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zoom RSS “正常圏内の不安”と“病理水準の不安”

<<   作成日時 : 2005/09/29 08:12   >>

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フロイトが創始した精神分析療法の主要な適応症とされた神経症(neurosis)は、心因性の精神症状と身体症状を発症する疾患です。
最新の精神病理学のテキストに神経症の表記がなくなり、国際標準の精神障害の診断・統計マニュアルであるDSM−W(1980年制定のDSM-Vから消滅)からも神経症の分類が消滅しているように、現在では神経症は古典的な名称となってしまった観があります。

神経症(あるいはノイローゼ)がなぜ、正式の病名として採用されなくなったかというと、神経症という病態が、あらゆる不適応な症状や否定的な性格特徴が投げ込まれるブラックボックスと化してしまったからです。
つまり、単一の症状や特定可能な症候群を指示する病名ではなくなり、神経症という病名に、多種多様な複数の心因性疾患が寄せ集められてしまったのです。

あらゆる不快な精神症状・身体症状や不適応な人格障害を内包する“総合的な病的状態”になってしまった神経症には、『心因性の疾病である』という以上の意味がなくなりました。
その為に、『臨床的な病態観察に基づく疾患の細分化による診断基準の確立』を目指すエビデンス・ベースドな精神医学の潮流に神経症概念は取り残されてしまったということができるでしょう。

また、現在の精神病理学は、神経科学的な基盤を持つ「実証性の高い学問」を目指す方向に進んでいますから、心因(精神的な苦痛)を重視する神経症ではなく、脳内の神経学的異常や脳内ホルモンの分泌障害を根本原因とする不安障害に改められているという解釈もできます。

同じ神経症患者であっても、ある人は立ち上がれなくなり、ある人は声を発する事ができなくなり、ある人は手足の震顫(振戦)を起こして目が見えなくなります。
ヒステリー性格を指摘された神経症患者は、異常な興奮を示して神経過敏になったり、被害妄想的で攻撃的な性格を示します。

自己愛の過剰な強さが問題となっている神経症患者は、自己顕示性を露にして自分を現実以上の人物と見せるための虚言癖を示したり、他人の成功や魅力に対して執拗な嫉妬をみせます。
不特定多数の相手を性的に誘惑して利用したり、相手への利益をちらつかせて操作的な振る舞いを特徴とする演技的な人格を示すこともあります。
ある人は、意識水準が格段に低下して、自分が現実に存在していないように感じる離人症を呈したり、解離性障害のようなリアリティを喪失した曖昧模糊とした心理状態に陥ることもあります。

古典的な神経症をシンプルに定義すると『精神的原因による器質的障害を伴わない心身の機能障害』と定義できます。
性格異常(現在の人格障害)と情緒不安定に注目すれば、『ヒステリーと呼ばれた人格特徴の異常や不安・抑うつ・衝動性・依存性などを示す情動障害』と定義することが出来るでしょう。
かつて、精神病と対比された神経症の特徴として『現実認識能力(現実吟味能力)が障害されておらず、現実と空想の混乱を起こすことがない』というものがあり、これは病態水準の深刻度を測るために今でも重要な特徴です。

精神疾患の病態水準の判断で、現実認識能力が障害された比較的重篤な精神疾患である統合失調症や躁鬱病を“精神病”と呼び、それ以外の不安・恐怖・抑うつ・強迫性・ヒステリー・心気症などの比較的軽度な精神疾患を“神経症”と呼ぶ伝統があります。

一般的に、精神病に分類される精神障害は、内因性二大精神病と呼ばれる統合失調症(精神分裂病)と躁鬱病(双極性障害)である。過去には、内因性三大精神病として前述した二つにてんかんを加えていたが現在ではてんかんは脳の機能障害という見方がなされています。脳の気質的病変や異常などに注目されているため、現在ではてんかんは純粋な精神病に分類されないことのほうが多くなっています。

ここから、神経症の中心的精神症状である『不安(anxiety)』と神経症とうつ病の双方に頻繁に見られる『抑うつ(depression)』について考えていきたいと思います。
神経症症状には、多種多様な知覚障害や運動障害も含まれますが、その主要な症状は何といっても不安感と恐怖感、抑うつ感、焦燥感に代表される情動障害にあります。
うつ病に見られる抑うつ感と神経症(不安障害)に見られる抑うつ感や不安感は、生理学的な病理メカニズムから考えると非常に類似した症状の形成過程をもっています。

うつ病の憂鬱感にも不安障害の不安感にも、脳内の情動調節を司るセロトニン作動性ニューロン(セロトニン系神経)の機能不全が原因として考えられます。
つまり、脳内のシナプス間隙(ニューロンとニューロンの間の部位)で、意欲、関心、活発性といった快の情動に関係するセロトニンという情報伝達物質が不足したり枯渇したりしているために、円滑な情報伝達が行えなくなっているのです。

脳内のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が不足して、情報伝達の障害が起こってくると不安感や抑うつ感、無気力といった精神症状が発症してきます。
そのため、現在の医学的治療では、うつ病や不安障害に対してSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬を用いて、脳の神経細胞間のセロトニン量を増やし情報伝達を正常化させようとします。

各種不安障害に対しては、従来どおり抗不安薬(マイナートランキライザー)も処方されますが、効果がなかなか現れない場合や軽度の憂鬱感が長期化している場合には抗うつ薬が処方されることも多くなっています。
このことが、精神疾患の回復を早めるのか、副作用の頻度を多くするのかなどいろいろな議論がありますが、不安感形成の生理学的機序にセロトニンの分泌障害がなんらかの形で関与していることが基礎研究から示唆されています。

少し脳内の情報伝達に話が逸れましたが、神経症の主要症状である「不安感」は当然、精神症状のひとつですから、病的なものです。
しかし、ハンス・セリエの汎適応症候群(GAS:General Adaptation Syndrome)を引くまでもなく、全ての人間は、ストレスに対する一般的な反応として漠然とした不安を感じているもので、不安感を感じたからといって不安障害などの精神疾患であるとはいえません。

不安感は、不確定な未来や切迫した危険、不快な人物との対応などに適応するための必然的な準備的反応ともいえますが、その不安感の強度が増大して、持続期間が長くなってくると日常生活に障害が起こってきます。
一般に危機や不快の刺激に対する自然な反応である不安も、その危機や不快のストレスに対して適切な解決や対処をとれないと不安の病理性が増していきます。

ある不安感が病理的なものか、正常圏内のものかを識別するためには以下の基準を用います。専門的な判断を下す為には、面談と質問紙によるアセスメントを行う必要がありますが、以下の判断基準を理解していれば、自分だけで解決できる不安か専門的な援助を受けたほうがよい不安かをとりあえず区別することができます。


○正常圏内の不安

不安に対する明確な対象や特定可能な理由がある。

不安の内容を言語で簡単に説明することができる。

他人に不安の内容を説明した場合に、共感的に理解してもらえる不安である。

不安の持続期間が比較的短期(2週間以内)である。

その不安は耐えられないというほど強いものではない。

その不安は、一日に何度も強迫的に襲い掛かってくるものではない。

その不安は、一度弱まれば、再発することがほとんどない。

○病理的な不安

不安に対する明確な対象や特定可能な理由がない。

不安の内容を言語で簡単に説明することが難しい。

他人に不安の内容を説明した場合に、共感的に理解してもらえることが少ない不安である。

不安の持続期間が比較的長期(2週間以上)である。

その不安は耐えられないほどに強く、日常生活が普通に送れない。

その不安は、一日に何度も強迫的に襲い掛かってくる。

その不安は、一度弱まっても、また再発してくる。


特に、配偶者や恋人、家族の死や離別などに伴う自然な対象喪失の悲哀反応を不安障害の精神症状と間違えるケースが多くありますが、対象喪失の悲哀反応は程度の差はあれ誰にでも自然な心因反応として起こるものです。
確かにこういった重大なライフイベントで過剰なストレスを伴うものは、うつ病や適応障害、不安障害の引き金(トリガー)となることが多くありますが、数ヶ月の範囲内の深刻な気分の落ち込みや絶望感は精神病理とはいえません。

大切な愛する他者を喪失してしまった悲しみや怒りは、自然な人間的感情に基づく深い悲しみであると同時に、心の健康を回復するために乗り越えなければならない『喪の期間(悲嘆に暮れる期間)』だということができます。

カウンセリングや医学的治療が必要となる不安を簡単に見極める基準は、その不安が強すぎるために日常生活や職業生活、学習活動などに大きな支障が出ているかどうかを振り返ってみることです。
自分自身の意識転換やリラクゼーション、趣味による気晴らし、友達との雑談などによって不安を弱めてコントロールできる場合には、多くの場合、専門的な対処が必要でないことが殆どですが、あまりに不安感や憂鬱感が長期化して慢性化している場合やパニック発作、強迫症状などを伴う場合には簡単なカウンセリングやアセスメントを受けたほうがいいでしょう。

■関連URL
多彩な症状を呈する神経症とは何か?

■書籍紹介
対人恐怖―社会不安障害
対人恐怖 社会不安障害 (健康ライブラリー)

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