ギャンブル依存症の簡易チェックシートと『損失補てんの焦燥感・刺激的興奮の追求』によるハイリスク行動

大阪市浪速区にある個室ビデオ店で15人が死亡、10人が負傷する悲惨な放火事件が起こり、46歳の小川容疑者が逮捕された。この事件にある背景として『ギャンブル依存・借金苦・家庭崩壊』『個室ビデオ店の防火管理体制の不備(個室ビデオ店の簡易宿泊所化)』が指摘されているが、人間が人生の途上で失敗したり大きな借金を背負い込む三大要因として『アルコール(及びドラッグ)・異性(女)・ギャンブル(賭博)』がある。ここでは、ギャンブル依存症(病的賭博)の問題を中心にして、依存症の病理の特徴と心理的原因について考えてみたい。

近世の昔から俗世間では『飲む・打つ・買う』は男の甲斐性(渡世人の遊び方)と喧伝されてきたものだが、一時の快楽や満足を提供してくれる『酒・博打・女(風俗)』というのは、度を越えてのめり込むと人生設計そのものを破綻させるリスクを抱えている。それらの遊びや嗜好に毎日のようにのめり込む人は、通常は堅気(勤め人)とは見なされず渡世人や遊び人といったカテゴリーで括られることも多いが、現代社会で賭け事が行われるアミューズメント施設に通い詰めている人の大半は、定時帰宅できるサラリーマンかフリーター・無職者・主婦である。

つまり、現代日本では『外見的な特徴(身なり風体)』『社会的な属性(サラリーマンか遊び人かというような類型)』からは、ギャンブルに病的にのめり込んでいるか否かということを判別することが難しいし、思いも寄らないような人がパチンコや競馬などにはまり込んで多重債務を抱えていたりもする。『あんなに真面目に何十年も働いて信頼されていた人が……・お金に困っているという話なんて聞いたことがなかったのに……』というような職場の評価を受けている銀行マンや公務員・教員が、ギャンブルで数百万円以上の借金をつくって職場の金(公金)を横領する事件なども過去に多く起こっている。

巨額横領には必ず女性(男性)かギャンブルかが絡んでいると言っても良いくらいに、人間が金銭で追い詰められる状況には『異性』『ギャンブル』への欲望が絡んでいるものである。反対に、女性問題やギャンブル、アルコール依存(暴力・浪費を伴う)がまったく関与していないケースで、決まった給与が毎月得られるサラリーマン(会社員・公務員)が、横領・背任やその他の財産犯罪(窃盗・強盗)を犯す可能性というのは相当に低いといえる。『酒・博打・女』は家庭生活を崩壊させる魔力を秘めた危うい娯楽・気晴らしとしての側面を持つが、どういうわけか一定の割合の人たちは、人生が自分の思い通りに行かなくなったり家庭生活が面白くないと感じると、『お金のかかる娯楽・遊び』の方向に流される傾向を持っているようにも見える。

自分の意志によってその娯楽・気晴らしをするかしないか(飲むか飲まないか)をコントロールできない『依存症のレベル』にまで悪化すると、『依存している行動・対象』に対しては合理的・現実的な判断をすることが基本的にできなくなる。ギャンブル依存症やアルコール依存症に陥っている人でも『自分は病理的な依存症ではないし、本当に自分や家族が追い詰められればすぐにやめることができる』という無根拠な確信や認知の歪みを持っていることが多く、精神的依存が形成されている過程では『他人の話になかなか耳を傾けない』ので有効な介入をすることが難しい。重症のアルコール依存症では精神的依存性を超えた『身体的依存性』が形成され、無理やりにお酒をやめさせようとすると手足の振戦や痙攣・吐き気・幻覚妄想などの『離断症状』が発症することがあり、医学的治療や入院による身体管理が必要なことも少なくない。

ギャンブル依存症はそういった身体症状や外見から分かる苦痛が見られず、『本人の意志の問題・金銭感覚の問題』として認識されやすいので、本人も周囲も不適応状態を作り上げる『精神疾患の一種』として毎日のパチンコ通いや競輪・競艇を捉えることができないことがある。家計を圧迫するほど多額の借金をするまでは、あるいは、借金の事実が家族に露見するまでは、毎日のようにギャンブルにのめり込むことが『病気ではない』と思い込んでいる人は少なくない。家族関係(夫婦関係)が上手くいっていない場合には、『あの人はパチンコさえしていれば大人しくしているから・家に長く居られても喧嘩になったりして迷惑だから』と配偶者・家族が暗黙裡にパチンコ通いを容認してしまっていることもあり、『家庭に居場所がないこと(家族との会話・信頼関係がないこと)』が『ギャンブルへの依存性』を更に強化してしまうこともある。

ギャンブル依存症のきっかけとなる心理的動因は『鬱積した精神的ストレスの解消』『退屈な反復される日常からの逃避』であり、初めから『金銭の獲得そのもの(働かずに稼ぐこと)』を目的にしているような人は、パチプロを自称する一部の人を除いては少ない。少額の金銭で遊ぶ適度なギャンブルは『一時的なストレス解消(気晴らし)の手段』として上手く機能することが無いわけではないが、ある一線を越えて自分の衝動性や依存性をコントロールできなくなるとギャンブルは『非合理的かつ幻想的な現実逃避の手段』となり、自分や家族の日常生活(経済生活)を破綻させてお互いの信頼関係を完全に壊してしまう。

日常的にギャンブルをしている人は、自分のやっているパチンコ・パチスロ・競馬・競輪・競艇などが依存症や病的賭博のレベルに陥っていないかを大まかに確認するため、以下のチェックシートに答えてみて下さい。


ギャンブル依存症の簡易チェックシート

1.自由に使えるお金は、すぐにギャンブルにつぎ込んでしまう。

2.ギャンブルに行きたいという衝動を抑制できず、家族などに止められると怒りの感情が湧き上がりイライラする。ギャンブルができないと家族に八つ当たりをする。

3.ギャンブルをするために数十万円以上の借金をしたことがある。

4.ギャンブルで勝ったお金を再びギャンブルにつぎ込んでしまい、ギャンブル以外のことにお金がほとんど使えない。

5.ギャンブルをするために、家の中を隅々までひっくり返してお金を探し集めたことがある。
6.自分の身なりや服装に対する関心が無くなって、ギャンブルに行けさえすればそれで満足できる。

7.仕事中でも就業後のギャンブルのことばかりが頭の中にあり、仕事への意欲が衰えた。

8.毎日の話題がパチンコや競馬などギャンブルのことばかりであり、友人関係もギャンブルに関心のある人たちに限定されてきた。

9.財布の中の“あり金全部”をギャンブルに使ってしまうことが多い。

10.家庭での会話・楽しみや自分の趣味がなく、ギャンブルしている時だけ満足感を感じることができる。

11.光熱費や子どもの学費など“支払いに必要なお金”や家族のために貯めている“定期預金”などをギャンブルに流用したことがある。

12.ギャンブルの問題を巡って家族と激しい言い争いや喧嘩に発展したり、家族を泣かせてしまったことがある。

13.ギャンブルをやめたいと思っても、自分の意志で実際に1ヶ月以上にわたってやめられたことがない。


該当項目が2つ以上……ギャンブルに深くのめり込み掛けている可能性があるので、自分の収支状況をチェックし、仕事や家庭生活に支障を起こさないように気をつけてください。

5つ以上……自分でギャンブルに関する衝動性や行動を上手くコントロールできない『ギャンブル依存症』の状況にある可能性が高いです。金銭問題が深刻になりそうだったりギャンブル以外のことに興味をもてなくなっていたりするのであれば、家族や親しい方と真剣に現状の問題を話し合い、適切な治療や心理的支援を受けることをお勧めします。

8つ以上……自分で衝動性や行動・欲求のほとんどを制御できない『深刻なギャンブル依存症』の状況である可能性が高く、多重債務の借金問題に発展することや家族間の信頼関係(経済生活)の破綻などが懸念されます。自分自身が依存症の状態にあることを自覚すると共に、適切な治療や心理的支援を受けることが必要でしょう。


ギャンブルに耽溺・依存し始めるきっかけはほんの些細な事柄であることが多く、仕事のストレスを溜め込んでイライラしている時に、ちょっとパチンコ屋に立ち寄ったら大勝ちして興奮を味わったとか、家庭生活が面白くないと感じて不満が高まっている時に、職場の友人から誘われて競馬に行きビギナーズラックで万馬券を取ったとかいうことで、『ギャンブルの興奮・陶酔・歓喜の味』を覚えてしまうことがある。それまで一度もギャンブルをしたことがなかった人ほど一度でも大勝ちすると『働かなくてもこんな簡単にお金が手に入ることがあるのか・今まで自分はこんな面白い世界を知らずに人生を無駄に過ごしていたのか』と、極端にギャンブルに対して幻想的な可能性を見出してしまうことがある。

しかし、ギャンブルへの本格的な依存性が形成されてくるのは『勝っている時』ではなくて『負けが込み始めた時』であり、『今までに負けた損失を何とかして取り戻さなくては……,早く勝ってまずは借金を綺麗に返し終えなければ……』という焦燥感や苛立ちが募るほど、賭け事に深くはまり込んで容易には抜け出せなくなる。初めの数万円~数十万円の借金の段階で、きっぱりギャンブルをやめて『借金の返済』だけに専念できれば家庭生活が破綻に追い込まれるようなことはないが、『パチンコ(競馬)で作った非生産的な借金は、パチンコ(競馬)で勝って返さなければ気が収まらない』という風に些細な損得勘定に固執しているうちに、どんどん負けが積み重ねって数百万単位まで借金が膨らんでしまうことが少なくない。

『行動経済学のリスクテイクに関する記事』でも解説したように、人間は手元のお金が増える場面では『リスク回避的』に行動し、手元のお金が減る場面では『リスク追求的』に行動する生得的な傾向性を持っている。即ち、過去の損失が殆ど無くて利益が増える時には『利益の確実性を利益の最大値よりも優先』するので、ギャンブルをしていても『大きなリスク』を取る可能性は低いということである。一方で、自分が過去にある程度の損失を蒙っている時には『損失の最小値を損失の確実性よりも優先』するので、負けの損失を重ねるほどにより『大きなリスク(借金をしての再投資)』を取って損失を小さくしようとするのである。

行動経済学的な観点からは、ギャンブル依存症が増悪する要因は『大きな利益を狙う射幸心』にあるというよりも『積み重なった損失の非合理的な補填』にあるという見方が妥当であり、『利益を目的とする射幸心』はギャンブルに初めて興味を持つきっかけの役割を果たしている。ギャンブル依存症では、ギャンブル場面で多幸感や陶酔感を感じるドーパミン系の神経伝達過程の障害(ドーパミンの一時的な過剰分泌)が指摘されることもあるが、『賭けに勝つ』ことで金銭的・心理的報酬によるオペラント条件づけが成立しやすくなり、『勝った時の感情・記憶』のみが印象に深く残ることでギャンブル行動の発現頻度が強化される。

ギャンブル依存症の形成機序と心理状態(家族関係)、対処方法などについてもまた改めて書いてみたいと思います。






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■書籍紹介

ギャンブル依存とたたかう (新潮選書)
新潮社
帚木 蓬生

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警鐘本ではあるけれど ...
ギャンブル依存の検討 ...
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