器質的な身体疾患から派生する症状精神病:心身一如の存在としての人

うつ病の精神症状として出てくる『抑うつ感・憂鬱感・不安感・焦燥感・不穏・イライラ・疲労倦怠感』や躁鬱病(双極性障害)に見られる過剰に精神活動が活発化した躁状態、観念奔逸などは、器質的な身体疾患によっても発症することがあります。

症状精神病とは、簡単に言えば『身体疾患の発症や経過によって出現する精神障害』のことで、脳疾患による精神障害を排除したものです。

何故、脳疾患を排除するかというと、脳機能と精神機能との密接な関係性を考慮すれば、全ての精神病(神経症水準を越えた重症度の高い精神疾患)は、脳に何らかの機能的失調を抱えていると推測されるからです。その為、心因性の精神病と脳疾患による精神病以外の原因による『身体疾患から派生した精神障害』を症状精神病と呼ぶのです。

全身性の身体疾患や局部的な器質的障害によって、二次的に併発する精神症状及び精神機能の失調が症状精神病ですが、症状精神病を引き起こす代表的な身体疾患には以下のようなものがあります。症状精神病は、所見から明らかに身体疾患の存在が分からない場合には、高度な医学的診断の知識と専門的な治療経験を要す疾患ですので、症状精神病が心配な方は心身医学の専門医の診療を受けたほうがよいでしょう。


症状精神病を併発する身体疾患
基礎疾患基礎疾患の概要派生する精神症状
甲状腺機能亢進症内分泌器官である甲状腺のホルモン分泌が過剰になる病気で、交感神経を過度に興奮させることで、生理活動と精神機能も亢進します。自律神経と精神機能がいつも興奮(亢進)している状態となり、不安・焦燥感・イライラ・疲労感・情緒不安定・神経過敏・睡眠障害が発症します。悪化すると、うつ病や統合失調症の精神症状も示します。
甲状腺機能低下症甲状腺機能が低下して、甲状腺ホルモン分泌が減少し、生理活動と精神機能も低下していく疾患です。精神機能低下に付随して、うつ病水準の深刻な抑うつ感や無気力の精神症状が現れます。悪化すると精神病水準の錯乱、妄想、譫妄といった意識障害を併発します。
副腎皮質機能亢進症内分泌器官である副腎皮質のホルモン分泌が亢進して、コルチゾールの血中濃度の上昇によって起こる疾患。クッシング症候群ともいう。感情や気分の易変性、情緒不安定、易疲労感と倦怠感。不安・焦燥・抑うつなど。
副腎皮質機能低下症副腎皮質のホルモン分泌が減少することによって起こる疾患で、内分泌疾患のアジソン病や下垂体前葉の障害の原因となることがあります。抑うつ感・無気力・億劫感などのうつ病症状や稀に躁状態や興奮を起こす。
ステロイドの副作用による精神障害ステロイドの外用剤ではまず起きないが、高濃度の合成副腎皮質ホルモン剤を長期に内服した場合に、うつ病に似た精神障害を起こすことがある。うつ病様の鬱状態、躁状態。悪化すると解離症状、幻覚妄想、錯乱、意識混濁などの精神病状態を呈すこともある。
代謝障害疾患尿毒症・人工透析の副作用・肝臓疾患・ウィルソン病など代謝系の器質的病変や機能障害によって起こる疾患の総称。憂鬱感・不安感・意欲減退・無気力・疲労感などのうつ病症状。意識水準の低下でぼんやりとした解離症状や意識障害など。


上記に挙げた以外にも、女性特有の妊娠出産(妊娠直後・出産前・出産直後などが不安定期)にまつわる女性ホルモン分泌障害やビタミン欠乏症、全身症状を呈するチフス、赤痢、インフルエンザなどの感染症、膠原病や全身性エリテマトーデス、重症アトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患(アレルギー性疾患)によっても多彩な精神症状が発現する可能性があります。

ここでは、気分障害(うつ病・躁鬱病)と症状精神病の関係に重点を置きましたが、症状“精神病”と呼ばれるように、本来は統合失調症(旧称・精神分裂病)の幻覚妄想などの認知機能障害を示すことが多いのも症状精神病の特徴です。しかし、多くの場合、重症度の高い精神症状よりも器質的病態のある身体疾患が早く発見されているので、身体疾患の治療を中心に置きながら精神症状を緩和するケアを行っていくことになります。

何故、症状精神病の治療において身体疾患の治療を最優先するのかといえば、症状精神病の原因が身体の基礎疾患にあり、精神症状はその副次的な産物に過ぎないと医学的に判断されるからです。

特別な心理的原因(心配・悩み・トラウマ)などがあって、心因性の精神症状なのではないかという疑念があるならば、主治医の見解も聴きながら、カウンセリングや心理療法などを相補的な選択肢として考えてもよいと思います。

人間の健康は心身相関によって成り立っていて、瞑想など精神統一やリラクセーションによって身体に改善効果を与えられる一方で、心理的効果だけでは治癒するのが困難な幾つかの身体疾患による症状精神病があります。

仮面うつ病は、身体症状によってうつ病の抑うつ感や無気力、意欲減退を覆い隠してしまう病気ですが、症状精神病はそれとは対照的に、精神的な困難や異常によってその根本にある身体疾患を隠
蔽してしまう病気です。

とはいえ、内分泌障害や代謝障害から派生する精神症状は、前述したように身体疾患の発見のほうが早い場合が多く、身体疾患の治療の途中にここで説明したような症状精神病が発症してきますので適切な医学的対処は受けやすいといえるのではないかと思います。

また、精神症状でも比較的重症度の高い意識障害(昏睡・錯乱・異常興奮・幻覚妄想・アメンチア)の場合には、通常、精神医学による診療だけでなく身体医学各科による精密検査が行われますので、『身体疾患由来の精神症状』のほうが『隠蔽された精神疾患』よりも発見は早いと思われます。

患者によって個人差もあるでしょうが、心因性の慢性的な精神症状という診断(あるいは説明)に対して抵抗感を感じる人が一定の割合でいる一方で、身体因性(必要な治療の副次的作用)の一時的な精神症状という診断ならすぐに受け容れられるという人が多いようです。

心の病というと、どうしても『古典的な精神論(意志薄弱な人間や気合と忍耐のない甘えた人間が心の病に罹るといった俗論)』で理解しようとする人たちを十分に納得させることが難しい一方で、身体の病から生まれた精神症状という説明ならば『自分の心や性格には問題がないが、身体の病から必然的に生まれた精神症状』といった形で受け容れられ易い風潮があります。

こういった価値判断は精神疾患に対する誤解や偏見とも密接に結びついていますが、その根底にあるのは『精神を身体よりも上位におく西欧の二元論的発想』であり、『精神の環境適応能力を人間としての価値の低さに結合させる社会ダーウィニズム(人間社会に自然淘汰の摂理を流用する思想)』なのかもしれません。

現代の科学的成果を踏まえると、心と脳を切り離すことは難しく、心の不調には人間的な関係や肯定的な言葉が効果をもたらし、脳の失調には薬物や物理的刺激が効果をもたらします。
同様に、心と体も厳密に区分することはできず、それぞれの問題や障害に適応した治療や対処をしていくという認識が大切なのではないかと思います。

『私という意識』は、『私の身体基盤』なくして存在しないように、心と体はお互いが密接に関与しあいながら、心身一如の奇跡的な『私なる存在』をこの世界に生み出しています。
この心身一如の偶発的な自我意識と自己の身体に思いを寄せるとき、ただ生きてこの場に存在していることの奇跡的な蓋然性や偶然性の神秘に驚嘆せざるを得ないと思うのです。






■関連URL
うつ病と躁鬱病の概略

■書籍紹介
精神科医がうつ病になった―ある精神科医のうつ病体験記

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    Excerpt: 今日もクラブ大会に参加しまし 器質的な身体疾患から派生する 信長1560年冬の戦略 くたばれモスキートと訴えたい 山田区長の「地区計画」原案 デス種最終話 菩薩の慈愛に満ちたライブだっ ゴルフ観戦 気.. Weblog: 寄せ racked: 2005-10-02 01:18
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