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人間の性格形成や能力向上、精神発達に与える『遺伝要因・環境要因』の影響がそれぞれ何パーセントであるのかを、正確に判断することは難しい。遺伝要因と環境要因の影響を厳密に区別する研究方法(環境条件の統制)には限界があるので、一卵性双生児を用いた『双生児研究(異なる成育環境で成長した双生児の性格・知能・適応の比較)』などの成果を元にして遺伝要因と環境要因の大まかな比率を推測するしかないからである。 そもそも、両親の育児(しつけ)や学校の教育、企業での労働、社会的・経済的な環境、所属集団の文化規範などが無ければ、個人は言語的知性や社会適応力、コミュニケーション能力を持った『人間』にはなれないのだから、環境から切り離された『純粋な遺伝要因』を想定するのはナンセンスとも言える。 自然環境で最低限の食事や衣服、住居(室温)、医療などを与えて赤ちゃんを成長させても、『純粋な遺伝要因』がひとりでに発現して何らかの能力・適性が上昇していくとは想定できず、言語・知性・倫理観を持たない野生児として本能に支配された人生を終えることになるだろう。 そのことから、『人間(社会)にとって有用・有能な遺伝形質の発現』は、家族関係・文明社会を含む『環境要因の閾値(学校教育を受けられるので文字を読み書きできるようになるなど)』と深い相関があり、社会的・文化的・経済的な環境によって、その個人が発達させられる性格や能力の方向性は大まかに規定されると言える。 一方で、『同一の生活環境(家庭環境)・学習環境(職場環境)』を与えられた個人間における『性格・能力・成果の違い』には、『遺伝要因の差』も多く含まれると推測されるが、両親の子への接し方や学習方法の工夫、仕事の進め方の改善などで結果が変わってくることもある。 ビネー式知能検査やウェクスラー式知能検査で測定される『知能指数(知的能力の指標)』では、一般的に生活年齢が低い子どもほど環境要因の影響が大きいが、生活年齢が高くなるにつれて遺伝要因の影響が大きくなってくる。成人になると性格傾向にしても知能水準にしても、環境要因の影響はかなり小さくなってくるので、『加齢(年齢の上昇)』と『遺伝要因の影響』とは基本的に比例関係にある。 性格面でも知能面でも興味関心でも、年齢が低い幼児期〜思春期のほうが、(例外はあるけれど)一般的には成人期よりも『柔軟性・過疎性・成長可能性』が高いので、その意味でも『環境による影響』が小さい子どもほど大きくなりやすいのである。統合失調症やうつ病(気分障害)、不安障害、依存症(嗜癖問題)などでも、遺伝要因の影響がかなり大きくなっているが、そこには発症リスクを上昇させる環境要因(環境条件の閾値)との相互作用も仮定することができるだろう。 知能の上限やパーソナリティ(性格)の基本傾向に与える『遺伝要因の影響』は年齢が高くなるにつれて大きくなりやすいが、質問紙法によって『各個人の成育環境(家庭環境)』の内容を厳密に把握することは困難なので、自己と他者の成育環境がだいたい似たものであれば『同じ環境』と推測して良いのかという疑問は残るかもしれない。知能と年齢・遺伝の相関の統計的研究としては、T.J.ブーシャール(T.J.Bouchard)やマクギー(McGue)らの研究が知られている。 家族の人数や出生順位など家族要因が、『知能指数(IQ)・性格傾向』にどのような影響を与えるのかといった研究も多く行われているが、社会経済的要因を統制すると知能指数・成績の高低には、子どもの人数の多さや出生順位による影響は殆どないとされている。子どもの知能指数・学業成績には遺伝要因と環境要因の双方が関係しているが、以前言われていた子どもの人数が多いほど知能指数・学業成績が低くなるという傾向性は、家庭の経済要因(相対的貧困)や教育投資(親の進学希望・教育費用の高さ)との相関のほうが高い。 兄(姉)か弟(妹)か、何番目に生まれたかによって性格傾向や学業成績に違いが見られるという仮説は、親の愛情や関心を兄弟姉妹で奪い合う『カイン・コンプレックス(同胞コンプレックス)』と絡めて色々な主張が為されているが、J.M.ビアとJ.M.ホーンの統計的な横断研究では有意な『出生順位による性格・成績の差』は無いとされている。 J.M.ビアとJ.M.ホーンは何歳になれば良識性や協調性が高まってくるという『発達過程の年齢要因』を考慮すれば、兄よりも弟のほうが良識性や協調性で劣るのは当然であり、弟も兄と同じ年齢になれば大差のない性格特性を示すようになることを示しているが、『出生順位による性格傾向の違い』の多くは家族間における主観的・了解的な差異に近いものだとも言える。 両親の育児行動(養育態度)や子どもとの接し方が、子どもの性格形成や知能発達にどれくらいの影響を与えるのかという統計的研究も色々と行われているが、『虐待問題や遺棄・社会経済的要因・両親の大きく偏った性格・子どもとの遺伝的な共通素因』を除外すれば、両親の養育態度が子どもの性格特性に影響する比率は極めて低いとする研究もある。 この両親の育児態度と子どもの性格形成の相関について調べたポールッセン‐ホーヘボーンらの研究は、『心理学で何がわかるか』の新書の「第2章 人柄は遺伝で決まるか」の最後で紹介されているが、虐待や遺棄、親の性格上の問題が除外されているように、極端に否定的かつ虐待的な育児行動が続けば、子どもの性格形成や自己評価にマイナスの影響を与えることまでを否定するものではない。 親の育児行動は子どもの性格形成や知能発達に直接的に影響するものというよりは、『子どもの親に対する認知(対人評価を伴う親子関係の捉え方)』や『子どものトラウマティックな記憶(親子関係に対する苦悩・寂しさなど未解決な心残り)』に大きな影響を与える可能性があるものとして考えることができる。 ■関連URI 人間の性格や知的水準を規定する“遺伝”と“環境”のバランス:遺伝子・環境の決定論の限界 人間行動の予測・制御を目指した行動主義心理学とオペラント条件づけから導かれる“マッチング法則” 人間の行動を統御するメカニズムとしての快楽原則と学習理論 遺伝要因と環境要因によって形成される人間の性格傾向:性格理解のための『類型論』と『特性論』 ■書籍紹介 IQってホントは何なんだ? 知能をめぐる神話と真実 日経BP社 村上 宣寛 ユーザレビュー: ステキ本です!統計学 ... 知能テストにもいろい ... この本に書いてあるこ ...Amazonアソシエイト by ![]() |
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大阪市の二児放置事件と持続的な育児行動を支える要因:判断能力の未熟と現実逃避の自己防衛
大阪市西区のマンションで置き去りにされた幼児2人の遺体が見つかった事件で、23歳の母親が死体遺棄容疑で逮捕された。3歳と1歳の2人の乳幼児を長期間にわたって密室に放置し死亡させたという極端な『ネグレクト(育児放棄)』に、メディアやネットでは当然に厳しい非難・罵倒の声が殺到したが、母親への道徳的・人格的な非難とは別に、虐待の最悪の結末(子どもの死)を回避するために親や行政、地域社会(近隣住民)はどうすれば良いのかを考えていかなければならない。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/08/08 01:58 |
マゾヒスティック・パーソナリティの“苦労・努力の自己選択”と“他者への依存性・他者の支配欲求”
前回の記事の続きになりますが、受動攻撃性パーソナリティは『不満・反発を感じながらも、経済的・実際的には依存しなければならないという苛立ち』によって突き動かされる未熟性を孕んだ人格構造であり、基本的には『依存的パーソナリティの側面』を強く持っているので、依存している対象からの『保護・恩恵』を受けられなくなるほどの徹底抗戦には踏み切れないという事になります。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2011/01/27 01:32 |
性格心理学と“性格はどこまで変えられるのか”という問い1:ペルソナ・役割演技による社会適応と自己
心理学の性格理論では、性格傾向の典型的な形式(タイプ)を分類する『類型論』でも性格構造のいろいろな因子・特徴を抽出して組み合わせていく『特性因子論』でも、個人の性格傾向は大きく変わらないという前提に立っている。乳幼児期から青年期に掛けての性格形成過程(発達過程)では、家庭環境や親子関係、友人関係、教師からの影響によって、性格の特徴は可変的な部分があるが、それでも生得的な『遺伝要因・体質・気質』に関しては固定的に考えられることが多い。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2011/10/27 09:49 |
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