2010年日本の政治経済の論点3:ジュリアン・アサンジの“ウィキリークス”の思想性と影響力

民主党内部では、小沢一郎の国会招致を巡って『菅・仙石派』と『小沢派』の対立も深刻化しているが、小沢氏は法的拘束力のある証人喚問を受ける前に衆院政治倫理審査会に出席すると回答した。政治家とカネの集め方の問題は、日本が直面している政治的・経済的・財政的な危機と比較すれば末節ではあるが、国民の関心と不満は非常に強く、この問題への対応を間違えれば民主党政権の地盤は更に揺らぐだろう。

『政治とカネの問題』を巡っては、自身のクリーンさをアピールしたい菅直人首相が、小沢一郎氏に対して攻勢を強めているが、政治とカネの問題は『政局・権力闘争の趣き』がどうしても濃くなり、政治家の本務である国家のビジョンや政策の実現、国民の負託からは遠ざかりやすい。政治資金規正法違反の虚偽記載関与で強制起訴を受けると見られる小沢氏は、司法の判断を甘んじて受ける“法的責任”だけでなく、有権者の代表として自身の行為・立場について“政治的・道義的な説明責任”を果たす必要があるのではないかと思う。

日本の政権与党がリーダーシップとまとまりを失っている中、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件が発生して、国民の安全保障政策に対する関心が高まり、レアアースの禁輸や謝罪賠償要求など理不尽な反応を示した中国への不満が一挙に強まった。中国漁船が日本の巡視船に衝突してくる場面を録画したビデオが、海上保安庁職員の手によってYouTubeに流出させられたこともあり、日本の安全保障体制や機密情報の情報管理体制に大きな懸念を抱かせることにもなった。

誰もが簡単に世界に向けた情報発信ができるウェブ社会(情報化社会)では、国家・政府が一元的に機密情報を管理して国民の目線から隠蔽し続けることの難しさが浮き彫りになってきており、その現れの一つがジュリアン・アサンジが創設した匿名を維持した内部告発サイトの『ウィキリークス(Wikileaks)』である。

アメリカの外交公電25万本など機密文書がウィキリークスに流出したことで、各国政府は『政府関係者の発言・約束などに関する情報流出が、外交的・経済的・体面的な利益及び政権の運営を損ねるのではないか』という不安・怒りを募らせているが、アサンジ氏は避妊を求める女性に対して避妊せずに性行為に及んだというやや例外的な性犯罪(ウィキリークスの創設運営とこの急な逮捕との相関も指摘されるが実際は不明)で逮捕されたりもした。

オーストラリア人の元ハッカーであるジュリアン・アサンジ『情報の秘密化や大衆に対する隠蔽は、権力による陰謀・支配・横暴につながるのであらゆる公共的な情報公開は正しい』という思想を持ち、『大衆のための初めての情報機関(内部告発者の安全・権利に配慮した情報機関)』としてウィキリークスを開設したとされる。

国家権力の存立や外交関係の基盤、国民国家の枠組みが『機密情報の独占・秘密の共有による信頼』にあることを前提にすれば、ジュリアン・アサンジの不正な権力行使を完全抑止しようとするラディカルな情報公開思想の行き着く先は、『直接民主主義的な世界政府・無政府主義の終わりなき混乱と意見対立』になってしまうのではないかと思うが、大衆が直接的にすべての公的情報を得るべきだという信念そのものには妥当性もあるだろう。

実名を持つ一個人では、まともに対抗することが難しい『国家権力の不正や抑圧・企業の不正や搾取・宗教団体や各種団体の不正問題・独裁政権の人権侵害や不自由』などに対して、『匿名者の内部告発・真実の暴露・匿名集団の団結』によってプレッシャーを掛けて改善を促すというのは一つの革新的アイデアではある。

しかし秘密をばらされたくない政府や組織の必死の抵抗を招くだけでなく、またその機密情報を公開することによって戦争や内戦を生む憎悪・怒りが更に掻き立てられたり、国内の政治や国際的な外交が混乱するリスクも考えれば、『例外なく全ての情報を公開共有することが正義とする信念』が必ずしも正しいケースばかりではないかもしれない。

厳密に言えば、徹底した大衆に対する情報公開(一切の権力・組織の秘密を許さない内部告発)は、道義的・思想的・原則的には『公共的な正義』としての要素を多く持つが、『実際的な不利益・混乱』という副作用を生じる“劇薬としての危険性”も併せ持っているという事だろう。機密情報や公的部門の秘密のすべてが『悪』であると言えるのかどうかの問題もあるし、リークされる一次情報の全てをそのままウェブ上に公開していくやり方では、『内部告発すべき公共的利益につながる情報の選別・精査』が行えず、『内部告発すべきではなかったプライバシー・知的財産権に関わる情報』などもそこに紛れてしまうリスクもあるような気がする。

中国漁船衝突事件の問題に戻ると、中国は東アジア・東南アジアの周辺海域に多くの領土問題を抱えており、挑発的な違法操業をする漁船や漁業監視船を差し向けて、自らの軍事的プレゼンスを広げて海洋資源の確保を図ろうとしている。中国が譲れない『核心的利益』と呼ぶ領海は明らかに外国の主権を侵す範囲を含んでいるので、その核心的利益(拡大され過ぎた海洋権益)を日本及び周辺諸国がそのまま承認することは当然できないが、徒らに軍事緊張を高めるのではなく、中国自身に協調的なアジア太平洋地域の秩序維持に貢献する責任と自制を求めていかなければならない。






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