違法ダウンロードの刑事罰化についてどう考えるか?3:ネットの検閲・捜査権の拡大の懸念の考察

インターネットの技術革新は総合的には、『デジタルデータ化されやすいコンテンツの量』を爆発させて、個別コンテンツの経済価値を引き下げる効果をもたらしており(よほど人気や需要、話題性のあるコンテンツなら今でも売れるのだが)、違法ダウンロードに刑罰を科すようにしたとしても、『ネット以前の時代の音楽・映像の市場規模』を回復することは原理的に出来ないようには思う。インターネット普及の“前”と“後”とでは、それくらい『コンテンツの経済価値』に対する見方がシビアになっており、『有料・無料が入り乱れる市場環境』において多くの商品やサービスを有料で売ろうとすれば、商品やサービスの魅力・質をかつてよりも格段に高めなくては売れなくなっているのである。

映像配信サービスであれば、“Hulu”のように月額980円で人気ドラマシリーズや少し古い映画を見放題にするなど、昔であれば考えられないほどの価格の安さが要求されるようになっており、DVD1枚を数千円の価格で売るようなビジネスモデルはよほどの映画マニア以外には通用しなくなっている。レンタルDVDの1枚が100~300円くらいのプライスでも、現在では割高に感じるようになってしまっているからであり、音楽配信サービスにおいてもパッケージ化された商品であるCDを『所有』するという発想から、定額制で聴きたい時に聴きたい曲を聴くといった『利用』の発想に転換してきているのである。

定額制の映像配信サービスや音楽配信サービスの場合には、『著作権侵害の違法コンテンツ』がネットのどこかにあっても契約してくれるユーザーが数多く存在しているが、それはいくら無料であっても違法コンテンツはそれがどこにあるのかを検索する手間がかかり、『自分が見たい・聴きたいコンテンツ』が必ず無料かつ安全(ウイルスに感染しない)であるとも限らないからである。“コンテンツの有料サービスの魅力”というのは、ユーザー(消費者)が利用したいと思うコンテンツに辿り着くまでのコストを引き下げてくれ、『納得できる価格』で随時利用できるといった形態になってきているが、利益率を高めて個別の商品として確実に売りたい『最新コンテンツ』については、過去よりもビジネスの軌道に乗せるのが難しくなっているのではないかと思う。

『私的違法ダウンロード刑罰化法案』にまつわる不安として上げられるのは、“インターネット社会の検閲・警察の捜査権や別件逮捕利用の拡大・個人のプライバシー侵害”などであり、何かのコンテンツを1~2回ダウンロードしただけで犯罪者になってしまうのではないかという事である。しかし、違法ダウンロードの刑罰化は著作権者による『親告罪』であるため、『すべての違法コンテンツ・インターネット全体』を24時間体制で警察が見張るというような規制では当然ない。飽くまで著作権者が『違法ダウンロードをされているようなので捜査して欲しい』という訴えを警察にしてから捜査が始まるというものなので、常時インターネット社会を検閲するというような性格のものではないだろう。

法改正による違法ダウンロードに対する摘発は、『(1)有償著作物等を、(2)著作権侵害であることを知りつつ、(3)デジタル方式で録音または録画をした場合』に成立すると法律に書かれており、この法律が刑罰を科すとしている著作権で保護されたコンテンツは、『著作物の全体』ではなく『有償著作物』に限られているので、何でもかんでも著作権侵害をしているコンテンツをダウンロードすれば摘発するというものではない。

有償著作物というのは法的に正当な著作権を保有する人物・団体が、有償(有料)で公衆に提供したり提示しているいわゆる『商品(有料で売ることを目的に作成されたもの)』であって、常識的には市販されているCDやDVDと同じコンテンツをダウンロードしてはいけないという規制なので、プロのアーティストの音楽や映画館で公開されているような映画は無料でダウンロードできないという感じに考えていれば、まずその犯罪の構成要件に該当することはないだろう。

また一切の事前通告なしに、いきなり警察が自宅に上がり込んできてパソコンや携帯端末を押収したり、アクセスログを閲覧したりという『捜査権の濫用』もできないようになっており、通常の犯罪と同じく『裁判官の捜査令状』がなければ自宅に上がったの捜査・押収はできない仕組みにはなっている。

また違法ダウンロードをした場合にもいきなり不意打ちで摘発されるのではなく、事前にIPアドレスやプロバイダー経由で個人が特定されれば、『違法ダウンロードを行なっている事実の指摘およびその違法行為をやめる旨の警告』が為される仕組みになっており、『著作権侵害であることを知りつつ、悪意を持って故意・大量にダウンロードしている人』でなければ摘発・逮捕されるような事例はそれほど出ないのではないかという見方もできる。少なくとも『インターネットの利用者全体』が、著作権法違反(私的違法ダウンロード)の容疑者になるようなナンセンスな状況を避けるための『法解釈上の工夫』は、ある程度為されているようである。

原則としては『著作権侵害を知りつつ故意(悪意)に行っている私的違法ダウンロード』を主な規制対象にしたものであり、アップロードされている著作物が合法か違法かを区別しづらい状況の場合には、犯罪の構成要件を満たさないとされているので、実際の法律運用の上では他の犯罪を犯している人の別件逮捕の恐れはあっても、一般のユーザーに対しては『直接の捜査・検挙』をほとんどしない“ザルの運用(違法性・刑罰化を強調する威嚇や抑制に留まる)”になる可能性のほうが高いようには思う。

逆に言えば、普段は摘発しないザルであるからこそ、ピンポイントで逮捕したい対象者を別件で拘束しやすいという風にも言えるのだが、それは『別件逮捕(不当な身柄拘束)・捜査権の濫用(不当な家宅捜索)』の範疇であって、『著作権侵害を知りつつ故意(悪意)・継続的に行っている私的違法ダウンロード』を規制する法律本来の趣旨とは異なった議論がまた必要になるだろう。

この記事の内容は、『違法ダウンロードの刑事罰化についてどう考えるか?2:インターネットの普及と著作権ビジネス』の続きになっています。






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