補正予算の執行停止による“3兆円の財源捻出”と地方自治体の反発:民主党の子ども手当て・税制改革

民主党政権は『子ども手当て・高速道路無料化』などマニフェストで公約した政策の実現のために、『補正予算の見直し』で3兆円の財源を作ろうとしている。当初は無駄遣いの削減や不要不急の事業の見直しで、3兆円規模の予算を比較的スムーズに作れると見積もっていた政府だが、『地方自治体の補正予算の執行停止に対する反発』は思いのほか強く、何とかぎりぎりまで絞り込んで2兆7500億円まで財源を捻出した状況である。

民主党の新政策の実施には総額で7兆円規模の予算が必要とされており、補正予算の執行停止で3兆円を作っても、更に22年度予算の概算要求の減額や特別会計の見直しによって、約4兆円の財源を作らなければならない。仙谷由人・行政刷新担当相は更なる補正予算の執行停止の検討を各大臣に指示しているが、巨額の補正予算を見直していけば、その予算を当てにしていた各省庁の事業や地方の事業に何らかの支障がでてくる。

地方経済の多くが『国の補助金・地方交付金』に依存している構造がある以上、国の補正予算の執行停止に対する強い反発・反対が起こるのは当然なのだが、根本的な問題は『地方自治体と地方経済の国への依存+国家財政の悪化による地方経済支援の限界』にある。この問題に対する抜本的な解決策として数十年前から出されているのが『地方分権の推進(国の財源・権限を地方に移譲する分権)』であるが、民主党はマニフェストで『地方主権の確立』を謳っている。

最終的な地方主権のグランドデザインは『国のモノは国へ・地方のモノは地方へ』ということで、できるだけ国の地方交付金や補助金を圧縮していくことで、国家財政の地方支援に必要な負担を軽減していき、地方自治体に大幅に『権限・裁量権』を移譲する代わりに、地方のことは地方の独自財源で賄うようにしてもらうということである。簡単に言えば、国は地方にお金(補助金・交付金)を今ほど回せなくなるが、地方の政治・事業にも口を出さないようにするということであり、各地方自治体の財政規模に見合った地方自治や各種事業を展開して欲しいということになる。

国が地方に無償でお金を回す限り、地方の実態と見合わない無駄な公共事業が終わることがなく、国の都合でいったん開始した巨大公共事業(ダム建設・高速道路建設・橋梁建設など)を止めることも難しくなる。こう考えると、地方に権限・財源を移譲して地方のことは地方のサイフの範囲でやってもらうことが『国の全体最適(合理的な省コスト化)』につながることは確かであるが、人口と財政力(税源規模)の大小によって、地方自治体の社会インフラや公共サービスに大きな格差が生まれるという問題も孕んでいる。

人口の少ない過疎地の町村や産業(雇用・税源)の発達していない地域では、幾ら権限と財源を国から移譲されたとしても、『地方主権』という名前に相応しい独立した地方自治や公共政策を実施することは困難だろう。今まで国の補助金・交付金による『雇用創出・財の再配分(公共事業)』に頼ってきた財政力の乏しい地方自治体の地方主権をどのようにして確立していけるのか、『均衡ある国土開発』が非効率的であるとしても、居住地による社会インフラの格差を放置していても良いのかという問題は依然として重くのしかかってくる。

権限と財源を地方に移譲するだけの地方分権を強力に推進すれば、結果として、現在以上の『都市圏への一極集中化』が加速することになり、過疎地はますます人口が減少して、都心の過密地域はますます人口が増大することになると予測される。地方主権を目的とした地方分権が、地方の実質的な衰退を招いては本末転倒であることから、地方自治体の財政状況に応じた『一定の補助金・交付金の枠組み』はやはり残さざるを得ないだろう。

一方で、政府の地方分権改革推進委員会が第3次勧告として出した保育所や特別養護老人ホームの設置基準など『892条項の義務付け・枠付けの廃止・縮小』については早急な実施が鳩山政権には求められる。保育所の屋外遊戯場の面積や保育士の配置人数など、中央集権的な『地方への義務付け・枠付け』によって、保育所の増設が進まずに待機児童が増えている問題も依然から取り上げられている。こういった実際的な国民・地方の利益につながらない形骸化した『地方への義務付け・枠付け』は縮小や廃止の方向で改革を進めていって欲しいと思う。

民主党は少子化対策の目玉として『月額2万6千円の子ども手当て』を打ち出しているが、お金だけを給付しても子どもを安心して預けられる『保育所の数』が絶対的に不足している現状を解決しない限り、共働きの世帯が増えている現状に子育て支援で適応することはできない。民主党政権は『政治主導・脱官僚依存』の原則を掲げて、今までの政府には見られなかったスピードで政治機構や予算割り当ての改革を行っているが、『子ども手当て・高速道路無料化』といった個別政策では民意が割れている部分もあり、これらの政策を暫く実施して思ったような効果が出なかった場合には、思い切った政策方針の見直しも要請されるだろう。

所得制限を行わない『子ども手当て』は、子どもを持つインセンティブを増やし育児を直接的に支援するという意味ではなかなか面白い少子化対策なのだが、『再分配後所得による貧困率』の観点からは『経済的理由で子どもを持てない夫婦・結婚できない個人』の貧困率を悪化させるのではないかという懸念がないわけではない。

子どもを持つ世帯には『実質的な減税効果』があるとしても、非正規雇用の増加や未婚化の進展といったトレンドを考えると、『子ども手当てによる再分配効果』が今まで経済的事由(雇用所得の問題)で子どもがいなかったり結婚できなかったりした個人に、子どもを持たせるだけの効果を及ぼすかは微妙である。結婚・出産育児といった入り口に立たせるための支援策としては、子ども手当てはほとんど役に立たないことから、ある程度強力な『雇用対策・職業訓練』とセットで『子ども手当て』を実施しなければ、本質的な少子化対策として子ども手当てが機能しにくいという面はあるだろう。

民主党は11年度から子ども手当を完全実施(10年度は半額)するために、『配偶者控除・扶養控除』を廃止する予定だったが、10年度はとりあえず38万円の『扶養控除』が廃止される見通しを示している。配偶者控除も近い将来に廃止されるとすると、子どものいない夫婦だけの世帯の負担は重くなるので、その税負担を上回る子ども手当てを得るために、子どもを産む夫婦が増えるのではないかというのが民主党の目算になっているのだろう。

子ども手当てをはじめとする民主党の諸政策の恒常的な財源を準備するために、新政府税調による『税制改革』の論議もこれから本格化してくる。最大の争点は『消費税の増税』だろうが、鳩山首相が4年間は消費税を上げないと明言していることから、今後4年間はどちらかというと景気対策の意味も込められた減税基調で進むことになるのではないだろうか。今でている2010年度の税制改正では、既にガソリン税の暫定税率の廃止や中小企業の法人税率の引き下げ、租税特別措置の見直しといった減税が示唆されている。

民主党が格差是正につながる税制改革の目玉に据えているのが、所得税の減税と給付金の支給を組み合わせた『給付付き税額控除』であり、これは正確な所得を補足した上で最低限度の所得に達しない部分を給付金の形で給付するというものである。実際にどんな制度として運用されるのかは全く分かっていないが、基本的には勤務実態の分かりやすい『常勤(フルタイム)の被用者』に対して給付されるものなのではないかと推測される。

短時間のアルバイトやパート、勤務状況が確認できない自営業・自由業まで含めると、短い勤務時間や少ない日数で所得を少なくすれば給付金が受け取れることになるので、フルタイムとパートタイムの実質的な差が無くなってしまうからである。

極端な例でいえば、年間の最低所得が120万円と設定される場合に、1年のうち半年だけアルバイトをして50万円を稼げば、残りの70万円を給付されるということになるので(勤務日数が少なければ少ないほど給付金が多くなれば不公正という批判が強まるので)、『給付付き税額控除』が実施されたとしても、フルタイムの被用者として1年間働いた人にしかその恩恵は無いように思われる。自営業・自由業の場合には赤字になることや開店休業に近い業者(個人)もあるので、自営業まで適応対象を広げると給付金の支給規模が大きくなり過ぎるだろう。あるいは、細かな最低所得の設定が設けられていて、上記のような例でも『月割りの最低保障金額に満たない部分(数万円程度)』を給付金の形で受け取れるのかもしれないが。

民主党が消費税以外の税金で『増税』の姿勢を見せているのは、タバコ税・酒税といった物品税、地球温暖化対策のために新設予定の環境税、扶養控除・配偶者控除の廃止という実質的増税などである。税制論議は国民生活に直結する部分でもあるので、『各政策の効果』を見極めながら、国民生活を圧迫せず格差を拡大しない適正な税率設定で税制改革を進めていって欲しいと思う。










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■書籍紹介

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