脱原発・反原発の社会風潮の高まりと日本のエネルギー政策の転換点:2011年のニュース回顧3

東日本大震災の大津波が引き起こした『福島第一原発事故』は、政府と監督官庁、電力業界、御用学者が作り上げてきた『原発安全神話』を瞬時に崩壊させ、原子力発電の技術やインフラを世界に輸出して原子力発電を拡大していくという『原発ルネッサンス構想』をも頓挫させた。

原発行政の推進政策の中核になってきた『原子力村』という利権構造(予算・ポスト・補助金)にも強い批判が寄せられるようになり、反原発運動やコスト意識の高まりによって新たな原子力発電所の建設は不可能となり、『核燃料サイクル・プルサーマル計画』に関連する高速増殖炉もんじゅ(年間コスト約500億円とされる)の運営が維持されるかも怪しい雲行きになってきた。

福島第一原発事故とその後の脱原発・反原発のムーブメントは、いつでも好きなだけ電気が使えて当たり前という『電気文明・電化社会』の前提を揺らがせて、夏場の東京都心が『計画停電』に追い込まれるような状況も生まれ、来夏以降も『電力不足の懸念・電気料金値上がりの可能性』は続くものと見られる。大地震・大津波を想定した安全対策を施せば、今まで通り代替電源が準備できるまで原発を稼動させても良いというのであれば、『電力の供給能力』の不足は回避できるだろうが、現実的には絶対に地震・津波が起きても大丈夫とは保証できないという自治体・住民の不安もあって、『定期検査』を行った後に原発を運転停止する事態が相次いでいる。

菅前首相の判断によって停止された静岡県御前崎市の浜岡原発も、自治体と住民の反対によって再開の目途は立たないが、浜岡原発も中期的に東海・南海・東南海の連動型大地震が起こることが予測されており、その大地震に耐えるだけの安全対策が原理的に可能なのかの疑問も強いため、運転停止措置も致し方ない部分があるように思う。

しかし従来、大地震が少ない地域である九州地方の九州電力も、佐賀県の玄海原発、鹿児島県の川内原発(せんだいげんぱつ)を定期検査後に停止させており、九電管内の原発は全機停止したままの状態が続いている。九電は再び電力不足の恐れがあるとして、冬でも『5%の節電要請』を住民にしているが、一時運転再開の可能性が出ていた玄海原発も、佐賀県の古川康知事が関係したとされる『やらせメール問題(原発賛成の意見を九電の関連会社社員にメールで送らせたやらせメール)』によって再開の目途が全く立たなくなった。

原発があったほうが良いのか無いほうが良いのかの最終判断は、市民生活や産業活動を支えるだけの電気文明を維持できる『必要な発電量・代替電源』を確保した上で冷静に行うべきもので、現状では『短期的でラディカルな原発廃絶』よりも『段階的な減原発→脱原発(原発廃炉)』のほうが望ましいのではないかと思う。事故リスクの低い自然由来の再生可能エネルギーである『太陽光・風力・水力・バイオマス』の比率を増やしていき、より効率的な発電を可能にする技術革新も進めていく必要があるが、日本全体の電源の約3割を占める原子力発電の代替とするには『電力の安定供給・発電コスト』の部分で幾つかの課題が残されている。

ある程度電気料金が高くなったとしても、事故リスクや放射能汚染の可能性のない“クリーンエネルギー(自然エネルギー)”を使いたいという国民は多いと思う。実際に事故が発生した場合のコストや危険性を考えれば原子力発電の比率は段階的に減らしていき、技術的・コスト的に原発依存体質をいつかは乗り越えるべきという意見に賛成だが、現状の文明的生活の質を極端に落とさず、その『完全な脱原発のベンチマーク』を達成するには他の発電方式への設備投資や消費者(=国民)との価格面での合意に一定の時間は必要になるだろう。

昨年の『2011年度の政治・経済・国際・社会のニュース』を大まかに振り返るという目的で書き始めた記事だったが、去年もっとも大きな国内の出来事だった東日本大震災及び福島第一原発事故に関する記述はやはり長くならざるを得なかった。2012年は震災の復旧復興が進んで、東北地方の太平洋沿岸部の復興ビジョンが少しずつでも実現に移されることを期待したいし、原発事故による放射能汚染の被害を軽減させて、居住地からの避難を余儀なくされた人たちができるだけ早く帰還できるような道筋をつけてもらいたいと思う。

東日本大震災が起こった後の救急救助や捜索活動では、米軍が『トモダチ作戦』と称する大規模な支援活動を展開してくれたが、この事によって普天間飛行場の移設問題で揉めていた日米関係の緊張が緩和し、日本人の対米感情も改善することにはなった。しかし、初めての民主党政権を担った鳩山由紀夫元首相が、普天間基地移設問題について『可能であれば海外移転・最低でも県外移設』と強気で豪語し、沖縄県民に『履行される見込みのない空手形』を渡した副作用は大きく、基地移設を巡る日米の交渉は暗礁に乗り上げたままである。






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