民主党の年金制度の改革案についての雑感1:最低保障年金と所得比例年金で負担率は上がるのか?

8月30日に迫った衆院総選挙における注目度の高い争点の一つが『公的年金制度の改革』ですが、自民党と民主党の年金制度改革のビジョン・方向性というのは意外に見えにくいと思います。現在、公的年金制度で問題になっているのは『年金財源の中長期的な確保・負担と給付のバランス・国民年金の納付率(未納率)・給付水準の維持』などであり、特に20~30代くらいの年齢層では年金そのものが貰えるのかという不安もあると思います。給付開始年齢の引き上げや給付水準の切り下げなどの問題もそこに含まれるでしょう。

年金保険料の負担に見合った将来の年金給付があるのかという懸念は、年齢が低くなるほど大きくなると推測されますが、現在の負担については『保険料の負担が重い(保険料を払えない)と感じている人』『保険料の負担額が加入する制度によって平等ではないと感じている人』も多いでしょう。そのため、自民党も民主党も中長期的には加入する制度間の不平等を是正して制度を簡素化するため、『年金制度の一本化』の方向性を打ち出しています。

特に、民主党は現行の『厚生年金・共済年金・国民年金』を負担率15%の『所得比例年金(被用者は労使折半・自営業者は全額負担)』で一本化するという政策を推進しようとしているようですが、実際にこの制度が運用された場合には雇用されているサラリーマンの負担率は据え置きで、自営業者・フリーランスの負担率は大幅に上がるのではないかと言われています。サラリーマンの場合は、現行の厚生年金の負担率約15%の引き上げが無ければ、負担額は減少する可能性があります(現在の法律では、2017年に労使折半で18.30%まで段階的に上昇することになっています)。

しかし、以下の『極東ブログ』の記事を読むと、所得比例年金の保険料が経費を引いた所得400万円で月に“5万円”にもなるという試算が出されていて、第1号被保険者は現行の国民年金保険料14,410円(将来的に月16,900円で固定)よりも大幅な値上げとなります。

民主党政権で国民年金の支払いは月額5万円か

そう言われるときついなという感覚はある。私も迂闊にも、あれ?と思ったことがあった。「極東ブログ:フィナンシャルタイムズ紙の民主党政権観」(参照)で「バカヤロー経済学」(参照)に言及し、「イメージとしては現状の社会保険料が二倍弱くらいになるということかと思う。払わない人が多いと言われている国民年金だと月額3万円くらいになるのではないか」と書いたが、二倍じゃなくて三倍の月額5万円のようだ。

もっとも民主党案では年収比によるので、年収400万円だと月額5万円ということで、年収600万円だと月額7万5000円にアップする。年収300万円や200万円だとどうだろうか、という以前にそのラインになるとけっこう貧困層に近くなり、そのあたりでようやく現状の倍くらいか。重税感というより現状の国民年金の納付にすら問題があるのに可能なんだろうか、現実離れしているような感じが改めてした。


自営業・フリーランスは一般にサラリーマン以上に所得の格差が極端に大きく、年収数千万円を稼ぐような人から100万円にも満たない人まで色々な人がいると思いますが、所得格差以上に『所得の不安定性(年度による収入の高低)』を心配している人が多いと考えられます。民主党案の『所得比例年金』では、仮に自営業で比較的高所得に当たる課税所得が1,000万円の人がいる場合、所得税(330万円)とは別に保険料を月額13万円近く(年間150万円)も支払わなければならないことになります。これだと、少なくとも所得の5~6割以上(消費税・住民税・自動車税など含め)を税金・保険料で徴収されることになり、北欧の福祉国家を超えるようなレベルの重税感を感じることになりますが、それに見合った福祉制度や公共サービスは当然今の日本にはありません。

年収1000万円なら500~600万円以上の税金・保険料を取られたって生活できるという意見はあるかもしれませんが、多くの自営業では所得の安定性を確保することが難しいので、結局前年度の所得に応じた保険料の支払い能力が無い人が多く出てくる可能性があるのではないでしょうか。何より、大半の零細な自営業者はボーナスも無く、平均的なサラリーマンよりも低所得であることが多いので、労使折半もない全額自己負担で15%という負担率は高いように感じます。

中には、富裕層とも言える従業員を多く雇えるような自営業者(店舗経営者・業務独占のスペシャリストなど)もいることは確かですが、そういった余裕のある人を自営のモデルにするのは現実的ではないでしょう。課税所得が200~400万円程度の平均的な自営業・フリーランスのモデルでは、更に可処分所得が圧迫されて重税感が高まり、運転資金比率の高い業種などでは再就職の困難な年齢で廃業を余儀なくされる恐れもでてきます。

課税所得400万円の自営業者では、所得税80万円+保険料60万円=140万円(可処分所得260万円)となりそこに住民税や国民健康保険料、自動車税なども加わってきますから、手取りが200万円すれすれにまで落ち込みます。これでは内需の拡大や消費の喚起どころか、余計にサイフの紐が固くなるばかりで、『国民の生活が第一』というスローガンを掲げる民主党が各勤労者層の生活実態に真摯な関心を寄せているかが疑問になります。

年収300~500万円台の自営業者で、今までそれなりに家族(子ども)を扶養できていた人も扶養が困難になり、将来のための保険料で現在の生活基盤が揺らぐのでは本末転倒である気もします。計算例では専業主婦である配偶者の保険料を入れていませんが、これも別途自己負担になるようなので、実際には所得の6割以上に税金・保険料がかかることになるのかもしれません。国民年金は満額(40年納付)でも6万6千円しか給付されないので、確かにそれのみで生活することは困難ですが、負担率15%の所得比例年金に税金と同じく強制加入させるというのは難しいのではないでしょうか。現在の国民年金の保険料でさえ支払えない人が相当に多くいる状況で、低所得者や失業者・無職者などをはじめとして、その何倍もの保険料を継続して支払える人が増えるとは想定しにくいと思います。

民主党の年金改革案を初めに目にした時には、『所得比例年金』『最低保障年金』との二階建ての年金で、消費税を財源とする最低保証年金で国民皆保険を実現するといっていたので、『保険料方式の所得比例年金』『社会的セーフティネットの最低保障年金』を組み合わせるのかと思っていたのですが、実際には違うようでもあります。つまり、無年金者(未納者)や低年金者の老後の生活をフォローするために『税方式の最低保障年金』を導入するのではなく、所得比例年金によって『最低保障年金の受給資格』が決まるという制度のようなので、無年金(未納・無職者)や低年金の問題が抜本的に解決されるようなものではないようです。

年金の二階部分(所得比例の割増部分)が一本化されても、年金受給資格(現行は25年以上の納付)の基本的な制度設計は変更されないので、中高年の無年金者(納付年数が受給資格に満たないと予測される人)や低年金者は最終的には最低保証年金は受け取れず、老年で働けなくなれば生活保護に依拠するしかなくなります。しかし、現状でも『国民年金の給付額』と『生活保護の給付額』の格差は不公正である(国民年金が半額程度なのはおかしい)という批判があるわけですから、公的年金制度の抜本改革をするのであれば『25年以上納付の年金受給資格』を廃止して、低所得者や無年金者は間接税を財源とする最低保証年金(民主党は月額7万円と提示)で、社会的セーフティネットを一律にかけるべきではないでしょうか。

『保険料方式』では、どうしても満額を支払った人、ある程度支払った人、全く支払わなかった人の間で、利害関係の対立が生まれやすくなり、『年金を貰う資格の有無』によって社会的セーフティネットがよりコスト(支給額)の高い『生活保護』に置き換えられる財政負担の問題が出てきます。国民生活の保護を第一に掲げている民主党は、『所得比例年金』『最低保障年金』の二本立てでいくのであれば、前者を『任意加入の割増年金(任意加入の二階部分)』として定義し、後者を『税方式による社会的セーフティネット(全国民の老後を最低限保障する基礎部分)』と切り分けることで国民皆年金の実質的施行を選択したほうが、自民党とのビジョンの差異が際立つように思えます。

会社員・公務員のサラリーマンも『所得比例年金』の強制加入をやめて、最低保障年金よりも高い年金を貰いたい人だけが入る『任意加入の年金』へと段階的に変更していくことが個人的には望ましいと考えます。給料から保険料を強制的に天引き(源泉徴収)されたくないというサラリーマンがいても良いわけですから、そういったサラリーマンの人は間接税による最低保証年金だけに頼るか、自分で『貯蓄・投資』をして老後資金を蓄えれば良いということになります。また、現在の高齢者(年金受給者)が受け取っている厚生年金・共済年金は、確定給付型(ノーリスクで給付額が約束されているタイプ)であるにも関わらず、負担に対するリターンが極端に高くなっており、そのことが年金財政の悪化にも影響しています。

そのため、年金制度改革によって創設される『所得比例年金』は、今までのように市場の平均利回りからかけ離れた極端に高い給付水準を、確定給付型(賦課方式)で設定するのではなく、元本保証型の利回り商品で運用した適正水準の給付が為されることが望ましいと考えます。元本保証のノーリスクで実際に納めた保険料よりも相当に高い年金を受け取るという今までの厚生年金・共済年金は、『人口増加・経済成長(GDP成長)・賦課方式の有効性(複数の若年者が1人の高齢者を支える)』という前提が無ければ成り立たないわけですから、人口減少社会や低成長経済(成熟経済)という今の日本の現実に合わせた給付水準(利回り)を再設定すべきでしょう。










■関連URI
“政府(強制)からの自由”を目指す古典的自由主義と“貧困からの自由”を目指すリベラリズムについて:1

国家の徴税権・統治構造の基盤にある“国民の安全・生活の保障”:税制改革と“税の中立性”の問題

「消費税16%」を求める経済同友会と格差社会における社会保障:福祉目的税化した消費税の負担と効果

トニー・フィッツパトリック『自由と保障 ベーシック・インカム論争』の書評1:労働と所得の倫理的結合

■書籍紹介

社会保険・年金のキモが2時間でわかる本
日本実業出版社
石井 孝治

ユーザレビュー:
全く基礎知識が無い人 ...
わかりやすっ! 大変 ...
20歳のときに読みた ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ






再分配政策の政治経済学〈1〉日本の社会保障と医療
慶應義塾大学出版会
権丈 善一

ユーザレビュー:
俗論と権力に組しない ...
社会保障の”常識”を ...
冷静な視点を持つのに ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ




再分配政策の政治経済学〈1〉日本の社会保障と医療
慶應義塾大学出版会
権丈 善一

ユーザレビュー:
俗論と権力に組しない ...
社会保障の”常識”を ...
冷静な視点を持つのに ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのトラックバック