斎藤環『関係する女 所有する男』の書評5:恋愛・結婚の偶有性と男女のカップリングの仕組み

インターネットでは『悲観的な結果を予測する結婚の格言(偉人・作家の名言)』が出回っていたりもするが、斎藤環もそういった結婚の格言を幾つか紹介したり自身の離婚経験を語ったりしながら、既婚者であればこういった格言に納得したり共感したりする部分は少なからずあると述べている。

しかし、人間は幾ら結婚の失敗事例や離婚のトラブルの事例を目の当たりにしても、基本的には好きな異性がいればずっと一緒にいたいと思うようになり、その異性との関係を社会制度的に保証(税制的・社会保障的な支援も)して貰うための結婚をする可能性も高くなる。

○あらゆる人智の中で結婚に関する知識が一番遅れている オノレ・ド・バルザック

○正しい結婚の基礎は相互の誤解にある オスカー・ワイルド

○夫が妻にとって大事なのは、ただ夫が留守の時だけである ドストエフスキー

○正しい結婚生活を送るのはよい。しかし、それよりもさらによいのは、全然結婚をしないことだ。そういうことのできる人はまれにしかいない。が、そういうことのできる人は実に幸せだ トルストイ

○結婚――いかなる羅針盤もかつて航路を発見したことのない荒海 ハインリヒ・ハイネ

○結婚をしばしば宝くじにたとえるが、それは誤りだ。宝くじなら当たることもあるのだから ジョージ・バーナード・ショー

○結婚したまえ、君は後悔するだろう。結婚しないでいたまえ、君は後悔するだろう セーレン・キルケゴール

日本では非嫡出子やシングルマザーに対する法的不利益や社会の偏見も大きいことから、子どもを持ちたければ原則として結婚するしかない状況になるが、そういった条件を除いても、人間は結婚に関しては『失敗から学ぶ学習』が成立しにくい存在である。また当然ながら、すべての結婚が不幸感や虚しさ、後悔に行き着くわけではなく、特別に大きな幸福や経済的な成功はないにしても、安定した毎日の穏やかな家庭生活を幸せに感じたり、子どもの成長を見守る楽しみに十分満足しているという夫婦も数多くいるのである。

客観的に考えれば理不尽で不合理な部分のほうが多い結婚を、人はなぜするのかの理由について、本書では無意識的な幸福のイメージとしてある『男女の夫婦としての結合・子どものいる暮らし』を上げており、それらがずっと無いままに終わる人生はやはり寂しくて孤独なように感じられる人のほうが多いという事が影響しているだろう。更に、この相手(恋人)と偶然知り合って恋に落ちたという事から、ある種の運命性(必然性)を感じ取ってしまう『ロマンティック・ラブの偶有性』も人が結婚してしまう理由の一つになっている。

現実的な結婚をする理由としては、契約社員やアルバイトをしている女性(男性)だと、生涯にわたって安定した収入を得られるかどうか分からないという不安があり、『扶養や社会保険に入れてくれる夫(妻)・経済生活を支え合える伴侶』が必要になるということもあるだろう。精神的に孤独で寂しくて一人では生きていけないという心細さも結婚する理由になるが、経済的に不安で今の仕事でずっと収入を得られるか分からないという心細さも同様に結婚する理由になるのであり、昭和期までの義務的な結婚の多くも、『会社員・公務員の夫による妻子の扶養(最後まで面倒を見る生活保障)』という部分を抜きにしては語れないものであった。

厳密には男女共同参画社会の推進政策によって、『女性の高学歴化・社会進出』が進んだとされる現代においても、女性の過半は職業キャリアを段階的に築いていける正規雇用・専門職ではないので、男性が『主要な家計の稼得者としての責任(妻の補助も得ながら自分の能力で経済的に家族を守っていくとする責任)』を果たしくれるという意志表示をしないと、現実的理由から結婚できないことが多いとは言えるだろう。昭和期には『男は甲斐性・女は愛嬌』というジェンダー的な規範性が影響力を振るったが、現在においてもなお男性は稼がなければ自尊心を保ちづらく、女性は可愛らしくなければ好かれにくいというジェンダーの影響を引きずってはいる。

これが『男女のカップリングのミスマッチ』による結婚できない原因にもなっているが、近年は、男性にも女性と同じように『外見の魅力・容姿の良さ(イケメン志向)』を求める女性が増えている傾向があるとされる。男性にも『自分の容姿・見た目』が良くない(女性に好かれにくい顔立ち・スタイルである)という事で悩む人が少なからず出てきていて、男性向けの美容やエステの市場も拡大しているようである。

戦後から昭和後期くらいまでは、『男は顔(見た目)ではなく、真面目に家族のために働くかどうかに価値がある』とする意見が多数派であり一般的であったが、バブル崩壊の前後から男性の雇用情勢が悪化したり(非正規雇用の比率が高まったり)平均所得が低下したりといった経済成長期にはなかった変化が起こったこともあり、男性にそれほど強く『経済力(全面的な扶養能力)』を求めないという女性も出てきた。その代わりに、ある程度苦労してでも一緒に協力して頑張っていきたいと思える『容姿・外見を含めた異性としての分かりやすい魅力(自分の外見的な好み)』のほうを求める若い女性が増えてきたのかもしれない。

しかし、容姿の良し悪しによる評価の多くは、10~20代前半の若い時期における恋愛の格差につながることが大半であり、それ以降の結婚を前提とした恋愛・交際においては『雇用形態・給与水準・将来の見通し・扶養の責任感』といったものが影響してくることがやはり多い。恋愛・性愛の重要性よりも結婚だけを目的化した婚活においては特に『最低限の経済条件ありき』の話になってくるが、現代の結婚では“実生活・経済・扶養力”を重視するプラグマの軸と“恋愛・容姿・性”を重視するロマンティックラブの軸を巡って、異性選択が多様化している。

この記事は、前回の「斎藤環『関係する女 所有する男』の書評4:なぜ現代の若者は結婚しなくなったのか?結婚の選択性」の記事の続きになっています。






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