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zoom RSS 境界性・自己愛性のパーソナリティ障害と自己愛の発達3:コフートの自己心理学と愛情不足・過保護の影響

<<   作成日時 : 2012/01/25 23:25   >>

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境界性パーソナリティ障害でも自己愛性パーソナリティ障害でも、『自律的な自己アイデンティティの形成』ができないという問題が見られ、自己アイデンティティが拡散して依存性や自己顕示性が強まることで『他者との対等な人間関係』を築くこともできなくなります。

境界性パーソナリティ障害には過去の記事で書いてきたように多種多様な症状や問題が見られますが、それらは大別すれば『気分と感情の不安定性・行動と態度の不安定性・対人関係の不安定性・自己アイデンティティの拡散・自己否定や自傷衝動の強さ』に分類することができます。

1.気分・感情の不安定性……気分が前向きになってハイになったと思ったら、次の瞬間に急速に気分が落ち込んで抑うつ感情が生じたりする。前触れなく不安感や焦燥感に襲われやすくなり、思い通りにならない対人関係で『激怒発作(アンガーアタック)』と呼ばれる反射的な激しい怒りを感じることもある。

2.行動の不安定性……ギャンブル・薬物・過食拒食(摂食障害)・セックスに対する依存症的な耽溺が見られることがある。依存性の過剰によって、家庭内暴力や家族・恋人・親友に対する癇癪(激怒発作)が起こることがある。自殺をほのめかして脅したり実際に自殺企図を行ったりする恐れがある。

リストカットやアームカット、オーバードーズ(過量服薬)などの自傷行為を行うことで、『苦しみ(孤独)に気づいて欲しいというクライシスコールの伝達・痛覚による自己確認・嫌なことを忘れるストレス緩和(カタルシス効果)の試み』をしようとする。

3.対人関係の不安定性……自分の期待や依存を満たしてくれる相手を手放しで『賞賛』するのだが、自分を少しでも拒絶したり批判したりするとその評価は180度変わって、『こき下ろし(全否定の攻撃的非難)』をするようになったりすることがある。

『過剰な理想化』によって相手を褒め殺しにすることも多いのだが、その理想像が少しでも崩れて自分に孤独感や不安感、怒りを感じさせるようになってくると、相手を『過小評価・全否定』するようになりやすい。一般に、『白か黒かの思考(全か無かの思考)』と呼ばれる二分法思考(良いか悪いかの二元論的な人間観)を持ちやすく、『両極端な対人評価(賞賛か全否定か)』が増えることによって人間関係が極めて不安定になってくるのである。

それらの不安定性の主要原因は、他者からの愛情や保護、承認を与えられ続けなければ、自分が何ものなのか分からなくなり、自己の存在価値を見失ってしまうという『自己アイデンティティの希薄さ・方向感覚の喪失』にあり、更にその背景には過去の記事で何度か取り上げてきた『対象恒常性の欠如(内面で安定して自分を支えてくれる他者イメージの欠如)』があります。自己愛の調整障害や精神発達の固着・退行は『二次的ナルシシズムの影響』を受けていますが、自己愛障害の『発達論的な原因(発達早期の親子関係の偏り・歪みによる原因)』は大きく以下の2つに分けることができます。

1.愛情・保護・承認の欠落(無視やネグレクト、拒絶、非難など)=自己否定および愛情飢餓を強化するアプローチ

2.愛情・保護・介入の過剰(過保護や過干渉、甘やかし、溺愛など)=他者への依存性および自信欠如を強化するアプローチ

この2つは正反対の関わり方のようにも見えるのですが、結果としては『子どもの自律性・自己効力感・安心感』を否定する作用を持つ望ましくない関わり方であり、『他者に対する基本的信頼感』を損ねたり、『自己アイデンティティの確立(他者に依存しない自分のあり方の定義)』を阻害する恐れがでてきます。

自己心理学のハインツ・コフートは『自己愛』を病的なものではなく必然的なものと定義して、『健全な自己愛(self-love)』の成長を促進することができれば、他者を共感的に思いやって愛そうとする対象愛(object love)や他者と協調性を持って活動する社会性(適応性)も同時に発達すると考えました。自己愛は自尊心や自己肯定感、自己効力感の裏づけになるものでもあり、H.コフートは『自分を愛せない者は、他人も愛することができない』という言い回しを精緻に理論化しています。

H.コフートの想定する自己愛は、『自己の積極的な肯定』であり『理想化と関係する自尊心(自信)の基盤』ですが、コフートは問題と困難が多く降りかかってくる人生を意欲的に乗り切っていくためには“生のエネルギー”となる自己愛が必要不可欠だと考えました。

また、自分を完全に捨てて対象(他者)だけを愛する『完全な対象愛』が滅多にないように、自分だけを盲目的に愛して対象(他者)を全く無視する『完全な自己愛』というのも実際には殆どないわけで、H.コフートは自己愛を広義に解釈して『自分と自己対象に対する愛』としました。つまり、自己心理学で用いられる自己愛は、『自分自身に対する自己愛』だけではなく『自己対象に対する自己愛』も含むものということになります。

“自己対象(self-object)”というのは、自分にとって自分と同等に大切な他者のことですが、コフートの自己心理学では自己愛を自分と自己対象(大切な他人)を愛する感情として再定義することで、S.フロイトの病的な自己愛のイメージを払拭することに成功しています。従来の自己愛には『自分自身しか愛することができない』や『他者への共感性や関心の欠如』といったネガティブで病的なイメージがついていましたが、自己心理学の自己愛はそういった『排他性・自己中心性・過度の内向性』を中和しています。『健全な自己愛』の概念に基づく理論化を行いながら、自己愛の正常な発達ラインの目標として『向上心』『理想』を挙げています。






■関連URI
境界性・自己愛性のパーソナリティ障害と自己愛の発達2:自己アイデンティティの脆弱性と依存性

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自己顕示的なパーソナリティ障害における“虚言癖・演技性の心理”と“他者操作・場の支配の影響”

境界性パーソナリティ障害における『対象恒常性の欠如』と『自己アイデンティティの拡散』

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