やる気を生む内的モチベーションと外的インセンティブ3:自律性・熟達性・貢献感で高まる働く意欲

前回の記事の続きになりますが、『報酬の隠されたコスト』の悪影響が起こりやすい分野は大きく分ければ二つあります。それは『ヒューリスティックな仕事』『利他的・献身的な活動(ボランティア・献血など)』であり、後者の利他的行動(無償奉仕前提の活動)においても、被災地ボランティアを有償の仕事にしたり、献血希望者に見返りの報酬を与えると、逆にそれらの活動に参加したいという人の数が減る事が社会心理学的な実験(スウェーデンの献血報酬実験:Mellstrom & Johannesson, 2008)で確認されています。

自分の能力やリソースを活用して誰かの役に立ちたい、社会問題の解決に貢献したいといった純粋な利他的行動の動機づけを持っている人は、その行動に対して報酬を与えられると『自分の利他性・貢献意識の主体性(自律性)』が不当に疎外されたように感じて、かえって利他的な行動の生起頻度が減りやすくなると推測されます。自由意志による献血にしてもそれが報酬の伴う売血になることで、よほど貧しくて生活に困窮している人(献血を仕事感覚で収入源にしたい人)以外は、善意で献血するというモチベーションを落としやすくなり、金銭と交換条件の献血に利他的行動のモチベーションを掻き立てられにくくなってしまうのです。

創造性や発想力が必要になるヒューリスティックな仕事に対して、効果的な正の強化子として報酬(インセンティブ)を与える為には、以下の2点に注意することが必要です。

1.仕事に対して事前に報酬を約束するのではなく、その仕事の成果に対して事後的に『想定外の臨時報酬』として与えるようにする。仕事と報酬の交換条件的な結びつきを弱めて、報酬の依存性の悪影響を減らす。

2.直接的な金銭報酬だけに頼らずに、『賞賛・表彰・感動・感謝』など対人的な承認感や心理的な充足感を与えるようにする。

ここまで色々な仕事の分類やケース、個人の動機づけについて考えてきましたが、外部の報酬や利益、名誉によって行動する『外発的動機づけ(extrinsic motivation)』と、内面の興味関心や価値観、楽しみ、意味づけによって行動する『内発的動機づけ(intrinsic motivation)』を比較すると、創造性や発想力、複雑な思考を必要とするヒューリスティックな仕事では、後者の内発的動機づけのほうが有効でありしかも長続きしやすくなっています。

内発的モチベーションを強化して持続させるためには、仕事内容の創造性・知的要素や生活に必要なレベルの収入、職場の良好な人間関係が必要ですが、それ以上に重要なのは『自律性(オートノミー)』『仕事の能力の向上感・自発的貢献による充足感』だと考えられています。自律性(オートノミー)というのは、自分の仕事のやり方やスピード、仕事仲間などを自分で決めるという自由裁量・自己決定のレベルであり、余りに上司や組織から雁字搦めに仕事を管理されて受動的になっていると、内発的モチベーションは大幅に低下して外部の報酬が無ければ働こうとする意欲を持てなくなっていきます。

自分で自分のことを決定する自律性を持つということは、自分の仕事に対する責任も積極的に負うということにつながりますから、自由に自分の仕事をコントロールすることは、本来的に無責任でいい加減な態度とは正反対の責任感(自律性に基づくアウトプットの責任)を強めるものでなければならないという部分もあります。また仕事そのものの適度な難易度を楽しみながら、自分の能力や知識、達成の確かな向上感を実感できる時に、人間が仕事を通して感じられる幸福感は非常に高まっていきます。

内発的モチベーションが十全に機能する時には、自分自身が選択して望んでやっているという自律性の感覚が高まり、“しなければならないこと”と“やりたいこと”の境界線が揺らいで無心にその仕事・業務に打ち込める心理状態に入っていきます。更に『自己の能力・成果・熟達度の向上』や『他者の喜び・社会貢献の影響』につながっていくことで、自己価値感の高さを伴いながら内発的モチベーションを持続的に強化していくことができるようになります。

スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックは後天的な学習や努力によって、問題解決的な知能は上昇するという『拡張的知能観・拡大理論』を提示しました。そして、この拡張的知能観を持って物事に取り組む人は、先天的に人間の知能が決定されているという『固定的知能観』を持つ人よりも、特定の技術や物事、能力について熟達(卓越)する可能性が高かったのです。C.ドゥエックは、昨日よりも今日の自分の能力・知識を高めるという熟達志向の行動パターンによって、自己評価と学習意欲を高い水準で維持できることの重要性を説いています。

自分の能力や成果の向上は、『仕事能力の熟達性』として考えることができますが、人間がある分野や業務についてどこまで上達して熟達できるかは、(スポーツ・芸術など特殊分野を除く一般的な仕事内容においては)『先天的な素因』以上に『後天的な学習・工夫・努力』が関与している割合が高くなっていると思います。またどのような分野の仕事や能力、技術・知識においても、努力をし続ければそれ以上のレベルがないというような『至高の境地(ここで終わりの地点)』に辿りつけるわけではなく、その道に熟達したどんな達人や権威であっても『熟達の究極の到達点』にまでは行き着かず、その究極の地点を目指して仕事や活動そのものに没頭できるところに、持続的な内発的モチベーションの魅力というか奥の深さがあるのではないかと感じます。






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