50歳代の校長(教師)と生徒(教え子)の交際とその破滅的な訣別:中年期の危機に起こる男女間のトラブル

埼玉県川口市立川口高校で、50歳代後半の校長が、交際していた元教え子の女性会社員(20歳代)に執拗に復縁を迫り、『脅迫的な文言のメール・手紙』を繰り返し送付して逮捕された。メール(手紙)だけではなく電話でも女性の交際相手に危害を加えるという内容の脅迫を行っているが、校長の学校での評判は、生徒との恋愛などをイメージさせない真面目な人物、職務に対して責任感のある校長といったもので、何処の学校にでもいる標準的な50歳代の校長(学校管理職)のイメージから大きく外れるものではない。このニュースを聞いた大半の人は、『生徒の教育と保護に責任を持つ教師としてあるまじき行為・年甲斐もなく若い女にうつつを抜かすから思わぬところで足を掬われる・何でその年齢まで真面目に学校教員として頑張ってきたのに、こんな馬鹿げた事をしてしまうのだろう』といった感想を抱くだろうし、社会常識や職業倫理の観点から見る限りは、校長(当時の副校長)が教え子と交際することは好意的に承認されるような行為ではない。

校長は2001年に県内の女子高で副校長として勤務していた時に、当時その学校の生徒だった女性と親しくなり交際をスタートさせたということだが、一般の教員と生徒との交際と比較すると校長・副校長といった学校の管理職の教員と生徒が交際をするという例はかなり珍しいのではないかと思う。自分が中学生や高校生だった時代を振り返っても、個人的に校長・教頭といった管理職の教員と親密に雑談しているような生徒は男子でも女子でも少なかったように思うが、逆に言えば日常的に生徒と触れ合う機会が少ないからこそ、当時の副校長に親しく話しかけてくる女子生徒に選択的注意が向いて特別な感情を抱きやすくなったのかもしれない。

教師と生徒との恋愛関係というのは公になるか否かは別として、昔からある程度は見られたものだと思うが、この校長の生徒との交際が破滅的な結果に終わった遠因には、年齢が30歳以上も極端に離れすぎているということも大きく影響しているだろう。教師と生徒との恋愛が禁忌(タブー)であるという原則と、人間なんだから一度好きになってしまったらどうしようもないというエクスキューズとは絶えずせめぎ合っているが、年齢が近い教員であれば生徒の卒業を待って結婚するということで、非難されていた『教師‐生徒間の恋愛』であっても社会的に承認されるということがあった。既婚者の教員がその場の欲求に任せて生徒に手を出すということは、如何なる言い訳をしても社会的に容認されることはないだろうが、一般的には、教師と生徒との恋愛関係というのは職業倫理や学校秩序の観点から非難の対象となる。

『お互いに好きになってしまったらどうしようもない(他人が当事者の異性関係に口出しすべきではない)』という意見は、同世代の生徒間や成人した男女間ではおよそ普遍的に正しいが、人生経験や判断能力、社会的責任に一定以上の差がある『教師‐生徒間』では、教師の側が公私(立場)の区分をしっかりつけるべきであり余り正しいとは言えない。生徒を教育的・倫理的に指導するという教師の社会的責任は、『教師としての自己』『私人としての自己』との厳密な区分が無くてはまっとうできないというのが原則である。『外見・性格・対話で好きになった生徒がいたらプライベートな関係を持っても良い』という認識が一般化すれば、学校機関で公私混同が増えて教育行為が成り立たなくなるし、生徒に対する平等で公正な評価に大きな疑念が生まれてくる。

学校には確かに、生徒間の恋愛につながる出会いを促進するという側面もあるが、教師が自分の気に入った生徒を恋愛対象として選ぶという行為はやはり社会的に容認されないだろう。故に、教師‐生徒間の恋愛が事後的に認められることがあったとしても、『教師の交際以前の恋愛欲求(意図)』は絶えず否定されなければならず、『気づいた時にはいつの間にか好きになっていた(生徒と交際しようという意図はなかった)』という不可抗力(判断能力の低下による主体責任の免責)が想定されることになるのである。教師は生徒を異性(性的対象)として眼差してはならないというのは、学校での自由恋愛が促進している現代においても普遍的な規範としての拘束力を持つので、仮に教師が生徒と結婚したとしても『意図的(事前的)な性愛感情の存在』は抑圧されることになる。(在学中の生徒と関係を持って)生徒と結婚した教職者が、その後も教師としての職業を続けていきたいのであれば、生徒と関係を持つ時には理性的な判断・選択の余地がほとんどなかったという『自然な情愛(純愛)の物語』でなければならないからだ。

『恋愛感情は不可抗力としての側面を持つ(恋愛感情はあらゆる情念の中で最も強く人生に大きな喜びをもたらす)』という物語は、社会の大多数によって承認されているので、倫理的・社会的に批判されやすい教師と生徒の恋愛関係であっても、(順調に結婚して)終わり良ければ全て良しとなる可能性は小さくはない。『教師‐生徒間の恋愛』が社会的に禁圧される理由には、教師‐生徒との立場の違いが不明瞭となり学校教育の秩序が失われること、すべての生徒に平等に接するという教員の職務を果たしにくくなること、教員が生徒に対して性的な眼差しをもっているということが生徒の保護の原則に反することなどが上げられる。成人の大学生になるとまた問題の性質が多少変わってくるが、高校生までの教員は、判断能力や行動制御が未熟な未成年の生徒に対する教育指導(生活指導)と安全保護の責任を負っているのであり、そこに個人的な恋愛感情(性愛感情)を含ませることが容認される余地は極めて乏しいのではないかと思う。

教師‐生徒の交際の中には終わり良ければすべて良しというパターンに行き着くものも少なくないが、冒頭に上げた埼玉県の市立川口高校の校長の場合はそうは上手くいかず、結果として、自分が容疑者になるという最悪のパターンにはまり込んでしまった。自分の公的立場を認識せず近い将来の破滅を予測できなかった校長の自業自得という意見が多数を占めるだろうが、この関係が破綻した大きな要因の一つとして“56歳”という校長の年齢も大きく関係しているように思う。これが20代や30代の独身の教員であれば、警察のお世話になるような特別な問題に発展せず、順調にその生徒と結婚していたか、別れていてもこういった脅迫行為に及ばなかった可能性が高いのではないだろうか。

50歳代の年齢で校長という立場を考えると、家庭には妻子がいて子どもが既に自立していてもおかしくない。そのため、校長と交際していた20歳代の会社員女性からすると『校長との関係性』に生産的な未来を予測できず、下手をすると自分が相手の妻から糾弾されるまずい立場に追い込まれるリスクもある。このまま、その相手と交際を続けていても自分が得られるものは殆ど何もなく、相手にとってだけ有利な関係だ(相手に都合の良い関係を維持されている)と女性が判断したのであれば、自然に別離の方向へと話は進んでいくだろう。別に好きな男性が出来たということもあり、校長への気持ちは急速に冷めていったと推測される。

相手に対する好意(執着)の強さに大きな落差が生まれ、二人の関係が修復不能(持続不可能)な状態になったことで、若い女性との交際によって支えられていた校長の脆弱な自己アイデンティティが解体して、『見捨てられ不安(対象喪失の不安)』による自暴自棄な行動に走ってしまったのではないかと思う。見捨てられ不安が高まりやすい時期というと、母親への依存心が強い『思春期以前の子ども時代』が想定されやすいが、人生の最盛期を過ぎて今までの人間関係のあり方が変化していく『中年期以降の世代』でも、自分を特別な存在として承認してくれる異性に対して見捨てられ不安が強まることがある。

異性を惹きつける相対的な魅力が低下しているという自己認知があればこそ、いったん手に入れた異性に対する執着心と依存心が強くなりやすいという側面もあるが、大きな年齢差がある場合には相手の若さに基づく『自分以外の相手とも楽しめる可能性(今以上の未来があるか無いか)』に対して排他的な嫉妬心が強まるケースも少なくない。女性の新しい交際相手への加害をほのめかす攻撃的(自滅的)な脅迫行為には、絶対にその女性と別れたくないという執着心に根ざした心理だけではなくて、これから更に老いていく自分とは対照的に、自分以外の相手を選択可能な『相手の若さ(人生の時間的展望)』に対する嫉妬・羨望の感情があるのではないだろうか。

恋愛関係を構築するということは相手と同じ土俵に乗って対等な立場に立つということだが、極端な年齢差がある場合には『相手の若さ』についていくという部分にストレスや嫉妬を感じて関係が上手くいかないことも多いし、興味関心や感受性などにズレがある場合も多いので、性的(身体的)な魅力と人格的(知的)な魅力とが一致することがなかなか無いという問題もある。年を取ることを悪い方向に解釈する見捨てられ不安が強まった場合には、年齢相応の分別や良識、自制心などを期待することは難しいし、若い相手以上に中年の自分のほうが退行的な依存心を見せることも少なくないのである。次の記事で、中年期の発達課題と精神的危機について、“性的な自我意識・年齢差のある異性関係”の観点からもう少し続きを書きます。






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