第3次小泉改造内閣の発足:『ポスト小泉』候補の毛並みの良さと女性閣僚の減少

日本国憲法改正草案が自民党から提出されたのを受けて、国家の最高法規たる憲法の理念と現行憲法改正の意義について私見を述べようかと思いましたが、昨日、第三次小泉内閣が組閣されましたので新しい内閣の顔ぶれを俯瞰しながらつらつらと日本の政治の今後に関する雑感を書き留めておこうかと思います。

小泉純一郎首相は、来年の9月に内閣総理大臣の職を退くことを明言していますから、現段階で確実とは言えないもののとりあえず小泉首相がリーダーシップを発揮する小泉内閣としては最後の組閣ということになります。現段階で小泉首相の来年9月の辞任が確実でないというのは、首相自身が明言していてもそれを覆すことに法的問題がないので、仮にその時に小泉内閣の支持率が高く小泉続投論が世論の大勢を占めていれば続投も有り得るといった程度の意味合いです。

造反組への“刺客”派遣や“くの一戦法”などで世論の関心を惹き付けた前回の衆院総選挙では、劇場型選挙の波及による政治のパロディー化などの批判と同時に、従来、政治に興味を持っていなかった若年層の投票意欲(有権者意識)を喚起した功績もあると賛否両論が交わされました。

前回の解散選挙では、郵政民営化の争点をシングルイシューとして強調し、景気低迷が慢性化し国家財政が危殆に瀕している現実を憂慮した国民の多くが、財政再建と景気浮揚への期待などを込めて自公連立政権へ政権運営を託しました。

小泉首相率いる政府の基本理念の特徴は、市場の経済合理性を重視する経済政策と社会保障費の削減による「強い個人」をモデルとした社会構築だといえるのではないかと思います。
こういった個人の経済的自由を最大限に尊重する政治経済的思想潮流を、それまでのリベラル(社会福祉と折衷する大きな政府の下での自由主義)と区別してネオリベラリズム(新自由主義)と呼びます。

特に、小泉内閣における重要閣僚である竹中平蔵総務・郵政民営化担当大臣(前)はその著書からも理解できるように急進的な新自由主義者ですから、郵政民営化や三位一体改革の推進者としてのポストを絶えず与えられています。新自由主義が良いのか悪いのかという問題を一律に語ることはできませんが、その思想的概略をまとめれば『市場経済における強者(能力・気概・有利な環境のある者)にとって歓迎でき、市場経済における弱者(能力・気概・有利な環境のなき者)にとって敬遠すべき思想』という見方をするのが妥当でしょう。
最大多数の最大幸福という功利主義的な政治運営ではなく、『社会全体の利潤の最大化』と『個人の責任の明確化』、『格差是正の再分配の抑制』というのが新自由主義に基づく政治運営ではないかと思います。

公務員ではない一般の国民にとって新自由主義の影響が出てくるのは、税制改革による所得格差の拡大や社会保障予算の削減による社会的弱者への影響、広範な生活領域における自己責任の徹底、雇用支援や職業訓練ということになってくるでしょう。また、自民党が策定した憲法改正草案にも少なからず高度福祉国家の構想よりも自由経済国家の先鋭化の傾向を読み取ることができます。

今回の第三次小泉改造内閣の顔ぶれは以下のようになっています。




2005年10月31日発足 小泉第3次改造内閣メンバー

内閣官房長官 安倍晋三

総務相・郵政民営化担当相 竹中平蔵

法相 杉浦正健

外相 麻生太郎

財務相 谷垣禎一(留任)

文部科学相 小坂憲次

厚生労働相 川崎二郎

農林水産相 中川昭一

経済産業相 二階俊博

国土交通相 北側一雄(留任)

環境相 小池百合子(留任)

国家公安委員長 沓掛哲男(参院議員)

防衛庁長官 額賀福志郎

金融・経済財政担当相 与謝野馨

規制改革・行政改革担当相 中馬弘毅

科学技術担当相 松田岩夫(参院議員)

少子化・男女共同参画担当相 猪口邦子


党三役

幹事長 武部勤

総務会長 久間章生(きゅうまあきお)

政調会長 中川秀直



小泉首相自身が『今回の人事にはサプライズはないよ』と言っていたように、内閣改造の度に喧伝されるサプライズ人事という観は、今回の第3次内閣には無いように思えますが、小泉首相の目指す構造改革の路線を着実に的確に遂行していけそうな無難なメンバーが選抜されているようです。
小泉首相が改革続行内閣と位置づけているように、今回の内閣改造は『新規の改革路線に手を出すのではなく、従来の改革路線を踏襲して堅実に迅速に改革を断行する』という意味合いが強いように思えます。
その意味では、堅実な実務処理に長けた人物、政権運営に慣れた人材、党内での信望や人気のある大物が内閣に起用されたといえるでしょうし、小泉首相の政治思想に共鳴し、彼の改革推進に追従する『忠誠度の高い側近としての閣僚』で周囲をがっちりと固めたと見ることが出来ます。


第三次小泉改造内閣 毎日新聞

◇「忠誠度」細かく査定

「今回はサプライズはないよ」。首相は31日午後、首相官邸に設置した組閣本部で新閣僚に閣僚名簿を配りつつ語った。

首相は過去の人事で、若手議員や民間登用など「サプライズ人事」を行うことで支持率上昇につなげ、政権を浮揚させてきた。今回も女性の大量入閣説などが永田町を駆けめぐっていた。しかし、フタを開ければ猪口邦子氏の男女共同参画担当相起用が目立った程度で、党内からは「完全にネタ切れ。ノーサプライズが逆にサプライズ」(伊吹派参院議員)との声も聞こえた。

その一方で、片山虎之助参院幹事長が「安定性、継続性、論功行賞だ」と評したように、さきの衆院選や郵政民営化法成立に至る「忠誠度」は如実に反映した。

その筆頭は首相の「偉大なイエスマン」として「刺客戦術」を徹底した武部勤氏の幹事長留任。

久間章生総務会長の留任も郵政民営化法案の総務会で史上初の多数決を断行した見返り、との見方がもっぱらだ。

衆院郵政特委委員長で総務局長として衆院選を仕切った二階俊博氏は経産相に就任。川崎二郎、小坂憲次両氏はもともと郵政民営化に批判的だったが賛成を貫き国会対策にあたった評価で入閣したとみられている。参院の松田岩夫科学技術担当相は造反組の野田聖子氏(岐阜1区)への「刺客」佐藤ゆかり氏を支援したいきさつがある。こうした功績への配慮を積み重ねた結果、党三役・閣僚の留任・横滑り組は20人中11人もおり、若手抜てきは猪口氏だけ、女性も2人にとどまった。

地味な印象は否めないのだが、自民党参院幹部は「首相は衆院選で大勝しており、残り1年の任期で支持率上昇を図る必要はない。安定した実務型の『いぶし銀内閣』を作ることを優先した」と分析する。



■女性閣僚起用の減少と衆院選の「女性議員への論功行賞」

小泉シスターズとか小泉チルドレンと呼ばれる新人の中では唯一、猪口邦子氏が新設の閣僚ポストである少子化・男女共同参画担当大臣に任命されていますが、これはとりあえず新人であっても党の基本政策理念に忠誠を尽くせばある程度のポストが与えられるという論功行賞の意が含まれているのかもしれません。

ただ、報道によると、猪口氏はジュネーブで国連軍縮大使として活動した華麗なキャリアを持つだけでなく、双子のお子さんを持つ母親でもあるという事で、そういった生活の実際的経験を汲んで適材適所の人員配置の一環としてこの少子化対策のポストに着任したとも言えるかもしれません。
今回の内閣改造では女性であるから人気取りの為に閣僚に任命するという側面があまりなく、数少ない女性閣僚も、外務、防衛、経済財政、財務、国土交通などの国政の重要ポストに配置されていないことも特徴的だと思います。

従来のジェンダー(社会的性差)のイメージと重複するような環境省(小池氏)と少子化対策部門(猪口氏)に女性閣僚が任命されているわけですが、以前のような女性を優先的に抜擢することによるサプライズ効果を狙う必要がないという政治的判断が小泉首相に働いたのかもしれません。

政権を担当する男女のバランス感覚を取る必要があるかどうかには様々な考え方があるかと思いますが、堅実な政権内部での実務をこなした川口順子前外相が閣僚から外れて、前回総選挙で抜群の功績を果たした小池百合子環境相がそのままのポストで留任というのは、国民の視線を意思する小泉首相にしてはサービス精神や女性への配慮を欠いた人事だったなという印象もあります。

男女共同参画社会の構想そのものには、ジェンダーフリー思想の影響などの観点から反対する人たちも少なからずいますが、先進国の統計的調査では女性が積極的に社会進出して所得水準が高いほうが子どもの数が増えるという報告やシングルマザーを容認する社会風土が育児のしやすい環境をつくるという意見もあります。

少子化対策を巡る議論には、手厚い経済的支援を十分に行うだけで解決できるという極端な社会政策的解決策から、ライフスタイルの多様化に合わせた保育所拡充や雇用拡大など育児環境の整備が重要とする意見などがあります。
その他にも、男女共同参画社会によるシングルマザーの是認や男性の育児への積極的参加などが必要とするジェンダーの差異を小さくしようとする立場、それに対立する意見として、女性は家事育児に専念して男性が所得を得るという家父長的な家族制度への回帰が少子化を抑止するというものまで少子化問題への見解には様々なものがあります。

少子化対策や男女のジェンダーの問題を巡る議論や研究は、かなり混沌とした単一の意見に回収し難い状況になっていることは確かなので、この状況をどう少子化問題に有効な政策立案や社会制度につなげていくかが猪口氏に問われることになるのでしょうが、実際に法案レベルで動き出すにはもう暫く時間がかかるのではないかと思います。

十二分な国民からの支持を得て、圧倒的な国会の多数派を形成したことにより、『選挙への論功行賞による党内の忠誠心や求心力』よりも『政権運営の総決算としての構造改革の成果』を追い求めた堅実かつ意欲的な人事であるという見方もできます。


■「ポスト小泉」の競争の行方

小泉首相の後継者は一体誰になるのかという論調でマスコミでは盛んな報道が為されていたようですが、以前から『ポスト小泉』として挙げられていた『麻垣康三』のうち、麻生太郎が外務大臣となり、谷垣禎一がそのまま財務大臣に留任、安倍晋三が政府の最重要ポストで首相の側近である内閣官房長官へ任命されました。

四人の「ポスト小泉」候補の中で唯一、何のポストも与えられなかったのは福田康夫さんのみという結果になりました。竹中平蔵氏が、小泉政権の財政構造改革における中核的なベストポジションである総務大臣・郵政民営化担当大臣を拝命したことにより、福田康夫氏に代わって「ポスト小泉」の一角を占めるようになったという『麻垣平三』の見方もあるようですが、やはり現段階で最も有力というか小泉氏から目を掛けられていて寵遇されているのは官房長官という内閣の最重要ポストに抜擢された安倍晋三氏でしょうね。
小泉氏との蜜月だけでなく、実際の政治的手腕においても北朝鮮との拉致問題を巡る外交交渉で安易な妥協をせず毅然とした態度を取り、拉致被害者の返還を強く要求したことによって保守的な国民層から高い支持を得たことも影響していると思います。
また、日本国憲法改正に当たって最も意欲的で急進的なのも安倍晋三氏であり、その点でも国家安全保障に関する問題や日本の行財政改革の閉塞感を憂慮する国民層に受けがいいのかもしれません。

福田康夫さんも、小泉首相と絶妙のコンビネーションを見せていた官房長官時代には、後継者の最有力候補でしたが、東アジア地域における歴史認識の問題や靖国参拝に対する否定的態度などによって小泉首相との基本的立場の相違が明瞭になってきてからは小泉政権の中枢から遠ざかっていきました。仮に、小泉首相の人気が大幅に低下して、小泉政権に参与していたことがマイナスイメージとなるような政局が訪れたならば、福田康夫さんの躍進の可能性や民主党の台頭の可能性もあるのでしょうが、今のところ福田康夫氏が首相になるのは厳しい情勢なのではないかと思います。

この「ポスト小泉」のメンバーに共通する事としては、政治家としての毛並みが良いというか選良的な二世議員が多いということでもあります。世襲議員が国会に占める割合の高さは良く取りざたされますが、この流れがそのまま継続すると、世襲した財産・地元・人脈の基盤を持たない有能な人物が国会議員に立候補して当選する確率はますます下がることになるかもしれません。
今回のポスト争いでは後塵を拝した福田康夫さんの父親は元首相の福田赳夫ですし、安倍晋三さんの父親も有力な衆院議員で一時期は首相候補と目されていた元外相の安倍晋太郎ですね。更に、日米安保改訂を為した岸信介の外孫(母方の祖父)であり、佐藤栄作とは大叔父という間柄に当たるそうですから、麻生太郎氏と並んで戦後の日本政治史における血縁的な結びつきには強固なものがあり、そのあたりで「政界のプリンス」と呼称されていたのでしょう。

谷垣禎一さんの父親も大平内閣において文部相を勤めた谷垣専一であり、麻生太郎さんは言わずもがなというか日本の世襲議員の中でも特筆すべき血縁関係を持っている政治家です。
麻生太郎さんの祖先や血脈には明治の元勲・大久保利通から発して、母方の祖父に戦後最大の政治家・吉田茂がいるなど錚々たる顔ぶれが揃っていて、天皇家とも親族関係があるようです。
更に、財政基盤として麻生セメントなどの複雑な歴史的背景を持つ大企業を有しており、ある意味で日本の特権階級に属する人物だという見方も出来るでしょう。
韓国などが、麻生太郎氏が重要ポストに就くことに抵抗を示す背景には、彼独特の攻撃的な毒舌や冷笑的なユーモアもあるのですが、彼の弟が現在経営している麻生セメントの前身が麻生炭鉱(かつての徴用炭鉱)であったという事情もあるようです。

いずれにしても現在の日本の政界では地盤の継承と財政の委譲による国会議員の世襲化が進行しているわけですが、この政治現象には功罪が相半ばしている面があるのではないかと思います。世襲議員の良い面というのもおかしな話ですが、敢えて『功の側面』を考えてみると、父親や母親の支援団体や後援会などの地元地盤を引き継ぐので選挙の公正性に問題がある一方で、地元の有権者にとっては今まで地元の発展を中央で推進してくれた父親と類似した政治家を安心して選べるというメリットがあります。
また、父親が政治家である場合には、基本的に、高度な政治家としての基礎教育や実践的経験を積んでいることが多いので、一定水準の適性と能力のある政治家を送り出せるというベネフィットも世襲議員にはあるかもしれません。

それに対して世襲議員が好ましくない理由としては、家柄や血縁によって政治家になれる人たちが限定されてくる恐れがあり、選挙の公正性を侵害する可能性があるということや、地方分権の流れに対して中央集権的な政治システムの存続を強めたり、中央から地方に利権をひっぱってくる旧来的な利権構造が温存されるという問題を上げることが出来ると思います。
暗黙の了解的な特権階級というのは、個人の人格的平等を前提とする民主主義国家にも存在しますが、過剰な職業世襲による新規参入障壁の問題が深刻化すれば、両親の職業や地位によって子孫の職業選択が大方規定されてしまうという「機会面での不平等」が強まるという恐れがあるのだと思います。
とはいえ、建前上の機会平等と実質的な機会平等の間には大きな懸隔があるというのが現実なので、そこをどう公正性を担保して改善していけるのかというのが課題になってくるのだと思います。

世襲議員には本人の意志が関与できない部分でそうなるべくしてなったという側面もあり一律的に否定できないものだと思います。
それはさておき、今後の「ポスト小泉」を巡る競争の中で誰が飛びぬけてくるのかは予測しづらいですね。
誰が次期首相になるとしても、強靭な経済成長と国力増強だけを目的とする直線的なリーダーシップを発揮するのではなく、社会全体に及ぶ豊かさの配分や個々人の自由・生命・人格の尊厳にも配慮した未来志向のリーダーシップを発揮することが望まれます。そして、自国の国益を確保する有効な政策と合わせて、世界との共生を志向するマルチラテラルな信念を持って国政を担っていって欲しいと思います。


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