H.S.サリヴァンの対人関係論的なパーソナリティ理論とカレン・ホーナイの神経症的葛藤に基づく性格分類

H.S.サリヴァンは対人関係における社会的相互作用を重視したことから『対人関係学派』に分類されるが、社会的・文化的要因を中心にして精神活動を分析しようとした『新フロイト派(ネオ・フロイディアン)』としても知られる。新フロイト派の代表的な分析家・学者としては、女性精神分析家で対人関係における葛藤の処理を考察したカレン・ホーナイ(Karen Horney, 1885-1952)や、精神分析と社会学を融合させてファシズム(ナチズム)を分析し『自由からの逃走』を書いたエーリッヒ・フロム(Erich Fromm, 1900-1980)がいる。

サリヴァンは精神活動や精神病理のメカニズムを『対人関係論』によって解き明かそうとしたが、パーソナリティ(人格特性)についても従来のスタティック(静態的)な類型論・特性論を否定して、対人関係に基づくパーソナリティ理論を構想した。即ち、対人関係における『特徴的な行動・反応パターン』や人間関係を通した『基本的な自己認識・他者理解・内的幻想』によって人間のパーソナリティ(人格特性)をダイナミック(動態的)に分類しようとしたのである。

他者とどのように関わろうとしているか、自己や他者に対してどのような基本的認識を持っているのか、人間関係に対してどのような空想や価値認識を抱いているのか、という『対人関係論的な視点』を無視したパーソナリティ理論(性格理論)に臨床的な意味はないとサリヴァンは見なした。性的欲動によって他者との関係を求めていく『リビドー仮説(性欲理論)』を批判したサリヴァンは、人間の基本的欲求をシンプルに『安全への欲求』『満足への欲求』の二つに分けて考えた。サリヴァンの欲求説は、人間の欲求を5段階に分類整理したアブラハム・マズローの欲求階層説よりもシンプルな考え方であり、人間が心身の健康を維持して生きるために必須の欲求を絞り込んでいる。

『安全への欲求』とは、他者から自己存在が承認されていて守られているという心理的な安全保障を求める欲求のことであり、『満足への欲求』とは、食欲・睡眠欲・性欲など身体的(生物学的)な要請を満たそうとする本能に根ざした欲求のことである。

生存を維持して子孫を残すための『満足への欲求』は一次的欲求であり、自己存在を他者の承認によって補強して存在意義や安心感を実感するための『安全への欲求』は二次的欲求であるが、『安全への欲求』よりも上位階層にあると想定されるマズローの自己実現欲求やユングの個体化については言及していない。他者と区別される自分固有の特性を発現して、自己の潜在的能力を開花させることで、利己的欲求と社会貢献(価値の実現)を統合しようとする『自己実現・個体化のプロセス』は生活環境や社会文化的要因に影響される部分が大きく、各文化圏に生きる万人に共通する普遍的欲求とまでは言えないという認識がサリヴァンにはあったのかもしれない。

新フロイト派(ネオ・フロイディアン)の女性分析家カレン・ホーナイも、『他者との関わり方・意識化できない神経症的葛藤』に基づくパーソナリティ理論(性格理論)を考察している。『葛藤(コンフリクト)』というのは二つ以上の欲求がせめぎ合う不快な心理状態であり、クルト・レヴィンがどちらの欲求を選択(回避)するかによって『接近―接近型・接近―回避型・回避―回避型』の葛藤タイプを分類しているが、カレン・ホーナイの言う神経症的葛藤というのは『何を欲求しているのか・何から逃げたいと思っているのか』を自分で意識化(自覚化)することが困難な無意識的かつ強迫的な葛藤のことである。

カレン・ホーナイは神経症的葛藤に対する対処法略として『人々に対して動く・人々のほうに動く・人々から離れる』という3つの行動パターンを挙げ、それぞれに対応するパーソナリティとして『自己主張型性格(assertive type)・追従型性格(compliant type)・遊離型性格(逃避型性格, withdraw type)』を定義している。

『自己主張型性格(assertive type)』というのは外向的かつ積極的な性格傾向であり、他者との衝突や対立を恐れずにアグレッシブに自分の意見(考え)を主張して、現実的な問題の解決を図ろうとする特徴がある。自己主張型性格の人は、一般的に自己評価(自己肯定感)が高くて競争心が強く、自分の能力や行動によって能動的に目的を実現しようとする。自分の抱えている問題状況を『自分の能力・行動・努力』で何とか打開できるという自信があるので、問題解決能力や社会適応能力は平均以上に高い。一方で、自分の感情や内面に関しては無関心なことが多く、自分が受けている精神的ストレスや内的葛藤に無自覚なために、心身症を誘発するアレキシシミア(失感情言語症)の状態になりやすいとされている。

『追従型性格(compliant type)』というのは、他者との対立や差異を回避しようとする同調的(調和的)かつ消極的な性格傾向であり、社会的な価値観や大多数の意見、常識的な考え方に従うことで心理的な不安・緊張を解消しようとする特徴がある。追従型性格の人は、一般的に自己評価(自己肯定感)が平均レベルかやや低く、集団の中でできるだけ目立たないようにして、大多数の意見や空気に同意することで自分の立場を守ろうとする。自分自身の欲求や目標によってアクティブに行動するというよりも、自分に与えられた役割・義務を真面目にこなしたり、他者(所属する集団)の自分に対する役割期待に応えることが人生の主要な課題となっている。

『遊離型性格(withdraw type)』というのは、対人関係から受ける緊張・ストレスを回避するために、他者・集団からできるだけ遠ざかって関わらないようにしようとする逃避的かつ内向的な性格傾向であり、自分が他人(集団)に何も求めない代わりに、他人(集団)が自分に何かを求めることに対して強い抵抗を見せる。

自分だけの内的世界や閉じた少人数の人間関係の中で穏やかにマイペースで生きたいという欲求が強く、競争の勝利や社会的な成功などには全く関心がないが、非社会的行動(ひきこもり・対人場面の回避・集団行動の拒絶)が強くなり過ぎると通常の社会生活・職業活動に適応できなくなることがある。遊離型性格の人は、一般的に自己評価(自己肯定感)がかなり低くストレス耐性も低いので、対人関係や集団生活の場面では人並み以上の精神的ストレスや居心地の悪さを感じやすいという特徴がある。

ハリー・スタック・サリヴァンも対人関係論をベースにしたパーソナリティ理論で、DSM‐Ⅲ以降の人格障害(パーソナリティ障害)の分類とも一定の相関を持つ以下のような『10種類のパーソナリティ障害(性格形成の発達的障害)』を挙げている。

H.S.サリヴァンは精神科医としての臨床活動にその人生の大部分を捧げたので、自らが書いた著作はほとんどないのだが、このパーソナリティ障害の分類については『現代精神医学の概念(みすず書房・中井久雄訳)』の中で解説している。最近のパーソナリティ障害の著作では、矢幡洋『パーソナリティ障害(講談社選書メチエ)』においても、H.S.サリヴァンの10種類のパーソナリティ障害の概略が説明されている。サリヴァンのパーソナリティ障害の分類には現代では倫理的問題がありそうなやや過激で不適切な命名も見られるが、それぞれの性格傾向や人格構造の主だった特徴が直感的に分かりやすいという利点がある。

1.関わりあいのない人……他者と人間関係を持ちたいという欲求が乏しく、他者とのコミュニケーションによって得られる満足感も少ない性格傾向で、できるだけ他者と関わりあうことが必要な社会的場面や持続的な人間関係を避けようとする。現実社会や対人関係と切断された自分の内的世界の充実やプライベートな目標の探求などに価値を見出す。DSM‐ⅣでクラスターAに分類されている『統合失調質人格障害(分裂病質人格障害)』と部分的な共通点を持つ。

2.自己耽溺者……幼児的な全能感や魔術的な思考が去勢(脱却)されておらず、何でも自分の思い通りになるという空想的な有能感や無根拠な自信にうっとりと耽溺できる性格傾向である。極度のナルシストであり夢想的な自信家であるため、自己の欲求を充足するために必ずしも他者との対人関係を必要としないが、実際に他者と関わる時には自己中心的で尊大な態度を示すことが多く、通常の対人関係を安定的に維持することは困難である。DSM‐ⅣでクラスターBに分類されている『自己愛性人格障害』『境界性人格障害』と部分的な共通点を持つ。

3.救いがたい連中……強い者には従属的であり、弱い者には攻撃的という卑屈な性格傾向で、『自分の劣等コンプレックス(精神的な屈辱感・敗北感)』を憂さ晴らしするために自分より弱い者の粗探しやバッシングに終始している。自己肯定感や自尊心が過度に低いために、絶対に自分が優位に立てる状況や相手の落ち度を見つけて、激しくバッシングしたり誹謗中傷することで自己肯定感を補償しようとする。DSM‐ⅣでクラスターBに分類されている『反社会性人格障害』と部分的な共通点を持つ。

4.あまのじゃく症候群……他人の意見や集団の決定、社会の常識・ルールに対してどんなことでも『反対・否定・揚げ足取り』の意志表示をする性格傾向で、天の邪鬼として批判的な態度を続けることで周囲の注意・関心を集めようとしている。他人(社会)から自分が認められないという思い込みが強く自己評価が低いので、あらゆる主張や意見、決め事に殊更に反対することで、周囲の注目を集めて自己の存在感・影響力を喧伝しようとする傾向がある。DSM‐ⅣでクラスターBに分類されている『演技性人格障害』と部分的な共通点を持つ。

5.吃音者症候群……吃音(どもり)という神経学的・心理的な発声障害とは直接の相関は無い。言語的コミュニケーションを『意志伝達・相互理解・共感』といった一般的な目的のために用いず、『他者のコントロール・侮辱・威圧』のために用いることが多い性格傾向である。相手が返事をすることができないことを予測した『意地悪な質問・ダブルバインドの質問』をすることで、相手が言葉に詰まってなかなか返事ができない状況に対して優越感や支配感を感じる。俗に言う『攻撃的傾向を強く持つ論争好き・論破好き』が吃音者症候群に近い。
6.野心一本槍型……自分の野心や欲望を満たすために、冷淡かつ機械的に他者を都合よく利用することができる性格傾向であり、自己中心的で共感能力が欠如しているという特徴を持つ。『他者』を自分と同じ人格や権利、感情を持つ一人の人間として認識することができず、野心一本槍型の人にとっての他者の価値は『自分にとっての利用価値があるか無いか』という一点に絞られる。目標や野心を実現するためには一切の手段を選ばないということができるので、表面的には社会適応の良い有能な経営者や成績の良い営業マンとしての生活を送っていたりもする。

家族や友人に対しても心を開いた共感的なコミュニケーションができないことが多いが、精神的な孤独や他者からの非難・恨みに対して、罪悪感を抱いたり反省をするということは基本的に無い。野心一本槍型の世界観は、現実社会は生存と成功を巡って他者と戦いあう『冷酷な競争社会(利用しなければ自分が利用される)』というものであり、その競争に勝つためには他人に配慮したり手段を選ぶ必要はないという信念がある。DSM‐ⅣでクラスターBに分類されている『自己愛性人格障害・反社会性人格障害』と部分的な共通点を持つ。

7.交際嫌い症候群……知的理解や強迫的な行動パターンにこだわっているために、他者との人間関係や社交的な活動に上手く適応することができない性格傾向で、『他者からの好意・承認』を初めから諦めてしまっていることも多い。対人場面や社交的な活動に参加するとしても、他者とのコミュニケーションを積極的・共感的に楽しむという動機づけは弱く、『他人から拒絶されない・否定されない』といった消極的・防衛的な態度で人間関係に対処していることがほとんどである。他者の言動や評価に対する過敏性があるため、『他者との交際』をできるだけ回避しようとしたり、防衛的な態度ですべての対人関係を無難にやり過ごそうとする。DSM‐ⅣでクラスターCに分類されている『強迫性人格障害』『回避性人格障害』と部分的な共通点を持つ。

8.あなた任せ型……自分の人生や活動に対する『主体的な意見・個人的な判断』を持っておらず、頼りになりそうな人や有能に見える人を見つけて、その人の判断に従っていくことを適応戦略とする性格傾向である。依存して判断・選択をお任せする相手は、個人のこともあれば集団(勤め先)のこともあるが、自分自身で物事を積極的に決めなければならない場面に遭遇すると強い不安や混乱に襲われることがある。自己評価や自信が極端に低く、『自分ひとりでは何もできないので、誰かに守ってもらわなければならない(能力のある人や組織・国家に代わりに判断してもらわなければならない)』というような基本的信念を持っている。DSM‐ⅣでクラスターCに分類されている『依存性人格障害』と部分的な共通点を持つ。

9.同性愛症候群……前思春期以降に『異性からの拒絶・否定』を過度に恐れることで、児童期以降の『同性との友人関係』にいつまでも留まろうとする性格傾向。同性愛者のように同性に対して性的欲求や関心を持っているわけではなく、心理的には異性と親しくなりたいという欲求はあるが、異性に対する自己評価の低さや拒絶の不安からコミュニケーションを取ることが極めて難しい状態にある。異性との関係に対する苦手意識・ストレスには個人差がある。DSM‐Ⅳで定義される人格障害で直接に当てはまる類型はないが、異性(他者)と関わりたいと思っているのに不安感・劣等感によって関われないという意味で回避性人格障害としての特徴を部分的に持つ。性的アイデンティティの未成熟という観点では、演技性人格障害としての特徴も指摘される。

10.長引いた青春期症候群……異性関係に対する過度の理想主義や条件の厳しさによって、自分にフィットする恋人や配偶者を選択しきれないという性格傾向であり、年齢と経験を重ねても『理想と現実のギャップ・現実的な対人関係の問題点』を受け容れて自分なりに解消することができない。実際に付き合った異性に対しては、初めの頃は自分の理想に近いものとして受け容れることができるが、少しでも自分の希望や思いと食い違う部分を見つけると、その相手との関係性を持続する意志や気力を失ってしまう。

精神的な成熟や現実吟味能力の発達に問題があることで『モラトリアム(選択の猶予期間)』の段階に留まりやすく、自己アイデンティティが拡散しやすいこともあって、相互的なコミュニケーションによる対人的な問題の解決能力が低いという特徴がある。相手の全体的な人格を公正に判断することが苦手だったり、相手の本質や感情の機微、内的な世界観に触れるような深いレベルのコミュニケーションを楽しむことが出来ない。

DSMのパーソナリティ障害の分類整理・診断基準に先駆ける病的パーソナリティの分類としては、クルト・シュナイダーの性格理論もよく知られている。










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■書籍紹介

現代精神医学の概念
みすず書房
H.S.サリヴァン

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