カウンセラーという職業の多様な活動領域とカウンセリングが要請される時代背景

カウンセリングという職業、あるいは、心理臨床や心理相談の活動に含まれる仕事というのは実に広範多岐な領域にまたがっています。
簡単に思いつく活動領域を挙げてみても、医療臨床分野、学校教育分野(スクールカウンセリング)、司法矯正分野、公共機関相談分野、産業(企業)支援分野、児童保護分野、障害者福祉分野、社会学的な統計調査分野、コーチングやメンタルトレーニングなど職業能力開発分野、独立開業の心理相談分野など実に多種多様な領域があります。

また、カウンセリング活動には『公的なカウンセリング分野』と『民間のカウンセリング分野』があり、公的なカウンセリングとは公共機関(国・地方公共団体・公立学校・公立病院・裁判所・児童相談所・教育センター)で雇用されて働くものであり、公共の福祉の増進(個人の社会環境への適応)を目的としてカウンセリングを行い、報酬を税金から還付されて受け取るものです。民間の病院であれば、当然その病院の収益から所得を受け取ることになりますが。

現在は、以前ほど人文系の心理学科や民間のカウンセラー養成機関が人気があるのか分かりませんが、とりあえず、現状の心理臨床関連の実情は、公的に十分な専門性の認知と身分保障が確立しているわけではないといえるでしょう。また、民間のカウンセラー養成機関が発行する資格や認定カウンセラーなどのみでは、病院や公共機関に雇用されるのは非常に難しいというのも認識しておく必要があります。

現代社会では心理的問題(憂鬱・無気力・トラウマ・パニック・神経症的症状など)や対人関係のストレスによって多くの人が日常生活に支障を感じるようになり、その結果、カウンセリングという仕事や技法が注目されましたが、カウンセリングという特殊な相談形態の隆盛と社会背景について幾つか述べておきたいと思います。
一時期、カウンセラーブームとも呼ばれる臨床心理学関連分野への関心が高まったことで、カウンセラーやサイコセラピスト(心理臨床家)といった職業がクローズアップされました。
カウンセリングというかつてあまり日常生活に馴染みのなかった心理相談形態や専門的な心理療法が流行化した時代背景としては様々な要因がありますが、大きく分けて以下の5点を指摘することができるでしょう。



1.高度経済成長期が終焉に向かうにつれて、『物理的豊かさ』の追求だけでは人間の幸福を実現することが困難なことが指摘されはじめ、その不全感や空虚感を補う『精神的な豊かさ』が希望されるようになってきた。

1-2.学術的根拠を持つカウンセリングに限らず、アロマセラピー、リフレクソロジー、アーユルヴェーダや漢方など東洋医学、スピリチュアルなど科学領域とは異質な癒し法、各種主観的な世界観を拡大する新興宗教やヨーガ、西洋薬理学の理論に依拠しない民間療法など「精神世界と物質世界(市場経済)の矛盾や解離」「科学的世界観と主観的世界観の体感的不一致」を意識した職業がばらばらと分散的に萌芽しはじめた。


2.バブル崩壊以後、全員が横並びで大きな経済的成功や大幅な所得の増収を得ることが見込めなくなり、『物理的豊かさを求める市場経済原理』へのカウンターカルチャーとして『精神世界を探求する自己実現原理』が肥大化してきた。自己実現は本来、自我が意識する『理想化された生活状況・自我状態』とは異なるが、通俗化された自己実現は『自我の範囲内での理想・夢・目標』を達成することを目的としている点には注意が必要だろう。

2-2.一般社会における価値指標とは異なる価値指標を内面的に持つことによって、常識的価値観による優劣判断などを相対化したいという無意識的願望の反映であるが、従来、それらは旅行、絵画、陶芸、収集(コレクション)、スポーツなどの「趣味領域」で満たされていた。しかし、陳腐化した趣味に満足できない層の増加によって、その無意識的願望(あるいは潜在的不全感)を他者に伝達し共感して貰う為の相互的行為としてカウンセリングが要請されている部分もある。


3.精神疾患関連の社会福祉予算の増大を抑制し、有効な労働力としての社会資源を確保するなど、カウンセリングによって国民のメンタルヘルスを向上させることで社会全体の生産力や活動性を高めようとする政治政策的意図によってカウンセリングが普及してきた背景もある。

3-2.従来、働き盛りといわれていた壮年者層(30代~50代)が、うつ病など精神障害の予後悪化によって自殺するケースが増えていることが憂慮されている。うつ病に限らず、若者たちのインターネットを利用した集団自殺や生きる意欲の低下などメンタルヘルスの問題によって社会資源が損失するといった事態が多く生まれている。
また、学校環境においても『不登校・いじめ・少年犯罪・ひきこもり・援助交際など性的逸脱』などの問題が立ち上がってきており、教師の生活指導だけでは対処が難しく将来の有用な人材育成を困難にしている面がある。
今、話題になることの多い若年齢層のNEET増大なども『社会環境要因と心理発達要因が密接に絡んだ問題』であり、景気回復・雇用改善や職業訓練など社会環境の整備と合わせて心理学的対処が可能と思える部分がある。

社会全体のメンタルヘルスの悪化や就労意欲の低下などを踏まえて、公的機関や教育機関におけるカウンセリング活動を重視しようという構想があり、スクールカウンセラー制度の創設などはその構想を具体化したものと捉えることができる。
政府が心理臨床活動の普及や学校教育環境におけるカウンセリング体制の充実を図る根拠は『国民のメンタルヘルスの向上』が、『国民の生命・身体・財産といった基本的人権の保護』『国家財政窮乏の改善=社会保障費支給の削減』『社会秩序の維持=反社会的・非社会的問題行動の事前予防』につながると考えられているからです。
スクールカウンセラー制度などで一定の歳出負担を負っても、それに見合う以上の公共的利益(公共の福祉や社会秩序の安寧)を得られるという判断が政府にはあると言えるでしょう。


4.地域コミュニティの崩壊・家族間関係の希薄化・教育環境における人間関係の細分化(趣味嗜好による微細なコミュニティ化)・職場環境における人間関係の脆弱化など『人と人とが本音でつきあえる集団環境』が軒並み衰退していく中で、カウンセリングという謂わば『建前や利害を排した特別な人間関係』の需要がでてきた。

4-2.広義のカウンセリングは、医学的治療や専門特化された精神療法とは異なり、『ラポールに基づく共感的理解に支えられた人間関係』がその効果の発現に大きな役割を果たしているという調査結果が出ているが、現代社会で欠如しやすい『本音の価値観や感情を受け止めてくれる聴き手』としての役割をカウンセラーが期待されている側面がある。
精神疾患の治療などに特化した精神療法(それでも特効薬的なものでは当然ないが)では、カウンセラーとの信頼関係よりも、逸早く症状の苦痛や不快を治癒して欲しいというクライアントが多いが、基本的に心理臨床的アプローチというのは薬物療法のような即効性を期待できるものではなく人間関係がその基盤にあるので、それが回りくどく悠長だと感じるクライアントには不向きな方法だと言えるかもしれない。カウンセリングの最も主要な需要は、日常生活では得られない自己保全的・自己共感的な人間関係によって支持されたいというクライアントが占めているように思えるが、その場合には、カウンセリングの終結に向けた技法の方針と終結までの計画が必要だろう。


5.幼少期から親子関係の不全感や家庭環境の空疎化を経験しながら育った人ほど、人間の心理学的問題や精神病理的症候を生み出す環境要因への関心が高まるが、そういった主観的認知における『潜在的アダルトチルドレン』の増加と共に、救われたい願望が救いたい願望へ反動形成されることが多くなっている。

5-2.自分自身の心的外傷があるから、他者の苦しみや痛みにも共感的に寄り添うことが出来るという見解は確かに正しい面もある。しかし、安易な感情論のみではカウンセリングの本務を遂行することは覚束ない。トラウマ的な過去の体験や精神的な強度の不足から心理学領域の学問に興味を持つ者が多いというのは恐らく事実であるが、他者の精神的な苦悩を緩和するカウンセリングを行う為にはそこから何歩か人格的に成長する必要がある。

自身のトラウマをある程度克服し、自分の苦悩や葛藤をカウンセリング場面に漏出しない程度の自我の強度を形成してからカウンセリング業務を行うようにすることが必要である。
専門性の薄い心理相談の場合などであっても、自分の精神的苦悩や過去の外傷的な人間関係へ過度のこだわりがある場合には適切な心理学的対処はできないし、自分自身のメンタルヘルスを崩して業務を続行できない恐れが出てくる。
自己の直面し難い過去の傷つきや悲しみ、自分が認めたくない劣等性コンプレックスと真正面から向き合って尚、感情的動揺を最小限に留めることが出来る程度には自己分析を推し進めている必要があるのではないかと思う。




自分で開業する民間カウンセラーや人脈を活かした公的機関への雇用などを除いて、現在では、「(財)日本臨床心理士資格認定協会」が認定する臨床心理士の資格の所有を、募集要件に掲げている場合が殆どですので、公的機関や医療機関で安定した身分保障と経済所得を得たい場合には、指定大学院を卒業して臨床心理士の資格を取得することが最も近道になります。

但し、臨床心理士の資格取得のみで安定した所得と雇用が保証されるわけではなく、一般的に、国家公務員試験などに別途合格するなどしなければ、学校教員や国家・地方公務員よりも所得は低いことのほうが多く、職場での待遇もそれほど高いものではありません。
臨床心理の研究と実践のみに没頭したい場合や研究者として大学に残る場合などを除いて、学校教員などと両立して児童へのカウンセリングを副次的にやりたいのであれば、何が何でも心理職という風にこだわり過ぎるのも得策ではないように思えます。
教員採用試験のほうが間口が広く、その後の待遇(生涯賃金や専門性の承認など)も良いのでまず教員になってから付加的にカウンセリングを考えるという選択もあります。特に、発達心理学などに強い関心をもち児童とのふれあいが喜びなのであれば、心理職よりも教員のほうに適性があることも多いですから、よく自分の学問的興味と実務的適性を考えてみて職業選択に望むことが大切だと思います。

これから臨床心理士になりたいという中高生や大学生などの場合には、専門性の社会的認知と福利厚生などの待遇という意味では、現状では圧倒的に臨床心理士よりも公務員(臨床心理士になってから公務員になるというのが一般的な進路の一つではありますが)や一般教員のほうが高いと認識しておいたほうがいいかもしれません。
また、カウンセラーの大半は教育学・心理学・社会学を相互的連関のもとで捉える必要があると認識していると思いますが、それら隣接領域を学ぶ職業であってもその資格取得年数は大きく異なります。
資格取得までに臨床心理士のほうは最低6年かかり、公務員(学歴制限はありませんが)や教員の場合は通常の4年で良いというところも自己アイデンティティの確立や人生の重要な進路選択にとって大きなポイントだと思います。

医療分野においても、医師や看護師、周辺の医療関係職と同等の待遇はまず得られず、基本的に事務系職員と同等の待遇や非常勤のアルバイト(原則として心理職は正規雇用よりも臨時雇用が多い)のような形になることが多いようです。
医学部に合格するくらいの一定以上の学力があってカウンセリングに興味がある場合には、まず精神科医としての訓練や研鑽を積んでから専門的な精神療法を実践するほうが将来的には良いかもしれません。
開業する場合にも、医師資格を所有することは一般的に大きな心理的効果(信頼・安心・権威)を生みますから、カウンセリングを高い自由度の元に行え、クライアントを集めるのにも有利であることが多いです。
何より薬物療法という医学的治療は公認された医療専門家である医師にしか行えません。カウンセリングよりも薬物療法が効果的である患者さんに対しては、医師でないと対処できない領域が多いですし、時間的余裕さえあればカウンセリングを行うことも可能です。

カウンセリングに類似した仕事をする職業には、様々なものがあり、小規模な病院などの場合には幾つかの職域にわたる仕事を兼業させられることも少なくありません。
つまり、カウンセラー(臨床心理士)であっても、精神保健福祉士のような環境調整のケースワークを行ったり、事務員のような雑務の事務処理や書類制作を行ったりすることもありますので、多くの人がイメージしているようなカウンセリングのみを専門的にゆったり行うカウンセラーというのは余りいないと思います。
ですから、雇用されて安定した環境でカウンセリングを行いたい人の場合には、社会福祉関連の仕事や医療関係の職種などをバランスよく眺めていろいろな仕事の内容や実際に興味を持ってみるのも良いかと思います。

ちなみに、余り語られませんが、医師であれば2年以上の心理臨床経験があれば、心理学科を専攻していなくても臨床心理士の受験資格を得ることができます。とはいえ、医師資格だけで生計が立つ場合が多く、精神科クリニックでは医師が日常診療と並行してカウンセリングを行う場合も多いので、あまり取得する意義やメリットが感じられないのだとは思いますが。

カウンセリングの効果を複数の構成要因に分類してエビデンスを得る研究の進展や広大無辺なカウンセリング領域でどういった性質の問題が特別な知識や技術によって解決が促進されるのかの統計学的研究などを進めることによって、心理臨床の専門性の認知は進む可能性があります。
私は、心理的問題や人間の不適応行動全般を専門的に独占するような単一の学問体系を構築することは不可能(複数の学問分野に必然的に架橋し、学際的な研究や哲学的な考察を付加する必要性が生じる)だと思いますし、精神を過度に科学的な分析によって物理化・数量化して把握することには懐疑的です。
しかし、臨床心理士のような取得までの投資(時間・金銭・学業)が大きな資格は、専門知と実務経験を有する者のメルクマールの一つとして機能するのではないかと思います。

公的な専門性の認知と所得の保証が要らないのであれば、様々な形で心理相談やカウンセリングを行うことは可能ですが、一般的に、営業能力や対人関係能力、人的なネットワークなど臨床心理以外の分野における適性や能力を高めていかないと難しい部分があります。
基本的に、公的機関や医療機関でない民間のカウンセリングの場合には、待っていれば定期的にクライアントが来てそれに適切な心理学的対応をするといった形にはなりませんから、自分の側から何らかの効果的な広告宣伝や人脈を活かしたマーケティングを積極的に行う必要があるかと思います。

アロマセラピーやアーユルヴェーダ、レイキといった科学的学問の流れから逸れたカウンセリングやオカルティック(超常現象的)なセラピーの実際には私はあまり明るくないのですが、それらの職業においては、特に対人関係を拡大していく社交的で快活な人格や顧客へのこまめな連絡や配慮などが経営上要請されてくるのではないかと思います。

■書籍紹介
心理学を学びたい人のための大学・大学院の歩き方

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い

この記事へのトラックバック