北海道電力・泊原発停止による原発ゼロ化と電力不足の問題2:曖昧に変化する原発再稼動のための条件

原発の運転停止を見据えて、再稼動した『火力発電所』の多くが運転開始から30~40年以上を経過しており、設備とシステムの老朽化が心配され、火力発電所が故障で急停止すると需給が逼迫している電力が不足して停電する危険も出てくる。今年の2月3日には、91年から運転を開始した火力発電の新鋭機である『九州電力・新大分火力発電所』が燃料供給系統のトラブルで緊急停止する事故(計画発電につながる恐れも出た事故)も起こっており、火力発電の故障やトラブルのリスクを十分に軽減できるかどうかもポイントになる。

また原発ゼロで火力発電の比率を増加させた場合、原油・天然ガスの輸入による燃料費の増加が年間約3兆円となり、電力会社のほぼ全てが慢性的な赤字経営に転落することから、社会インフラである電力供給網の『安定性・信頼性・持続性』の観点からは、(必要なだけの人件費削減・資産売却などをするにしても)この火力発電コスト増加による赤字経営の常態化を放置することは難しいように思う。仮に、原発ゼロで火力発電頼みの電源構成になれば電気料金の値上げは回避できないだろう。

電力需要ピーク時の電力不足及び大規模停電(一定以上の時間の停電)は、医療機関・福祉施設の空調・医療機器の停止があれば、直接的な入院患者(衰弱した高齢者)の死や健康侵害のリスクにつながる。また大口需要家である製造業の工場・冷蔵倉庫が稼動できなくなったり、小売業の店舗・保冷設備が使えなくなったりすれば、経済や雇用に与える影響も無視できず、中長期的に『電力の安定供給(経済活動を抑制しない適正な電気料金)』が実現できなければ、日本経済の産業空洞化や雇用減少を引き起こして国民の生活が圧迫されかねない。

大量のエネルギーを必要とする『電気文明社会』を、短期間で大きな支障・不満なく転換させることは現実的に不可能であり、当面は生命と経済、社会インフラ、市民生活に悪影響が出ないようにする『電力の安定供給』は、理想としての原発ゼロよりも優先されるべき課題ではないかと思う。また原子力発電所は停止させているから安全でコストも要らないというわけではなく、制御棒と冷却水の循環による『冷温停止状態』を維持するのにも電力が必要で、停止させた原発を安全に廃炉するためにも莫大な費用がかかる。

そのため、原発を停止させれば原発の危険性や管理・廃炉コストがなくなるわけではなく、電気料金が上がり経済活動が制約される中で、『原発停止後の管理・処理』を検討しなければならないという厳しい条件が課されている。原発再稼動をしないならしないで、発電をしない中での新たな問題が生まれ出てくるのであり、その問題解決のためのコストも膨大にかかってくるのである。

最大の問題は、菅政権から野田政権に移行したことで、原発ゼロ(全原発の廃炉)を最終的な目的とする『脱原発(脱原発依存社会)』を目指すのか、稼動する原発を減らしてできるだけ原発依存度を下げていく『減原発(他の代替電源を確保しながらの原発削減)』を目指すのかが曖昧になり、政治的に判断する『原発再稼動の条件』すらも二転三転して定まらないことである。エネルギー政策の責任ある舵取りをしようとする意気込みが、首相や関係閣僚から伝わってきにくいのは有権者としては不安な状態である。

原発周辺に深刻な被害を引き起こして土地と水源を汚染した福島第一原発事故の発生により、『原子力行政の規制基準・原子力発電推進派の安全神話』に対する信頼が瓦解し、菅政権においていったんは再稼動のための条件として『ストレステスト(耐性テスト)』を提示したものの、今度は一次のストレステストだけではまだ危険なのではないかという反対意見も出てきている。

本来であれば、関西電力の大飯原発、四国電力の伊方原発、九州電力の玄海原発などは全原発停止の前かその直後にストレステストを経て再稼動できるという見通しもあったのだが、九電の『やらせメール問題(佐賀県知事と九電の癒着問題)』が起こったり、大阪市の橋下徹市長の再稼動に対する激しい不信・反対があったりもして、『原発再稼動のための条件』が何なのかさえも分からなくなっている泥沼の様相を呈した。

政府のエネルギー政策の混乱は、どのような条件が揃えば原発を再稼動させても良いのか(あるいはどんな条件が揃っていても絶対に再稼動してはいけないのか)、再稼動のためには一次・二次のストレステストだけではなく住民投票なども必要なのかなどについて、どの政治家も自信を持った発言ができず、どの専門家もお墨付きを与えられなくなったことに由来しているのだろう。唯一、原発事業に雇用と経済生活、補助金を依存している自治体と直接の恩恵がある住民だけが『原発の早期再稼動』を主張して期待しているが、それは自分自身の差し迫った生活や仕事の事情があるからであり、『(原発事故の影響が及び得る地域に暮らす)第三者に対する説得力』は弱くなるざるを得ない。






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