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zoom RSS M.マクルーハンのメディア論と人間の意識:マスメディアの時代が生んだネーションとパブリック

<<   作成日時 : 2014/03/28 15:14   >>

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メディア(media)とは、何らかの情報・知識を他者に伝達したり、モノや人がある地点を移動させたりする『媒体・媒介』のことである。現代でメディアというと、狭義のメディア定義となるマスメディア(テレビ・新聞・雑誌)やインターネット(ユーザー参加型メディア)のことを指すことが多いが、広義のメディアには手紙も電話も電信も含まれる。人やモノを移動させる電車・バス・自動車・自転車などもメディアの一種であり、話し言葉(声)や書き言葉(文字)さえも他者に何らかの情報・意思を伝達するための原初的なメディアなのである。

独創的なメディア論で知られるカナダの英文学者・文明評論家のマーシャル・マクルーハン(Marshall McLuhan, 1911-1980)は、メディアを『人間の身体を拡張するテクノロジー全般』として定義したが、この定義にまで拡張されるとメガネでも武器でも靴でもロープでも何でも、人間が発明して利用する便利な道具(生物学的な身体能力以上の機能を発揮できるようになる道具)のすべてがメディアとして認識されることになる。

グーテンベルクの活版印刷術の発明やマルティン・ルターの宗教改革によって、ラテン語を読める知識人(聖職者)ではない一般人も自国の言葉で『聖書』を読めるようになった。グーテンベルクの活版印刷術や東洋への印刷技術の伝播(紙媒体の情報増加)が、広義の『読書人(マクルーハンが活字人間と呼ぶ人間)』を世界中で急速に増大させて、『文字の時代(他の感覚から切断された視覚の優位)』を本格化させたのである。

M.マクルーハンはメディアの歴史区分を、『声(話し言葉)の時代・文字(書き言葉)の時代・電子メディア(テレビ)の時代』に分けているが、近代国家の国民意識(国民アイデンティティ)の原型は『文字の時代・新聞を毎日読むような活字人間』によって彫琢されていき、ナショナリズムの高揚は国民が同じニュース報道を見続ける『電子メディア(テレビの時代)・テレビ人間』によって煽られた側面がある。

近代初期の産業革命を受けたマスメディアの急成長と普及は、毎日、みんなと一緒に画一的な社会や政治についての情報を受け取って喜んだり悲しんだり怒ったりする『国民』を生み出し、『国民としての自意識・帰属感』が自国と外国との対立構造の境界線を明確化する愛国心やナショナリズムの強化にもつながっていった。

ウェブを含むマルチメディア時代に生きる私たちからすれば、一切のメディア情報がない閉鎖的環境というのはちょっと想像ができないが、メディアと自意識・帰属感との相関関係は切り離せないほど強固なものであり、愛国心や国民意識は自然発生的なものであるというよりは、新聞・テレビ・ウェブを通した情報伝達を必要とするメディア的なものという側面が強い。

新聞・テレビ・雑誌といったマスメディアの普及がなければ、毎日国民が同じニュース報道の情報を受け取れるメディアや環境がなければ、国民国家や国民アイデンティティはそもそもそれらが成立するための共有意識の基盤を持てなかったというのは概ね真ではある。

生まれてから死ぬまで新聞にもメディアにも学校教育にも接する機会がなく自給自足の狭い共同体で生きれば、顔を合わせたこともない人たちで構成される大規模な集団の範囲で『国家・国民・民族』の観念が自然に発生するとは考えにくい。実際、十分な近代化が為されておらずテレビ・新聞が普及していないアジア・アフリカの地域では『近代的な国民意識』よりも『伝統的な部族意識』のほうが強くなっている。

つまり、他者と時間・空間を共有していなくても画一的な情報知識を伝達して共有できる『文字や電子のメディア』がなければ、『仮想的な公共圏・公共性の拡大』には自ずから限界があり、民族主義を背景とする近代国家はベネディクト・アンダーソンの語る『想像の共同体』としての性格を必然のものとして持っているのである。

伝統的な部族意識とは、『声(話し言葉)の時代・文化』の産物であり、人と人とが空間と時間を共有して直接的な対話(フェイス・ツー・フェイスの対話)を繰り返す中で自然的に形成されるものである。それに対して、近代的な国民意識とは、『文字(書き言葉)の時代・文化』の産物であり、空間と時間を共有しなくてもリアルタイムの対面での会話をしなくても、文字・映像(録画)・ウェブなどを通して『他者と共通の情報・知識・認識』を持つことで国民意識が人為的に形成されるのである。

識字率の向上を背景にして、新聞・テレビのマスメディアが急速に発達した近代では、同じ言語圏・文化圏に帰属する人たちが『政治・経済・社会(世間)についての共通の情報・知識・問題意識』を持つようになり、ネーション(国民)としての自意識を持って議論をしたり政治的要求をするようになる。

M.マクルーハンは『文字の時代・文化』における人々の相互作用の変化が、『ネーション(国民)』『パブリック(公衆・公民)』という二つの種類の人間を生み出しくいくと考えた。パブリックというのは新聞・書物を日常的に読む『読書人(活字人間)』であり、読書から得た情報・知識を活用しながら、主体的な政治参加や議論をする近代市民の一類型として定義されている。

ネーション(国民)は、国家共同体への忠誠心を軸に生活して、国家権力(民族意識)に適応して貢献する人たちであり、必ずしも新聞・書物・論文などを読んで議論をすることが好きな読書人層(活字人間)ではなく、どちらかというと経験主義的な価値観を持ち、勤勉に働いて社会的な義務を履行することに存在意義を見出す人たちである。

パブリック(公衆・公民)は、ユルゲン・ハーバーマスの提唱した『公共圏』を形成する読書人層(活字人間)や弁舌家・論客であり、新聞・書物・論文などを日常的に読んで政治や社会、国際情勢にまつわる知識・情報を仕入れながら、『現在の体制・政治・社会構造の問題点』に対する批判精神を絶やすことがなく、国家権力(政府)や集団行動(民族意識)に対してメタレベルの視線(客観的に観察・分析するような視線)に立って改善しようとする人たちである。

しかしネーションとパブリックは、一人の人間がどちらか一方だけに分類されるような二分法の概念ではなく、一人の人間の行動や発言、内面、価値観には『ネーション(国民)としての側面』『パブリック(公衆・公民)としての側面』のどちらもがあり、その配分・比率がそれぞれの個人によって大きく異なっているのである。

近代初期には、17〜18世紀のイギリスのコーヒーハウスやフランスのカフェが、政治的・社会的な問題意識を持つ人たち(文字の時代に深く適応した活字人間)が集まって喧々諤々の討論・意見を戦わせる『公共圏』として機能した。だが、二度の世界大戦を経験した後の先進国では、政治に対する熱狂が冷めて個人主義化が進んだり、政治的・公共的な議論以外の私的な関心事や趣味的なコンテンツが急増加したりしたことで、顔と顔を合わせて議論を交わす過去のカフェのような『公共圏』はほぼ姿を消している。

先進国のカフェは『仲間内・身内だけで気楽なおしゃべりをする私的空間の細分化(個人で静かに過ごすプライベート空間化)』が顕著になっていて、カフェで初対面の相手と新聞・テレビから得た社会・政治の情報を元にしてシリアスな議論を交わすことなどは有り得ないし、例え、公共的な問題意識に基づいた議論・意見交換を試みてもそれに応じてくれる他のお客や店員はまずいないと思われる。

哲学カフェや政治カフェといった『特別なコンセプト』に基づく個人経営のカフェも時にあるが、そういった知らない相手と共通の問題意識をベースにして自由闊達に意見を交わすような公共圏としてのカフェ(飲食店)が主流になることは考えにくい。

ウェブ社会が進展している現代では、インターネットのSNSやニュースサイト、掲示板などに『言論レベルの公共圏』としての役割が期待される向きもあるが、実名性・身体性の裏づけを持った実際の政治行動(デモ・市民運動・立候補などの政治要求)にまで発展しにくいという限界もある。『ウェブにおける興味関心の細分化・個人化』も、かつてのパブリック(公民)にあった画一的な問題意識の共有とその克服に向けた連帯・協力を難しくしている、その意味ではウェブ社会での政治的発言と近代的な政治モデルとの相性は必ずしも良くない部分がある。

マーシャル・マクルーハンのメディア論や時代分析、ユルゲン・ハーバーマスの公共圏や政治的な議論の可能性などについて興味のある方は、以下の記事も読んでみてください。

マーシャル・マクルーハンのメディア論:メディアの歴史とナショナリズム

マーシャル・マクルーハンの熱いメディアと冷たいメディア:公共圏とグローバル・ビレッジ






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