ブラウザ化するパソコンとモバイル化(携帯化)する社会、迷走するMicrosoftのウェブ戦略

ここ数年、パソコンやPDA(Personal Digital Assistant)だけでなく、パケット定額制の携帯電話を使ってウェブに長時間アクセスするユーザが増加しています。大手のウェブサイトの閲覧だけでなく、ウェブメールやブログの閲覧・更新などもモバイルに対応してきているので、コンピュータやPCのブラウザがなくてもウェブを十分に利用できるようになってきています。モバイル(携帯端末でのウェブアクセス)がウェブ利用の主流になってくると、インターネットに接続するためにパソコンを買う人の数は減るでしょう。

長期的スパンで需要の増減を考えると、耐用年数の長い消費財であるパソコンは、デザインや機能の変化が激しくその時々の流行の影響を強く受ける携帯電話よりも需要が低迷する恐れが高いと言えます。外に持ち歩くノートパソコンであれば、多少はデザインや重さを気にして買い換えの周期が早くなることはあるでしょうが、家庭や企業に据え置いて利用するデスクトップパソコンは、余ほどOSや機能が時代遅れにならない限り頻繁に買い換えるものではありません。

最近のパソコンは、買った時点でのOSやCPU、メモリの性能が相当に高くなっているので、インターネットを中心に利用する人であれば機能面で不足を感じることは殆どないでしょう。OSに限って言えば、Windows XPの時点でOSに求められる機能面の進歩は止まり、パソコンを使ってやりたいことの大半がウェブブラウザを通して利用できるようになったという意見もあります。

私自身も5年くらい前から、ウェブブラウザ(IE, Firefox)とエディタ(メモ帳)、メーラー(Outlook Express, Mozilla Thunderbird)しか殆ど使っておらず、Microsoft OfficeのExcelを時々使うくらいでマイクロソフトのソフトウェアで絶対に必要というものがなくなってきています。プロバイダから与えられたアドレスで送受信するメーラーも最近では使う機会が減っていて、GmailやHotmailといったフリーのウェブメールのほうがオフラインにあるメーラーよりも使い勝手が良いことも多いです。

検索エンジン(Google, Yahoo!)やウェブメール、ブログ、SNS(mixi, gree)、動画共有サイト(YouTube)、写真共有サイト(flickr)、オンライン・ブックマーク、ソーシャル・ブックマーク(はてなのSBM, del.icio.us)、AppleのiTMSなど各種のウェブサービスが充実してくるまでは、オフライン(デスクトップ)で動くソフトウェアを有料(シェアウェア)で購入する人も多かったと思いますが、最近では、電器店でのソフトウェア売り場は縮小されており閑散とした雰囲気さえあります。ウェブ利用の日常化と携帯電話の普及、パソコンへの関心低下に伴って、パソコンに自社のOS(Windows)とソフトウェア(Office)を組み込んで販売するというマイクロソフト(Microsoft)のビジネスモデルは先細りしていくように感じられます。

勿論、パソコンでないと実現できない作業内容や使えないソフトウェアがあり、コンテンツの作成やアップロードではパソコンのほうが便利なので、パソコンの需要が完全に冷え込むことはないと思いますがこれまでのように順調な拡大販売を継続することは難しいでしょう。マイクロソフトは、消費者に直接Windowsなどの商品を販売するB2C(Business to Consumer)のビジネスだけでなく、企業間取引のB2B(Business to Business)で莫大な利益を上げているので、個人単位の売上が多少鈍化してもマイクロソフト全体の経営が短期間で揺らぐということは無さそうですが。消費者の需要減ということで言えば、パソコンを使って特別な作業をする必要がなく、自分自身でウェブサイト(コンテンツ)を作成することに余り興味がないという「ライトユーザ(閲覧やショッピング専門のユーザ)」では、比較的高価なパソコンよりも携帯電話で気軽にウェブを利用する人が増加していくのではないでしょうか。

パソコン(OS・ソフトウェア)への関心が強かった時代は大きく変わり、デスクトップにブラウザさえあれば十分という人が増えていて、ウェブに接続するだけならパソコンよりも携帯のほうが便利だという人も少なくないわけです。当然、パソコンそのものに対する興味やパソコンのスペックへのこだわりというものも以前に比べると弱くなっているでしょう。最近のパソコンであれば、『ウェブに快適にアクセスするという目的』を達成できないものはありませんから、身も蓋もなく言えば「予算の範囲内でデザインがある程度気に入れば」どのパソコンでも構わないのです。

ウェブ体験の快適性や効率性という観点でいえば、パソコンがNECなのか富士通、SONYなのかといった違いよりも、ブラウザがIEなのかFirefoxなのかOpera、Sleipnirなのかの違いのほうが大きいわけで、CPUやHDDの容量、メモリのスペックというのは一定水準をクリアしていれば(通常のウェブ経験では)大差ありません。インターネットが余り普及していなかった時代には、パソコンに関する専門知識が豊富なユーザもいてパソコンのメーカーや機種、スペックに『付加価値』が付いたりしていましたが、今では話題になる頻度から言ってもパソコン(ハード・OS)よりもブラウザのほうにユーザの興味が移っています。更に言えば、ウェブにアクセスさえ出来ればいいということで、パソコンにもブラウザにも一切の興味やこだわりがないというユーザのほうが多数派でしょう。

どの情報端末でアクセスするのが快適かというのは個人差がありますが、一般的に長期間にわたってパソコンからウェブにアクセスしていた人ほど、モバイル接続への適応が余り良くないようです。長期のパソコンユーザは、携帯電話でのウェブ利用に『画面表示のスピード・文字の入力スピード(入力が反映されるまでの時間)・画面の解像度・利用できるサービスの制限』などでストレスや不満を感じやすく、短時間のサイトの閲覧なら問題なくても、長時間のサイト閲覧や長文の文章入力はかなり疲れるという人が多いのではないでしょうか。数百文字程度のメールを書くくらいであればさほど問題はないですが、数千文字以上のブログのエントリーを携帯電話で書こうとするとやはり文章作成になかなか集中できず作業効率も悪くなります。

パソコンやOS、ソフトウェア(アプリケーション)販売などIT業界のオフラインのビジネスの成長が鈍化すると見られ始めてから、IT企業の関心はウェブ内部で展開するビジネスに大きくシフトしています。ウェブビジネスには大きく分けて、ウェブサイト(検索エンジン)を広告メディアとして活用する『宣伝広告ビジネス』と実際に商品やサービスを販売する『ECビジネス(電子商取引)』がありますが、アクセス数やクリック率によって価値が計られる広告ビジネスの代表がGoogleYahoo!、mixiであり、売上高やコンバージョン(契約数)で価値が計られるECビジネスの代表がAmazon楽天、eBay(米国)です。

ビル・ゲイツ率いるMicrosoftは、WindowsやOffice(Word, Excel)を主力とするソフトウェア販売によってIT業界の覇者となったわけですが、Googleがシェアを拡大しているウェブビジネスの領域では宣伝広告ビジネスにおいてもECビジネスにおいても中途半端な経営判断しか下せていません。膨大な資金力と優秀な人材の層の厚さ、各種の経営資源では、MicrosoftがGoogleに圧倒的に劣っているとは思いませんが、Microsoftがウェブで展開している「MSNポータル」はいまいちトラフィックを伸ばせず「Windows Live」で提供されている検索エンジンやWebサービス(メール・ブログ・カレンダー)の評価も余り高くないようです。

Microsoftはウェブ戦略として、検索エンジンを始めとするWebサービスをパッケージングした「Live」というブランドを立ち上げたわけですが、「Live」のブランディング(ブランド価値確立)とマーケティング(利用者の増大)は今のところ失敗していると言ってよいと思います。検索エンジンの「Live Search」に関しては、インデックスと検索精度の点でまだ満足できる水準に達していませんし、GoogleやYahoo!と比較すると検索精度の高低だけでなく「イメージ検索・ブログ検索・地図検索・モバイル検索」など付帯サービスの充実度で大きく水を空けられています。ブログの「Windows Live スペース」は、カスタマイズの自由度が低いだけでなく文字が小さすぎるなどテンプレートのデザインの視認性があまり良くないので、「他のブログサービス」ではなく「Windows Live スペース」を選ぶという動機づけが働きにくいですね。

Hotmailのウェブメールやメッセンジャーは長い歴史を誇っているだけあって結構使いやすいのですが、Webサービス全般の完成度やユーザビリティ(使いやすさ)、利便性において、やはりGoogleのWebサービスの後塵を拝している印象は拭いきれません。Googleのカレンダーやメール(Gmail)、Docs & Spreadsheetsなどは、シンプルで直感的に理解しやすいAjaxのUIを準備していてユーザの利便性や効率性に貢献していますが、MicrosoftはYahoo!と比較してもWebサービスのラインナップや洗練度ではやや不足している感じがあります。

ウェブの広告ビジネスには大きく分けて、検索連動型広告とCGMを活用するGoogle Adsenseのようなコンテンツ連動型広告、アクセス数に応じた固定の広告費で契約するバナー広告がありますが、Googleは主に検索連動型広告とコンテンツ連動型広告、Yahoo!とMSN(Microsoft)は全ての広告形態、mixiは主に一定期間の契約をしたバナー広告で収益を上げています。mixiは一時期、画期的な新サービスや魅力的なアイデアが少なくなってきたことや既存ユーザの「mixi疲れ(親密なコミュニケーションに要するコストや人間関係のストレス)」が懸念されて、mixiのユーザ数やPV(ページビュー)の成長率が鈍化するのではないかという意見もありました。しかし、現在までのところ、SNS最大手のmixiは順調にユーザ数を増やしていて、3月期決算によると売上高は前年同期比の2.8倍になり、営業利益・経常利益ともに2.4倍の成長を見せているということです。


ミクシィ決算発表、売上高は前期比2.8倍--mixiユーザー数は983万人に

2007年3月期の売上高は52億4700万円(前年同期18億9300万円)、営業利益は21億8400万円(同9億1200万円)、経常利益は21億 4700万円(同9億1200万円)、純利益は11億18億円(同5億7600万円)だった。売上のうち、mixiが34億6300万円と約7割を占め、インターネット求人事業「Find Job!」は13億6700万円。

ミクシィの業績を牽引したmixi事業の2006年度通期を振り返ると、mixiミュージックやmixi動画などの新サービス追加のほか、mixi モバイルの機能向上によるモバイルユーザーの増加などが目立った。2007年5月10日現在でユーザー数は983万人(2006年3月は340万人)となり、月間PVはPCが69.1億、モバイルが40.3億の計109.4億PVに上る(2007年3月末時点)。

サイト訪問頻度や滞在時間なども好調で、1ユーザーあたりの月間滞在時間は3時間15分(ネットレイティングスが3月末に調査)。3日以内のサイトを利用するアクティブ率は約64%だった。


現在のmixiユーザ数は983万人ということで約1,000万人のユーザを抱えるまでにmixiは成長したわけですが、昨年末頃に600万人ほどのユーザ数だったことを考えると、ユーザの増加スピードはそれほど衰えていないのかもしれません。ユーザ数が1,000万人を越えて更に増加し、月間のPV(アクセス数)が現状の100億PVを維持できるのであれば、mixiは国内のSNSの中で唯一マスメディア化に成功したサービスと言えるでしょう。mixi以外にもgreeやフレパなど色々なSNSがありますが今までのユーザ動向を見る限り、SNS業界でmixiへの一極集中の流れはそう簡単に揺らぎそうにありません。3日以内にログインするアクティブユーザの比率が64%というのは予想以上に高かったのですが、mixiは個人的な情報発信の場というよりは人間関係を発展(深化)させるスペースなので、日常的にmixiを利用しないユーザは非アクティブになるより退会する確率のほうが高いのかもしれません。

月間100億PVという膨大なアクセスを誇っているmixiは固定(大手企業)の広告収入で稼げると思いますが、MicrosoftのMSNやLiveでは十分なトラフィック(アクセス数)が確保できないので、ビジネスモデルを段階的に転換させるような大きな広告出稿を取り付けることは難しいでしょう。また、今までの「Live」を基軸とするMicrosoftのウェブ戦略を見ていると、MicrosoftはGoogleが大きなシェアを獲得して独走している「ウェブ広告ビジネス(Google Adwords, Google Adsense)の分野」で市場競争を挑んで追い抜くことを目標としているようです。

しかし、現状を客観的に分析する限り、Microsoftが検索広告やコンテンツ連動型広告でGoogleのシェアを奪える可能性はほとんどなく、(米国ではAdCenterがありますが)日本ではGoogleのAdsenseに対抗できるような独自の広告プラットフォームの確立も出来ていません。バナー広告の契約で利益を上げようとするポータルサイトの構築でも、MSNの評価はYahoo!の評価に遠く及ばずウェブビジネス全般がなかなか軌道に乗ってこないという困難な状況があります。ユーザがコンテンツを作成・共有したり人間関係のネットワークを広げていったりするWeb2.0のサービスでも、MicrosoftのブログやWebサービスはユーザの強い支持を得ることができず、メールやカレンダーなどのWebサービスでGoogleへの集中が進みつつあります。

SNSの分野ではGoogleが運営しているOrkutは余り成功しませんでしたが、Googleの莫大な営業利益の源泉である検索エンジンの分野ではその圧倒的シェアを世界各国でじりじりと伸ばしてきています。日本とアメリカではYahoo!が健闘していて、日本ではYahoo!がだんとつのトップで、アメリカでは1位のGoogleと2位のYahoo!の差は拡大傾向にあるもののその差はまだ15~20%ほどです。検索エンジンのシェアに関する最新記事を見つけることが出来なかったのですが、2007年3月期のシェアについて触れた『Google、またもや検索シェアでYahoo!と差を広げる - 米調査』の記事では、アメリカでGoogleが48.3%、Yahoo!が27.5%のシェアを取っているようでその差は拡大しています。


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