短期療法(ブリーフセラピー)で重視される“時間的・コスト的な効率性”と“解決志向の戦略性”

短期療法(brief therapy)には『短期間の心理療法・カウンセリング』というイメージが持たれやすいのですが、これは無意識・夢を言語化するセッションに何年間も掛けるような古典的な精神分析に対して短いというだけで、必ずしも終結までの時間が短く回数が少ないという事を意味しません。短期療法の理想は当然にその名前が示すように『できるだけ短期間で良い効果を実感できるようにする』という部分にありますが、最終的には『時間・費用の効率性』よりも『クライアントの状態・希望』を優先するので、セッション後の心理状態の変化や希望によっては、比較的長期間の心理療法を続けることもあるわけです。

短期療法の特徴は『柔軟な時間の使い方・クライエントの希望の優先性』にあり、ポストモダンの精神分析家であるジャック・ラカンが一時期構想した『時間制限療法』のように、事前に決められたセッションの実施回数に従って短期間で効率的な心理療法に専念するというやり方とは違うのです。

短期療法はクライエントの便宜性・コスト負担に配慮した『費用対効果の追求』というコンセプトの元に発展・普及していった技法ですが、『クライエント中心の柔軟な面接構造・回数設定(非権威性)』『効果測定によるエビデンスベースドな技法(役に立つという実感性)』によって人気と需要が高まってきた部分があります。

短期療法の理念や技法、アイデアは、認知行動療法(CBT)や家族療法、問題解決志向カウンセリングにも応用されることが多く、現代ではどのカウンセリングや心理療法の技法でも『短期療法の目的志向性・戦略性・ニーズ対応性』として取り入れられたりしています。長期間に及ぶセッション(心理面接)を前提にしている精神分析(精神分析的療法)やクライエント中心療法では、『精神的な成長・人格構造の再構成・実現傾向(自己実現)の促進』といったやや抽象的で本質的な目標が掲げられやすいのですが、数ヶ月~数年以上にわたって定期的なセッションを受けて話し合いを深めるというのは、『時間的・コスト的』に大多数のクライエントには難しいという制約があります。

そのため、短期療法では『日常生活で何に困っていてどういう風に変えたいのか?誰との人間関係に悩んでいてどういう関係に近づいていきたいのか?自分自身の性格特性や気分・感情についてどういった悩みを抱えているのか?』という具体的な悩みと目的の特定を行い、できるだけ効果的にその悩みを解決していこうとする“目的志向性”が重視されています。“戦略性”というのは解決構築型のカウンセリングのプロセスの事であり、心理的問題や苦悩を過去に遡って『原因』を分析するのではなく、今・ここの時点からの生活状況や心理状態の『解決』を考えて作り上げていきます。

うつ病の意欲減退や抑うつ感、絶望感が発生して苦しんでいる時に、その症状が発生する前の時点を思い起こして、『失恋をしたから気分が落ち込んだ・重要な仕事で失敗したから意欲がなくなった・過去の子ども時代に虐待のトラウマを受けたから絶望感に覆われている』といった原因の探求を行って、その記憶を合理的かつ肯定的に整理して受容していくというのがオーソドックスな原因分析的カウンセリングの方法です。ただ過去の苦痛な記憶や悲しい体験、不満に思っている事柄を話して傾聴してもらう、共感的なフォローを受けながら理解してもらうことにも心理的な支持の効果がありますが、原因分析的なカウンセリングでは時間(回数)が長くかかる事が多くなります。

“戦略性”を重視した短期療法では、『何をしている時に抑うつ感が和らぐか・どういった認知(物事の捉え方)によって気分が改善するか・今までとは違う考え方や行動パターンを取り入れられないか』といった解決構築的なアプローチを用いていき、短期間でできるだけ何らかの変化を引き起こそうとする部分に特長があるのです。短期療法に不足しているポイントとして、『深いレベルでの人格の理解を行いにくい・過去を克服していく精神的成長を促進できない』といった事がありますが、短期療法が目的として設定するのは概ね『現時点における悩みや困難の解決・改善』だと言えます。

精神的成長や人格的変容といった課題を軽視しているのではなく、カウンセリング(心理療法)で『介入的・人為的』に精神的成長の達成を支援するより、『自然的・発達的』な環境(他者)との相互作用を経由して、できるだけ自然に達成していくことが望ましいという人間観に立っているわけです。また年齢ごとの発達段階や重要なライフイベントに関係した悩みは、その時期がやってきた時に一緒に解決法を探索していくことができるので、短期療法が広義のパーソナリティ構造の問題や精神的成長の停滞の悩みを取り扱えないという事でもありません。

精神分析的療法は本格的に腰を据えて取り組めば、人格変容や過去の言語化による受容に非常に『長い時間・多い回数』がかかるという意味で、自己の物語を紡ぎ続ける“ライフワーク”のようになることもありますが、短期療法(ブリーフセラピー)では心理療法は『目的・必要に応じた手段』としての定義が確固としており、ライフワーク的な心理療法には懐疑的なのです。

精神分析的療法のライフワーク的な物語に対して、短期療法の認知行動療法ではライフサイクルの全体を通じて症状が悪化したり悩みがでてきた時に、その都度、カウンセリングを受けるという『プライマリーケア・モデル』が提唱されています。






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