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zoom RSS 村上春樹『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』の感想:2

<<   作成日時 : 2017/04/13 20:40   >>

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約6年のユズとの結婚生活が終わろうとしていた私は、精神的に非常に不安定な部分があり、端的には『この先どのように生きていけば良いのか・何を目指して生きていけば良いのか』という方向感覚を喪失していて、そのつらさを意識化しないために世俗から離れた山奥の家に暮らして、宛てのない『車の一人旅・自由な芸術創作・刹那の性的関係』にのめり込んだ所があるようにも思えた。

第1部の後半では『理不尽に別のハンサムであろう男を選んで自分を捨てた妻への抑圧していた怒り・殺意』が、宮城県を旅していた時に見かけたファミレスにいたスバル・フォレスターの中年男の内的な怒りとシンクロして体験される。

村上春樹『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』の感想:1

第1部で画家である私は『二枚の抽象的な男性の肖像画』を描き上げて、更に『もう一枚の若い女性の肖像画』を描くためのプロセスを重ねているが、描いた男性の肖像画の一枚がこの何故か心を捕えられて忘れられない『スバル・フォレスターに乗っていると思しき中年男(ただ見かけただけで知り合いでも何でもない)』なのである。

“私”は自分自身でも『自分が妻に裏切られて捨てられたこと・妻が他の男に抱かれている情景を想像してしまうこと』にこれだけのショックと悲しみ・怒りを感じていたことに気づいていなかった。

スバル・フォレスターの男は、私が妻と離婚することになった傷心から車を使った東北旅行に出かけ、宮城県の海岸沿いの小さな町にいる時、ファミレスで見かけた男に過ぎない。私はその宮城県の小さな町で、ファミレスで偶然居合わせた誰かに脅えている若い女から半ば誘われるような形で一夜の関係を持ったのだが、私にはその若い女がスバル・フォレスターに乗っていると思しき中年男を恐れているように見えた。

もしかしたら、若い女はスバル・フォレスターの中年男からストーカーのように付きまとわれているか交際していて暴力を受けているのかもしれない、実際のところ、若い女とその中年男がどのような関係にあるのか、そもそも何かの関係があるのかは分からないのだが、私は『スバル・フォレスターの中年男の彼女』を寝取ったような居心地の悪さを感じていた。

ファミレスでひとり沈黙しながらナイフとフォークをかちゃかちゃと動かして食事を取るスバル・フォレスターの中年男からは、不満や怒りといった負の感情が吹き出しているように感じられた。

その『女から見捨てられた・逃げられた』という孤独な男の不満や怒りの感情が、別の男を作った妻(ユズ)から捨てられたように感じている自分の中にもあったことに驚愕する。山中の家に住んでいる時、不倫関係を持っていた既婚者の40代女性から、“私”は顔を叩いたり軽く紐で首を絞めたりするSM的なプレイを要求されるのだが、私は非常に強い抵抗感と恐怖感を感じる。

それは無意識に抑圧していた『自分を捨てた妻への怒り・憎悪』がある種の殺意にまで高ぶっている現実を刺激されたからであり、『首を締める振りをするだけでいいから』という相手の要求に応えているうちに、締める力の強さが抑制を失ってエスカレートするのではないかという自己制御の自信の無さからくる恐怖感でもあった。

何でもない風を装う表面上のクールな対応によって、生身の荒ぶる感情(別の男ができた相手の都合による一方的な離婚に納得いかない思い)を抑圧し続けていたが、自分からではなく『女から別れを切り出された男の心理・弱さ』をなかなか上手く表現している。第1部では妻のユズとの直接のやりとりはあまり出てこず、主人公で画家の“私”と私に肖像画を書いてもらいたい豊かな若白髪を伸ばしたお金持ちの免色渉(めんしきわたる)とのやりとりが中心になっている。

“私”にぜひ自分の肖像画を描いてほしいという依頼を指名でしてくるのが、谷間を挟んだ向かいの山の上にある白い豪奢な邸宅に住んでいる“免色渉”である。どんな仕事をしているのか事業か投資かで財産を蓄えたのか分からないが免色渉はとにかくお金持ちで、肖像画の作成に対する報酬も破格である。

免色渉は相当な資産家か経済的成功者であるにも関わらず、自分にまつわる個人情報や過去の人生の痕跡を完全に消し去っている、この現代の情報化社会でインターネットで検索しても免色渉に関する情報が一切でてこないのは奇妙でもあった。関係を持っている40代女性の『ジャングル通信(女性同士の井戸端会議のおしゃべり)』から、免色渉に関連する断片的な情報がちょこちょこと入ってくるのだが。

銀色のスポーツクーペのジャガーで、私の家に乗り付けてきた免色は真っ白なコットンシャツにカーキ色のチノパンツを履いたお洒落な中年男で、髪の毛はそこまで高齢ではないのに降り立ての処女雪のようにすべて真っ白であった。

免色が私に提案してきた肖像画の報酬は常識的な相場からは考えられないほど高額であったが、『実際に自分がモデルになって対面した状態で描いてほしい(私との交流を通して肖像画が描かれるプロセスを体験したい)・肖像画という制約に縛られないで私を自由に描いてほしい』という条件はついていた。


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免色渉の肖像画を描きあげていくプロセスで、私と免色は次第に個人的にも親しみを感じ合うようになり、それぞれの人生・感性・考え方についての知的なコミュニケーションを繰り返していくのだが、その会話の言葉一つ一つもなかなか示唆的で含蓄がある。 ...続きを見る
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