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help RSS 発達心理学の歴史とフィリップ・アリエスの『子どもの誕生』3:“臨床・発達・教育”の視点

<<   作成日時 : 2010/01/18 01:09   >>

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発達心理学の歴史がどのように展開していったのかについて定説はありませんが、19世紀には自然科学(進化生物学)の発展に影響を受けた『比較心理学』という分野が生まれており、人間と類人猿の行動・心理を比較したり、人間の大人と子どもの行動・心理を比較したりする研究が行われていました。

欧米でも日本でも18世紀頃までは『大人と子どもの境界線』は曖昧な部分があり、社会的・慣習的に規定される成人年齢もかなり低かった(日本では15歳で元服など)ので、本格的な発達心理学の研究が行われる前提条件として『学校教育(義務教育)の普及』『親の育児責任の明確化』を指摘する歴史学者フィリップ・アリエス(Philippe Aries, 1914-1984)のような意見もあります。

フィリップ・アリエスが、西欧における子ども観の歴史的な変遷について考察した著作に『〈子供〉の誕生(1960年)』があり、17世紀以前の中世ヨーロッパで如何に子どもが粗末(乱暴)に扱われていたか、親の所有物としての子どもの人生が如何に悲惨で厳しいものであったかが描写されています。

子どもを危険・欠乏から保護してきちんとした教育を与えるという『家族観・社会観』が形成されたのは19〜20世紀においてであり、それまではほとんどの家庭・農家では子どもは労働力か軍事力か結婚資源として自動的に組み込まれる運命の下に置かれていました。家長(父親)の権限は絶対的なものであり、児童虐待や児童福祉という概念すら形成されておらず、『過度の体罰(身体的虐待)・間引き・捨て子・精神的虐待』が法律的に罰せられたり道徳的に非難されたりすることすらも殆ど無かった時代でした。

現代的な子ども観や発達プロセスの境界としてある『子ども・未成年の概念』というのは、前近代社会には存在しなかったわけですが、それは『学校における知識教育の必要性の低さ・子どもを労働者や性的対象とする社会的価値観』などと関係しています。つまり、18〜19世紀以前の子どもは『小さな大人』として社会的・法律的に処遇されていたのであり、家庭(親)にも学校にも保護してもらう期間が極めて短く、10代後半くらいになると何の知識・技術も持たないまま、厳しい社会(労働環境・軍隊生活・結婚生活)に投げ込まれることが多かったのです。

イギリスの産業革命や日本の殖産興業の悲劇として語られる『過酷な児童労働や未成年の女子の身売り』なども、この時代には社会・家庭・学校教育によって保護される子どもという概念が社会的・法律的に共有されていなかったことを示しています。子どもであっても親の同意があれば労働者や性的存在として処遇して良いという社会的価値観(家庭の貧困による要請)は、19世紀半ばくらいまでは先進国でも残っており、『子どもらしさ・子どもに対する保護や愛情の必要性』の認識が広まるには相当の時間と経済の発展(貧困の減少)が必要でした。

そういった歴史的背景から、発達心理学の誕生は子どもを大切に育てて愛情を注ぐという家族観・子ども観の普及を待つ必要があり、学校教育の義務化や家庭(親)の養育責任の明確化によって、子ども(幼児・児童)の精神発達プロセスを研究する『児童心理学・発達心理学』が生まれたと考えることができます。

19世紀の比較心理学は、20世紀の初頭には『乳児心理学・幼児心理学・児童心理学・青年心理学・壮年心理学・老年心理学』などへと発達段階に応じて区分されていきますが、20世紀後半になると生涯発達理論のコンセプトがゴーレットらによって提出され、統合的で科学的な『発達心理学』が誕生しました。

発達心理学の分野は典型的な発達理論というものもありますが、他の応用心理学の分野と相互的に関係している研究項目が多いので、教育心理学・学習心理学や臨床心理学との学際的な性格も強く持っています。発達心理学的な知見や理論を活用しながら、心理臨床の不適応問題や子どもの精神発達プロセスの障害をケアしていく分野が『臨床発達心理学(clinical developmental psychology)』であり、比較的新しい応用心理学の分野となっています。

臨床発達心理学では基本的に『小中学校・幼稚園・保育園・家庭環境で起こる子どもの心理的問題や発達上の障害』を取り扱うので、教育指導や学習方法、児童の学校適応を心理学的に研究する『教育心理学(educational psychology)』とオーバーラップする項目が多くなっています。

臨床心理学が対象とする問題は『精神医学的な問題・心理的原因による不適応』がメインですが、臨床発達心理学や教育心理学が対象とする問題は『心身発達に関係する問題・学校教育の不適応に関する問題・性格形成プロセスに関する発達上の問題』がメインになってきます。しかし、『心身の発達過程・生活環境(学校環境)』と『精神病理・性格形成・適応能力』は密接に関係しているので、それぞれの分野が対象とする問題やクライアントをきっちりと明確に線引きすることは難しくなっています。

『発達心理学・児童心理学』の展開に寄与した学者や著作も多く存在していますが、発達心理学の研究方法や研究対象に示唆を与えた周辺分野として『精神分析・生物学・遺伝学・知能研究(知能検査)・認知心理学・心理統計学』などを上げることができます。

優生思想のアイデアの下に遺伝学を研究したフランシス・ゴールトン(1822-1911)は、個人心理学(精神機能の発達)などに統計学的思考を導入しており、1869年の『遺伝的天才(その法則と結果の探求)』の著作で知能・素質の遺伝可能性について数量的な研究を行っています。児童心理学・教育心理学・青年心理学など新しい心理学分野の開拓に意欲的だったアメリカの心理学者スタンレー・ホール(Granville Stanley Hall, 1844-1924)も、『入学時における子どもの心の内容(1883年)』や『青年期(1904)』といった論文を書いています。

知能研究・知能検査の進歩も発達心理学の展開と関係しており、ビネー式知能検査を開発したアルフレッド・ビネーやIQの概念を導入したL.M.ターマンなどの著作も、児童心理や子どもの学習行動を理解するための参考になります。『発達心理学入門(1926年)』というタイトルのついた書籍を書いたウィーン生まれのアメリカの心理学者としてウェルナーもいますが、ウェルナーは言語心理学や音楽リズムの知覚・感覚の研究で功績を残した人物でもあります。

発達心理学の理論的文脈で言及されることの多い重要な理論としては、ジャン・ピアジェの『思考発達理論』やミラーとダラードの『観察学習(模倣学習)・フラストレーション=攻撃仮説』、アルバート・バンデューラの『社会的学習理論・セルフエフィカシー(自己効力感)の理論』などがあります。

それぞれの発達段階(生活年齢)における発達課題や学習上・適応上の問題、性格形成のプロセスについては、また少しずつ記事を書いていきたいと思います。










■関連URI
発達心理学の歴史と心理学の方法論的な科学性1:生涯発達心理学の視点による中年期の危機

発達心理学の歴史とエリクソンのライフサイクル論2:自己アイデンティティの可変的な流動化

ストレスフルな現代社会における『自己への適応』と『環境への適応』:自由主義と自己アイデンティティ形成

現代社会における自己アイデンティティの複層性・断片化が生む自由と孤独:G.ジンメルの社会形成の思想

A.バンデューラのセルフ・エフィカシー(自己効力感)と内的統制の状況認知によるモチベーション向上

■書籍紹介

子供の誕生
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