野田首相の衆院解散の決断と民主党政権の総括1:マニフェスト選挙の無意味化

“近いうち解散”の実行が求められていた野田佳彦首相が、11月16日に衆院を解散して12月16日に衆議院選挙が実施される運びとなった。戦後初の二大政党制に基づいた『政権交代・民主党マニフェスト』の興奮は、民主党が政権与党として担った約3年4ヶ月の間にすっかりと冷め切ってしまった。

政権を獲った民主党は、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦という3人の首相を次々と輩出したが、首相が変わる度に『民主党マニフェストに掲げた政策』は次々に反故にされていき、菅政権の時に発生した東日本大震災の人的・経済的な痛撃によって、『社会保障・育児支援の給付政策』を中心にしていた民主党マニフェストの実施は更に不可能なものとなった。

与党の民主党議員の中には自らの地位を守るために衆院解散に強く反対する者もいたが、野田首相は『特例公債法案(赤字国債発行法案)・衆院議員定数の0増5減案(1票の格差の違憲状態の解消)・社会保障制度国民会議』と引き換えに、16日の解散をあっさりと決断してしまった。だが衆院解散を決めるや否や、次の選挙で政権を取ることが難しい『沈みかかった泥船』から逃げるかのように離党した議員もいて、民主党が政治理念に基づく党ではなく、数の力(政権交代の勢い)に乗っただけの党であることも露見してしまった。

野田首相は国民に消費増税をお願いする以上、国会議員も『身を切る改革』をしなければならないとして『比例定数の40議席削減案』を出したが、これは自民党が来年の通常国会の議論を経た上で改めて成立させたいということで否決された。

民主党政権の総括を一言で言えば、『マニフェスト選挙の形骸化・無意味化』であり、政治情勢や財政構造に応じた臨機応変な政策対応が必要であるにしても、『選挙時に約束した政権公約の中身』をすっかり変えてしまう事が政党・候補者の倫理としてどうなのかという大きな問題を残した。各政党のマニフェストを丁寧に読んでそれを元にして投票をしても、マニフェストの実現が全く確約されないのでは、『マニフェスト選挙』をする意義も必要性も弱まるからである。

民主党とはどういう理念や政策指針を持つ党なのかを最も端的に示した代表は、具体的な方策・手順はほとんど無かったものの、マニフェストをバカ真面目に実現しようとして『沖縄の普天間基地移設問題』で外交的な混乱を招いた鳩山由紀夫元首相だろう。菅直人前首相や野田佳彦首相は『鳩山的な理想主義(政治主導・官の利権削減による国民への大盤振る舞いの空手形)』を現実的な方向に修正したような役割になっていて、結果として『自民党政治との差異(実現性はともかく民主党政治の初期の利点)』を縮小する形になったとも言えるのではないかと思う。

特に、東日本大震災・福島第一原発事故の発生後には、『震災の復興事業・原発事故の補償・震災と原発事故の対応のための補正予算』『税と社会保障の一体改革のための消費税増税』が政策の前面に出てくることになり、鳩山時代の牧歌的なマニフェストの実行姿勢は、はじめから無かったもののように吹き飛ばされてしまった。民主党の支持率が継続的に低下して、野田首相の人気が低調なのは当然である。民主党に投票した有権者の多くは『鳩山的ビジョンの生活支援・理想主義の現実化』に期待していたからである。

自民党と民主党の違いとして『政官財の癒着構造の否定(政治主導)・徹底した行財政改革による財源創出(16.8兆円の無駄遣い削減)・国民への給付率の上昇(子供手当てなど)・任期内における増税の否定(行革で増税分をコストカットできる)』などを想定していたのだから、それらの全てがやっぱり実現できませんでしたとなれば、民主党を支持し続ける理由はもはや無い(自民党との目立った違いがない)という事になってしまう。

無論、民主党政権にとっては想定外の『東日本大震災・福島第一原発事故の国難』という不運があったが、その震災対応・復旧事業・東電の財政支援も含めて、民主党の政権担当能力は合格点からは遠いと判断されてしまった。マニフェストがあからさまな大風呂敷やご機嫌取りのための虚偽(大衆迎合ありき)であっては、中身のあるマニフェスト選挙の実施は覚束無い。

民主党からの離党者の続出で、政権交代時には衆院で単独過半数の大所帯だった民主党が過半数を割ってしまったが、これは来月の衆院選挙で勝てないような政権運営をしてきたという自覚があるからだろう。政権与党の構成員としての責任を放棄して、風向きを読んで離党し、他の政党に走るようでは政党人としての信義に悖るのではないかと思う。






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