認知療法の“認知の歪み”から見た“感情的な苦悩”:どういった考え方で気分が落ち込むのか?

認知行動療法がクライアントにとって有効に機能するか否かは、クライアントが『思考と気分・感情との直接的なつながり』を深く実感できるかどうかに掛かっているといっても過言ではなく、カウンセラーは『悲観的・自己否定的な認知』をより機能的で役に立つ認知へと修正するプロセスを支援していくことが仕事になります。

認知行動療法では自動思考記録表と呼ばれる“ワークシート”を用いて、ある出来事が起こった時に頭の中に思い浮かんでくる『自動思考』を記述して、自動思考の内容に含まれている自分を苦しませたり落胆させたりする『認知の歪み(cognitive distortion)』を特定・修正していくことになります。

『認知の歪み』そのものはうつ病の人や心理的に弱っている人だけに見られる特別なものではなく、誰でも中核的信念の認知構造によって『認知の歪み』と呼ばれる非現実的・非機能的な考え方をしてしまい、自分を否定したり嫌な気分になってしまうことはあるのです。大切なのは『認知の歪み』にできるだけ早く気づいて、早期対応として『認知の修正』を行うことであり、情緒障害や気分の落ち込み、絶望的な心境になった時に、『自分の認知に非現実的(非機能的)な歪みがあるのではないだろうか』というセルフモニタリングの動機づけを高める事だと言えます。

認知の歪みの種類と具体的な内容については、過去に書いた認知療法の『認知の歪み(思考の誤り)』とアーロン・ベックの『認知的三角形』の記事で詳述しているので参考にしてみて下さい。

以下では、うつ病の各種の精神症状(感情の悪化・気分の落ち込み・希死念慮・意欲減退など)と認知の歪みとが、どのように関係しているのかについて簡単な説明をしてみます。更に、それぞれの認知の歪みがどういった『感情的な問題』を引き起こすのかの分類をしています。

1.全か無か思考・二分法思考(all-or-nothing thinking)

自分と友人との関係は『完全に上手くいっている』か『完全にダメか』のどちらかであり、友人が自分との約束を破って他の用事を優先したことで、僕は酷く落ち込んで憂鬱な気分になり、その友人のいい加減さに対して強い怒りを感じている。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・怒り・心理的傷つき・恥辱・不安感(パニック発作)など。


2.過度の一般化(over-generalization)

何とか就職しなければならないと思い、今まで3件の会社の面接を受けてみたが、手応えがなくそっけない対応をされて落とされてしまった。そのため、『次に面接を受けても絶対に上手くいくはずがない・自分にはどこにも採用されるだけの能力がない』と思い込むようになり、就職活動や社会参加への意欲が無くなってしまった。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・怒り・無気力・意欲減退・不安感(パニック発作)など。


3.心のフィルター・選択的抽象化(mental filter)

今までずっと勉強を頑張って良い成績を上げてきた学生が、期末テストで英語・物理・歴史などで高得点を取ったのに、数学でいつもより悪い点を取ってしまったために、『自分は頭が悪くて勉強をしても成果がでない・これ以上何かを努力しても意味がない』と思い込むようになってしまった。全体的には良い点数を取っていて自分を誇れる部分がたくさんあるのに、自己否定につながる物事の悪い部分だけを選択的に取り入れてしまっている。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・罪悪感・不安感(パニック発作)・意欲減退・恥辱感・ジェラシー(夫婦・異性間の疑惑)など。


4.過大評価(拡大解釈)と過小評価(magnification and minimization)

自分の努力と実績によって会社での昇進が決まったにも関わらず、今までやり遂げてきた仕事の内容や成功したプロジェクトの実績を過小評価してしまい、『過去にした小さなミス・失敗』ばかりを拡大解釈して、『自分には重責を担うだけの能力はとてもない』と自信をなくして落ち込んでしまっている。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・不安感(パニック発作)・心理的傷つき・自己評価の低下(自信喪失)など。


5.感情的決め付け・情動的推論(emotional reasoning)

自分の気分が落ち込んでいる時には、何をしても面白みが感じられずどんなことがあっても興味を引かれないことから、『この世界にはもう自分が生きていくだけの意味がない』と思い込んでしまう。自分がイライラしている時に相手がまっとうな立場から反論したのに、『あいつは俺のことを恨んでいて腹を立てているんだ』と思い込み、その人のことが嫌いになってしまう。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・不安感(パニック発作)・心理的傷つき・怒り・人間関係の悪化など。


6.マイナス化思考・破滅的思考(disqualifying the positive)

客観的な生活に特段の問題があるわけではなく、仕事や人間関係もまずまず上手くいっているにも関わらず、『自分の人生は近いうちに破滅するに違いない・今が良くてもいずれは最悪の状況になっていく・自分には人生を楽しむだけの価値がない』といったネガティブなマイナス思考を強めていき、その結果として抑うつ感や自己無価値観にはまり込んでしまう。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・不安感(パニック発作)・自己否定(自信喪失)・恥辱感・ジェラシーなど。


7.結論の飛躍・飛躍的推論(jumping to conclusions)

現実の状況や妥当な因果関係を考慮せずに、論理の飛躍(自分勝手な思い込み)による『間違った結論の先取り』をしてしまう認知の歪み。

a.読心術(mind reading)

上司が自分に対してあまり笑顔を見せなくなったので、『上司は自分のことを嫌っており、今後は自分の仕事を公正に評価してくれないに違いない』と自分の中で強く確信してしまった。その結果として、仕事に対するやる気が無くなったり気分が滅入ったりしていて、上司の前を通る時には異常に緊張したり怒りを感じたりしてしまう。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・不安感(パニック発作)・怒り・対人関係の悪化・恥辱感・心理的傷つきなど。

b.間違った予言(the fortune teller error)

今のうつ病の症状が悪化してきているので、『きっと数年後も、自分のうつ病は回復しておらず、仕事も人間関係も最悪の状況に陥っている』という間違った予言内容に囚われている。そのため、憂鬱感が更に酷く感じられるようになり他人を信じられなくなり、未来に対して悲観的・絶望的なイメージしか抱けなくなってしまった。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・不安感(パニック発作)・自己否定(自信喪失)・恥辱感・ジェラシーなど。


8.すべき思考(should statements)

『自分は仕事において絶対にミスをせずに完璧な成果を出さなければならない』という義務感に囚われてしまい、その完全主義思考によって自分の僅かな失敗や間違いを許すことができずに、『自分は無能だダメな人間だ』と思い込んでしまうようになった。『自分が~したい』という自然な欲求や願望を感じることができなくなり、自分に対する理想と要求水準(達成目標)ばかりが異常に高くなって、自分で自分を苦しめながら無力感と自信の欠如に襲われている。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……抑うつ感・不安感(パニック発作)・自己否定(自信喪失)・無力感・怒りと焦燥感など。


9.レッテル貼り・ラベリング(labeling and mislabeling)

仕事で何回かミスを繰り返した事により、『自分は無能・不注意でダメな人間である』というレッテル貼りをしてしまい、何をやっても達成感・充実感が感じられなくなって自信も無くなってしまった。自分の意見をまっとうに批判してきた相手に対して、『あいつは頑固で鼻持ちならない奴だ』というレッテル貼りをしてしまい、その人の本心や内面を理解しようとすることができなくなり、一方的に相手に対して敵意・嫌悪感を抱くようになってしまった。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……怒り・恥辱感・罪悪感・対人関係の悪化・自己評価の低下など。


10.個人化・自責思考(personalization)

ちょっとした言葉のすれ違いや偶然の要因によって人間関係が上手くいかなくなった時に、『自分のせいで相手を不愉快にさせて怒らせてしまった』と自分だけを強く責めて罪悪感を感じてしまう。仕事が失敗したり集団で取り組んでいる課題が上手くいかなかった時に、『自分の能力が足りないから失敗してしまって申し訳ない』と、すべての原因や責任を自分だけが背負い込んでしまう。

この認知の歪みに関係する感情的な問題……罪悪感・抑うつ感・怒り・不安感(パニック)・恥辱感・自己評価の低下など。


心理的問題や感情的な苦悩が発生している時には、自動思考の中にどれか1種類だけの認知の歪みがあるというわけではなく、複数の認知の歪みがオーバーラップしている事が多いのですが、クライアントの中核的信念や性格構造によって『頻繁に用いられやすい認知の歪み』が変わってくることになります。上で分類したようにそれぞれの認知の歪みによって引き起こされやすい感情的な問題にも違いがあるので、『クライアントの性格構造(パーソナリティ)・中核的信念』『クライアントが悩んでいる感情的問題』によって肯定的な修正のターゲットとなる認知の歪みが絞り込みやすくなってきます。






■関連URI
認知行動療法における“自動思考”と“中間的信念・中核的信念”との関係性:ABC理論に基づく作用機序

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J.バビンスキーの“無意識的な観念”の作用と認知療法の“認知の歪み”の変容:抑圧による病理形成

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