結婚できないという男女が増えている晩婚化・未婚化の問題』とがあり、少子化対策には『既婚者の子どもの数の増加』『未婚者・晩婚者の結婚率の上昇(その結果としての出産数の増加)』という二つの側面があるということになる。既婚の夫婦には『フルタイムで共働きしている世帯』が増えており、安心して子どもを産んで育てるためには『保育所に入所できない待機児童の増加』の問題を解決する必要が高まっている。

子どもは幼稚園に入園する3歳くらいまでは、両親(特に母親)が子どもに手と愛情をかけて育てるべきという価値観は依然残ってはいるが、『子育てや将来設計に必要な収入の確保』『女性の職業キャリアの継続性(いったん仕事を辞めると正規雇用のキャリアが途切れてパート・アルバイトなどになりやすい)』という理由から、どちらかがずっと働かずに子育てに専従することが難しくなっている。

安倍政権は企業に『三年間の育休』を義務付けるという育児支援策を打ち出してはいるが、男性の育児休暇取得率の低さや3年間に及ぶ休業を取った後の女性のポジション復帰(復帰しやすさ・仕事能力の維持)の問題は解決が極めて困難である。現状では共働き世帯の育児支援策としては、神奈川県の横浜市が民間企業の保育所事業参入を支援して『待機児童ゼロ』を実現したような『保育所の増設・保育所運営者に対する助成・保育所設置の規制緩和』がメインになっていると言えるだろう。

現在の日本の待機児童者の数は“約2万5千人”といわれるが、少子化が進んで子どもの数が減っていても、これだけの『保育所のニーズがあるという現実(キャリア重視の女性の増加+共働きでないと安定した生活や育児を営めない世帯増加の現実)』を受け止めていかなければならない。民間企業が保育所事業に参入しやすくするための規制緩和と助成強化が基本的な対策となるが、それと合わせて『保育所の質(安全性・乳幼児のケア)の向上』『意欲と能力(責任)のある保育士の育成』というのも大きな課題になる。

現段階では、子どもを産んで育てやすい社会を実現していくことは、『女性が働きながら安心して子育てができる社会』を目指すことになっているが、これから子どもを産んでいく若い世代では、『可能であれば家事育児をメインにする専業主婦かパート程度の仕事をする主婦になりたいという希望』を持つ女性も増えており、こういった価値観・性別役割意識の保守化が『婚姻のミスマッチ(男性の所得低下によって婚姻をためらう男性と女性の増加))』を増やす恐れもある。

安倍政権は『女性の労働力の活用(結婚・出産後に仕事をやめてしまった女性の再就労)』を重要な成長戦略と位置づけており、この成長戦略は多くの先進国で『女性の就労率と平均所得の上昇』『出生率の回復』と相関していることをイメージしたものでもある。“少子化対策”“女性の労働力活用”の一石二鳥を狙う政府の目標が、保守化したり多様化したりする現代の男女の人生設計(価値判断)に上手く適合するかどうかが鍵になってくるだろう。

欧米社会では確かに女性の就労率・社会参加が高まれば高まるほど出生率も高まる傾向があるのだが、それには『シングルマザー(離婚者)の多さ・母子家庭を支える社会福祉の手厚さ』などの日本とは異なる婚姻意識や児童福祉制度の前提があるからではないかという見方もある。

男性が主に仕事で稼いで、女性は家事育児をしながら補助的な収入を得るという『保守的な価値観』も根強い日本では、まだ欧米社会ほどに『女性の自立的な労働意識・それを支える社会福祉制度』が前提になってはおらず、そもそも『母子家庭で子どもを育てることの大変さ・非嫡出子の不利益や差別偏見の大きさ』などの条件が欧米と大きく異なっているだろう。そのため、女性の就労率・収入水準が高まれば、それだけ子どもの出生数も増えるはずという見通しは、絵に描いた餅で終わる可能性もないわけではない。

もう一つの少子化対策である結婚していない人(結婚しづらい人)を結婚させる晩婚化・未婚化対策では、晩婚化未婚化(=婚姻のミスマッチ)の要因とされる『男性の平均所得の低下・男性雇用の非正規化(平均所得前後の正規雇用に比べて低所得・非正規雇用の婚姻率は有意に低くなっている)』に対処する必要もある。

ここでは『女性の労働力の活用』『男性の雇用の質(所得水準)の改善』というトレードオフ(男女の雇用のパイの奪い合い)を孕む難しい政策課題にどのように取り組んでいくかが問われることになるが、結論としては『本質的な男女平等意識の進展(対等に近い経済負担をしながら家事育児で協力する)』『保守的な役割分担への回帰』かになってくるのだろうか。

経済のグローバル化や雇用構造の急速な変化、正規雇用の保障の減少を考えれば、いずれにしても昔のような性別役割分担の家族を目指す保守反動には限界があり、『本質的な男女平等意識の進展(対等に近い経済負担をしながら家事育児で協力する)』にコミットしていく男女が増えなければ、出生数は改善しないのではないかと思う。もちろん、人生設計のモラトリアム(決断の猶予期間)の遷延や情報化社会の進展、娯楽・情報の氾濫、ライフスタイル(価値観)の多様化などによって、結婚・出産育児に積極的にコミットしない男女が増えていることも晩婚化・少子化の要因ではあるだろうが、その背景には『自信・覚悟(責任感)を持って結婚・出産がしづらい経済・雇用の要因』があることも確かである。

この記事の内容は、『前回の記事』の続きになっています。






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