民主党の年金制度の改革案についての雑感2:社会保障(社会福祉)と社会保険の理念の分離を考える

公的年金(最低保障年金)は『余裕のある豊かな老後を実現する生活資金』から『老後の最低限度の生活資金』という位置づけに変質することを余儀なくされるように思いますが、『現在の可処分所得』よりも『老後の積立資金』を優先して選択したい人のために、『所得比例年金(割増部分)』も同時に整備すべきです。消費税・物品税を主とする間接税の増税によって最低保障年金の財源を確保することになるので、国民の間接税の負担は増えると予測されますが、サラリーマンの人たちにも所得比例年金に加入するか否かの『選択の自由』を持ってもらうことで、『若年層(現役世代)の可処分所得の増加・消費行動の促進』といったメリットを引き出すこともできるように思います。

現在の雇用情勢や社会保障制度のままでは、若年層(現役世代)から高齢者層(引退世代)への財の再配分の負担が大き過ぎるということもありますが、給与所得から高額の保険料を源泉徴収されることで可処分所得が減って、市場の消費(内需)が冷え込むというデメリットも大きくなっています。国民皆保険の実質的実現を全面的に『間接税方式の最低保障年金』に委譲することのメリットとして、『どの労働形態の人も老後の最低限の生活資金の不安が無くなる』ということがあり、今現在の経済生活のみに集中することができ、将来不安による買い控え(消費の抑制)が起こりにくくなるという効果は大きいと思います。

最低保障年金に『保険料方式(受給資格)』を持ち込むデメリットとしては、個人が偶発的に遭遇する各種のリスク(破産・多重債務・失業・無職・就労困難な身体疾患や精神疾患など)に対して社会的セーフティネットとして機能しないケースが一定の割合で生まれることがあり、もう一つの問題点として『公的年金と企業福祉の結合』によって個人が起業や転職、長期休暇などのリスクを取りにくくなって、ワークスタイルが単一の企業労働(劣悪・過酷な条件の労働環境)に拘束されやすくなるということです。

間接税方式で最低保障年金を運用することによって、『失業期間・長期療養期間の社会保障に対する不安』を大幅に軽減でき、企業で労働することと社会保障の給付を個別に引き離すことができるので、失業期間中も現在の生活費の工面や資格取得・教育訓練だけに集中することができるようになります。このことは『企業福祉(企業での勤続期間)』が政府が担うべき『社会福祉』を代替しているという日本の偏った社会保障制度のあり方を是正する一助とも成りますし、労働市場の活性化や流動化、(解雇・失業によって社会保障が失われないため)労働条件の改善などにも役立つ可能性が潜在的にあると思います。

企業福祉と社会福祉が一体化してしまうことの大きな問題としては、長期の失業や就業困難などによって所得を失うだけでなく、将来の社会的セーフティネットも同時に失うということがあります。そのため、『労働者の生活・福祉全般の企業への囲い込み』が極端に強くなって、当面の生活を賄う一定の貯蓄があったとしても社会保険の負担・資格などの心配があるので、『労働形態(ワーク・ライフバランス)の自由度・被雇用者の所属企業への発言力』が低いままに留まってしまいます。

公的年金の保険料を所得から強制的に天引きするという方法は、『財産処分の自由権』という観点からも好ましくなく、基本的に『税金』『保険料』の概念は分離して、後者の保険については『任意加入・任意脱退の自由』を認めるべきではないかと考えます。日本では『社会保障(社会福祉)』『社会保険』の理念上・運営上の区別が曖昧になっているので、所得からの直接的な保険料の源泉徴収に異議を申し立てるサラリーマンはほとんどいませんが、原理的には利用資格を問わずに生存権を担保するセーフティネットとしての『社会保障(社会福祉)』と保険料を支払った人だけが受給できる『社会保険(保険制度)』とは区別して考えるべきです。

そして、公的年金の基礎年金部分というのは、いずれにしてもすべての国民(受給年齢前に死亡したり、老後も自助努力で生活できる裕福な人でない限り)が受給しなければ生活できないという意味で『社会保障(社会福祉)』の理念に近く、老後の生活水準の引き上げに関わる公的年金の二階建て部分というのは、それが無くても基礎年金部分で最低限の生活ができるという意味で『社会保険(保険制度)』の理念に近いということになります。税方式にも保険料方式にも一長一短がありますが、無年金者という零れ落ちがあってはならない老後の社会的セーフティネットとして『最低保障年金』を考えれば、どうしても個人の経済・就労状態によって一定の未納が生まれる保険料方式よりも、受給資格と切り離した単独の税方式で運用することが望ましいのではないでしょうか。

税方式の最低保障年金のメリットとしては、現在問題になっている『個人の年金データの消失・削除・書き間違え』のような問題が原理的に起こりえないということ、数千万人にものぼる膨大な数の個人データを管理するデータベースの構築・運用・保守や定期的な納付記録にかかる『行政機関の事務処理コスト(情報管理コスト)』を大幅に削減できるということも挙げられます。


民主党政権で国民年金の支払いは月額5万円か

リバタリアン的に考えると、年金はすべて任意で民営化し、国は生活保障を厚くすればよい。民主党案の最低保障年金はその保障に近いように見える、というか、これって年金の問題というより、実質は税の問題なんだろう……が、ふと思い出したが、最低保障年金は、所得比例年金の保険料未納者には支給しない方針らしいので、やはり税とは違うのだろう。


社会保障や社会保険の問題ではどうしても『大きな政府』と『小さな政府』を巡る議論が起こってきやすいですが、上記の『極東ブログ』のfinalventさんが年金はすべて任意で民営化したほうが良いと書いているように、『個人の年金データを政府・行政が管理しなくて良い最低保障年金以外の割増の年金』は民間の保険会社・金融機関などに業務委託するという方法もあると思います。現在の民主党案では、所得比例年金の受給資格と最低保障年金が紐づけられていることで、漏れのない社会的セーフティネットとしての公的年金とはなっていませんが、将来的には老後の最低限の生活を賄う皆年金の最低保障年金と、それにプラスアルファする所得比例年金を分離して、後者に関しては給与所得者であっても『任意加入の社会保険』として再定義してはどうかと思います。

『広義の社会保険(年金受給資格を問う年金商品=所得比例年金)』『最低保障年金(老後セーフティネットの年金福祉制度)』を制度的に切り離すことができれば、企業福祉と区別される『国民皆年金の理念』が今までよりも実現しやすくなります。更に、『生活保護と基礎年金との格差・年金受給額の格差に対する不満・無年金(未納)の問題・年金運用の行政コストの高さ・労働市場の硬直性(企業福祉・社会保険への依存度による転職や社会人の教育・訓練のしにくさ)・天引き(強制徴収)による可処分所得の減少』など現行の社会保険方式と絡んだ各種の問題も改善するのではないかと考えます。

最後に、間接税のみに頼る最低保障年金で社会的セーフティネットを運用すると、厚生年金の折半義務が無くなる企業ばかりが得をして会社員は結果的に損をするという反論もありますが、仮に労使折半の所得比例年金の支払いが企業に義務付けられなくなって、その保険料分のコストが浮いたとしたら、そのコストを上回らない範囲で法人税も適切に増税すべきでしょう。原則的には、消費税増税のみに頼るのではなくて、公的年金のために目的税化した消費税・物品税・法人税の一部を財源として最低保障年金を運用するというのが現実的であると思いますし、任意加入となった場合の所得比例年金(割増部分)についても、通常の市場利回りに若干のプレミアムをつけるなどの重みづけが必要でしょう。










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