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前回の記事の続きになるが、毎日会社(官庁)に通勤して働いていない人をひきこもりとする『広義のひきこもり』は、自室(自宅)から出られない人をひきこもりとする『狭義のひきこもり』よりもその数が必然的に大きくなるし、比較的健常なパーソナリティ(主観的苦悩の小さい心理状態)を持つひきこもりの人の比率が増えてくる。 ひきこもり親和群というのは『ひきこもれる環境・条件』があればひきこもりたいという人達であるが、これは昔から良く言われる『宝くじで3億円が当たったら会社を辞めるか』という労働回避意識(隠遁・早期リタイアの願望)とも重なる心理状態である。 自室(自宅)から外に全くでないという『狭義のひきこもり』の生活状態に適応(我慢)できる人はそう多くないと思われるが、仕事をせずに好きなことだけをやる『広義のひきこもり』というのは、以前は資産家の盆暗息子やふらふらしている遊び人(ヒモ)と呼ばれた人たちに近く、経済条件さえ許せば広義のひきこもりになってしまう人は少なくないだろう。 現代では過去と比べて、広義のひきこもりが可能な親の所得・資産水準が格段に低くなっていること(就労に役立つ社会教育資源にアクセスしにくい低所得者層ほどひきこもりやすいとも言われる)、過去よりも地域共同体による相互監視の規制(世間体の悪さ)などが余り無くなっていることも、ひきこもり増加現象の要因である。 世間体の集団圧力や社会(国家)のために働かなければならないという労働規範が弱まった結果、親が子どもを働かせようとする圧力も低下しやすくなり(過保護・モラトリアムの傾向が強まり)、仕事は『自分(+家族)のためだけにする』という労働規範の個人化も進んだ。 戦前戦後の時期までは殆どの家庭に経済的余裕がなく、中学を卒業すると同時に働かなければならないような厳しい経済条件と近隣への世間体があったが、高度経済成長期から『社会の高学歴化』が急速に進んで大卒者を中心にして『職業選択の幅』に広がりがでてくる。良い大学から良い企業に就職することが中流階層の目標・競争になると同時に、『学歴・自尊心と相関した職業意識の階層化』も進んで、何でもいいからとにかく働く(仕事があるだけでありがたい)という意識も衰えていった。 広義のひきこもりを増加させる現代社会の環境的・心理的要因としては、以下の5点を上げることができるが、この事は社会の匿名的な都市化(個人化)により『他人に無関心な個人・相互にプライベートに干渉しないライフスタイル』が増えたことと無関係ではないだろう。 地縁血縁・互酬性・情緒など対人関係で構築された『顕名的なゲマインシャフト』が、金銭・商品・契約など経済関係で構築される『匿名的なゲゼルシャフト』にシフトすることによって、他人・帰属集団に望まない干渉をされたくない個人が増えるのは必然であるが、そのことによってひきこもりやすい心理状態や環境要因が生まれるとも言える。 1.インターネットを中心とする情報化社会の進展による『(リアル外部の)コミュニケーション機会・インタラクティブな娯楽』の増大。 2.都市部を中心とする地域社会の衰退や個人の匿名化による『村社会的な相互監視・世間体の圧力』の低下。 3.親世代の子に対する『労働規範の希薄化(過保護化)』と職業選択・無職期間の長期化につながる『モラトリアム遷延』。 4.プライバシー感覚の強化や価値観の多様化によって自分とは異質な他者と関わらなくなる『個人化・島宇宙化』 5.『社会のために働く動機づけ』と『生活(金銭)のために働く動機づけ』のバランスの偏りと労働意欲の低下 労働で社会参加せずにひきこもっていても楽しめるインターネットや安価な娯楽の増大があり、人間ひとりが最低限の生活をするためのコスト低下がひきこもり増加の要因となっているが、そこに親世代の自分に合う仕事がなければ急いで就職しなくても良いという労働規範の相対化や他人の生活状況に無関心な社会の個人化(都市化)が合わさることで広義のひきこもりに陥りやすくなっている。 調査では、ひきこもるきっかけとして『職場になじめなかった・病気(統合失調症以外の精神疾患)』が23.7%、『就職活動がうまくいかなかった(20.3%)』、『不登校(11.9%)』が上がっており、ひきこもりの人は小中学校時代の学校適応も悪くて、我慢しながら学校に通っていたという人の比率が大きいようである。過去の時代であれば、職場になじめずに適応できなかったとしても、短期間で『次の新たな職場』を探していたはずであるが、それができなくなっているというのはストレス・トレランス(ストレス耐性)の低下や働く意味づけの低下が想定されるだろう。 どんなに嫌なことがあっても不満なことがあっても働かなければならない(仕事は選んではいけない)というのが近代社会の強固な労働規範であるが、この労働規範の強度は『自分自身の労働道徳(労働意欲)』だけに由来するというよりも、『経済的な条件・危機意識』や『家族・友人関係における自己定義(就労への圧力)』によって強められる傾向がある。規律訓練システムとしての学校(集団生活)に適応しづらく大きな苦痛を感じるということは、一般的には企業活動(サラリーマン生活)にも適応しづらいということを意味するが、働く動機づけとして『お金以外の楽しみ・目標』や『長期的スパンでの危機感』を感じ取れるか否かがひきこもり対策のポイントになってくるのではないだろうか。 調査の座長で明星大学大学院人文学研究科の高塚雄介教授は『今の社会は言語コミュニケーション能力の高さが重視されており、そこができない人は流れから外れ、ひきこもる傾向にある』と指摘しているが、『対人関係・コミュニケーションが苦手で職場適応できない群』と『コミュニケーションはできるがストレス耐性と労働意欲(仕事の意味づけ)が続かない群』とでは対処法・支援策を分けて考える必要があるように思える。 ひきこもりやニートが厚生労働省・総務省などの社会統計で問題として取り上げ始められたのは、『生産人口(就労人口)の減少』によって生産性・税収が低下したり社会保障制度の持続性が危ぶまれたりするからであるが、こういった政治的・社会的視点では『社会経済的自立(金銭面の勤労所得・税収・保険料)』だけに焦点が当てられがちである。この事は働いていてもいなくても経済的な義務(支払い)だけを済ませていれば良いという価値判断につながりやすく、一般的には社会参加して働こうというモチベーションとは直接的に相関しないことも多い。 大きな成功報酬があるような一部の仕事を除いては、仕事というのは『単調な日常的業務の反復』という性格を持ちやすく、お金のためだけに働くというのは口で言うほどに簡単なことではない。多くの人は『生活・お金のために働く』と言うことはあっても、潜在的には職場に通勤したり同僚・顧客を関わったり、職務を遂行したりすることによって『社会的な承認(他者の感謝)・自己アイデンティティの確立・家庭の維持』という周辺的なインセンティブを受け取っているはずである。 好きなことや興味のあることを初めから仕事にできるという人は幸運かもしれないが、『仕事による自己実現・自己アイデンティティの確立』というのは、それほど好きでもないことでも仕事としてやっている内に、いつの間にか充実感や面白みを感じられたりするという感覚に近いように思う。『自分の希望する企業・職種』でしか働くつもりがないというような自尊心の強い人は一度の挫折によって広義のひきこもりになりやすく、『仕事というのはお金・生活のためだけにするものだ』という義務的な労働観を持っている人も、家庭・親にひきこもれる条件(一定の経済基盤・労働規範の寛容さ)があればひきこもりやすくなってしまう。 仕事は嫌々ながらお金・生活のためだけにやろうとしても長続きしないことが多いが、反対に仕事を理想的な夢や自己実現とばかり結び付けていれば初めから何の仕事も選べないという問題もでてくる。ひきこもりを抜け出す労働の動機づけとしては、義務的に給料(お金)を稼ぐこと以外の社会的な承認や他者との人間関係、消費生活への欲求などが求められてくるが、そのためには『仕事・対人関係に対する硬直的(否定的)な認識』を今よりも柔軟に受け取りやすい形に変えていくことが必要なのではないかと思う。 広義のひきこもりは動物実験でも確認されている『ストレス回避反応』の一種として考えることもできるが、人間の場合にはそこに対人関係や相互的コミュニケーション、自尊心(自己定義)の要因も関わってくるのでよりひきこもりの要因は複雑になってくる。 ひきこもりは女性よりも男性に多い非社会的問題といわれるが、それが男性のほうが『社会的職業的地位・所得水準』による優越感・劣等感をセンシティブに感じやすいジェンダー要因(社会的まなざし)があり、自分に不利な競争環境を回避したいという自尊心が強く機能しやすいからだろう。 ひきこもりの対処では自分なりの働く意味づけを何でも良いから見つけることが前提となるが、実際には働いてみた後で意味づけが実感されることもあり、この順序は逆転しても構わないことが多い。広義のひきこもりが発生しやすい社会的環境的要因は増えているが、自分の人生を自分でコントロールできるという『社会経済的自立』と自分なりに仕事と相関する楽しみや価値を見出すという『労働の動機づけ』をどう上手く結び付けていけるかが大事なのではないだろうか。 嫌なことや不満なことがあってもなぜ更に働き続けるのかというのは、以前であれば『家族を守るため・世間に顔向けできない』ということもあったが、最近では未婚化・少子化・都市化によって社会的再生産(他人の人生への関心)も停滞しており、家族や子どものために労働意欲を強めることが難しくなったというのも広義のひきこもりの一因ではあるだろう。この因果関係は、家族や子どもを持つための所得を得られる仕事(雇用)が減ったということの裏返しでもあるので、働きやすい労働環境の改善や再チャレンジ可能な労働市場の創出を進めることもひきこもり改善の一助になると思う。 ■関連URI 青年期のモラトリアムや中年期のアイデンティティの危機と関連するアパシー・シンドローム(選択的退却) 人間はどうして働くのか?2:自発的に働くモチベーションや意味を規定するパースペクティブ 『不登校』の小中学生児童の増加と義務教育段階で習得しておくべき最低限の能力・知識 『厳格さと寛容さのバランスの取れた親子関係』で家族への信頼感と他者(外部)への欲求を育む ■書籍紹介 ひきこもりはなぜ「治る」のか?―精神分析的アプローチ (シリーズCura) 中央法規出版 斎藤 環 ユーザレビュー: 参考になりますひきこ ... ひきこもりの支援や治 ... 「ひきこもる」若者? ...Amazonアソシエイト by ![]() |
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やる気を生む内的モチベーションと外的インセンティブ3:自律性・熟達性・貢献感で高まる働く意欲
前回の記事の続きになりますが、『報酬の隠されたコスト』の悪影響が起こりやすい分野は大きく分ければ二つあります。それは『ヒューリスティックな仕事』と『利他的・献身的な活動(ボランティア・献血など)』であり、後者の利他的行動(無償奉仕前提の活動)においても、被災地ボランティアを有償の仕事にしたり、献血希望者に見返りの報酬を与えると、逆にそれらの活動に参加したいという人の数が減る事が社会心理学的な実験(スウェーデンの献血報酬実験:Mellstrom & Johannesson, 2008)で確認... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2011/04/09 19:51 |
社会的ひきこもりの定義と心理行動パターン1:他者に対する優越感・劣等感と思春期的な挫折体験
現代の日本では、社会活動や職業活動に参加しない“非社会的問題”としてのひきこもりが増えていると言われる。ひきこもりの人の数は、自宅・自室から全く一歩も出られないような重症例の人は数万人〜10万人程度とも言われるが、軽度のうつや対人不安、自信喪失、モラトリアム、就労拒否、アパシーなど『買い物や遊びでの外出・親しい周囲の人間関係』には適応できるが職業活動(社会参加)が続かないという人まで含めると、約130万人以上にも上ると推計されていたりもする。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2011/07/05 07:25 |
新型うつ病の労働適応とポストモダンの環境管理型権力5:精神医学的な正常‐異常の基準・働く事の本質
前回の記事の続きになりますが、ポストモダン(後期近代)の社会では、教育制度や命令規則によって行動基準を内面化させる“規律訓練型システム(権力)”に代わって、本人が操作されていると気づかないうちに環境条件の調整によって本人の行動選択を無意識的に誘導するという“環境管理型システム(権力)”が中心になると考えられています。しかし、労働の動機づけや仕事のストレス対応、職場適応といった部分では環境管理型システムも余り上手く作用していないのではないかと思います。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2011/12/02 14:17 |
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