|
人間の『性格(character)』は生得的な遺伝・気質を基盤にしながら、後天的な各種の経験と認知変容を積み重ねることによって段階的に形成されていき、成人期に至るまでに大まかな『個性の傾向』としての性格が他者に認識されるようになる。人間の『精神の発達段階』と『性格特性の発現』にも密接な相関があり、精神発達過程の各段階で『適切な刺激・自他尊重の体験』を得ることでバランスの取れた適応能力の高い性格が形成されやすくなる。反対に、精神発達過程において自己嫌悪や他者不信、無力感、攻撃性(過剰防衛)を強化するような『不適切な刺激・虐待的な体験』を多く経験することで、ストレス耐性の低下を伴う性格傾向の偏りが生じやすくなる。 性格は日常的には『その人らしさを表す行動・考え方の特徴』というように理解することができるが、性格心理学でも『その人らしさを規定する一定以上の持続性がある思考・感情・行動・態度の一貫したパターン』と定義されている。性格というのはその場その場で頻繁に切り替わるような行動・考え方ではなくて、ある程度の期間にわたって持続していて自分にも他人にも『その人らしい行動・考え方』と認識されているような傾向である。性格の特徴として『持続性・一貫性・まとまり(構造)』を上げることができるが、性格構造は固定的な部分だけではなく状況・他者に適応して変化させられる柔軟な部分も持っている。 性格構造には『表層的構造(適応上の建前)』と『基底的構造(自分らしさと直結する本音)』とがあるが、C.G.ユングは表層的構造を指示する元型として『ペルソナ(仮面)』を上げており、私たちは社会生活・対人関係の多くの場面において状況適応的なペルソナ(よそゆきの構えた自分)を活用している。ペルソナは必ずしも意図的に演技した『偽者の自分』というわけではなく、社会的アイデンティティや対人関係での位置づけを定位するために自然に身に付けた『適応的な自分』として機能している。外界適応のための一切のペルソナを否定して『これが自分の本心だ』とばかりに好き勝手に振る舞えば、社会生活から逸脱して不適応に陥るかその場に相応しくない言動をして失態を演じるだけである。 自分以外の他者の視線や公的な規範が関係する社会環境では、『ありのままの自分・自然な本来の自分』をオープンに表現するとしても、最低限の節度や常識を踏み越えないだけのペルソナ(自己制御・感情表現の工夫)が必要になってくる。私たちは学校教育・家庭のしつけ・対人関係などの学習経験を通して一定の『社会化(社会常識・行為規範の習得)』が為されるが、その結果として『社会的アイデンティティ』の一部としてのペルソナをいつの間にかまとうことになる。自分ひとりの時(極めて親しい相手といる時)と他人が目の前にいる時(外部社会で活動する時)とで、まったく自分の行動・話し方・考え方・感情表現が変化しないということは通常有り得ない。 他者の性格の大まかな認知は『その人の行動の予測・刺激に対する反応のパターン』とつながっており、人間は意識的あるいは無意識的に『相手の性格傾向に合わせた言動』を調整することで円滑な人間関係を作り上げている側面がある。短気(攻撃的)で些細なことでも怒りやすい性格だと認識している相手と気長(温厚)で大抵のことでは気分を悪くすることがない性格だと認識している相手とでは、自ずから『相手に対する話の切り出し方・話し合いの進め方』に何らかの変化が生まれてくるはずである。 理屈を詰めて論理的に物事を考えることを好む性格の相手と理屈っぽい話が嫌いで義理人情(伝統的価値観)を好む性格の相手とでは、『効果的な説明・説得の仕方』が変わってくる。批判に対して傷つきやすい(怒りやすい)性格の人もいれば、特定の分野の話題に対して絶対に譲らない信念の持ち主もいて、雑談で性的な話題を好まない性格の人もいるわけだが、『好き嫌い・苦手意識など相手のパーソナリティに配慮した言動(少なくとも相手の嫌がるような話や行動を敢えてしない)』は良好な対人コミュニケーションを維持する重要なスキルの一つになっている。 性格心理学では人間の性格(パーソナリティ)を理解するための理論として『類型論』と『特性論』とがある。誰もがどれかに当てはまるような典型的な幾つかの性格パターンの型(タイプ)を仮定する『類型論(タイプ論)』と一般的な性格特性(温厚・優しい・短気・几帳面・内向的・攻撃的など)を列挙していきどの特性にどの程度当てはまるか記述する『特性論(特性因子論)』があるのだが、それぞれに性格理解の上での長所と短所がある。 『類型論』は人間の性格を“質的”に研究しようとする立場であり、『性格の全体的なまとまり(性格分類)』を直観的に把握しやすいという分かりやすさの長所がある。類型論は『その人は外向性−思考型の性格である』というように、人間の性格を典型的な型(タイプ)に当てはめて考えるので、通俗的な性格テストとの類似性もあって誰でも簡単に大まかな性格傾向を知ることができる。 しかし、類型論では『その性格理論で準備されている幾つかのタイプに当てはまらないようなタイプ』については判定することができず、『中間型・移行型・不特定型のタイプ』を見過ごしてしまうという短所がある。特性論のように詳細な性格特性を収集整理していないので、『性格理論が準備したタイプに含まれていない被検者固有の特性』を見落としてしまうという短所も指摘できるが、類型論は一般的に『理論提唱者の人間観(既定の分類項目)』に大きく依拠する傾向がある。 類型論の起源は古代ギリシアの医師ヒポクラテスが考案した『四大体液説』やそれを継承した古代ローマのガレノスの『四大気質説』にあるとされるが、近代以降の心理学でもE.クレッチマーの『体型性格理論』やC.G.ユングの『タイプ論』などさまざまな類型論がある。個別の類型論の内容については、『性格心理学の類型論(タイプ論):C.G.ユング、クレッチマー、シェルドン、シュプランガーの仮説理論』にまとめているので興味のある方は読んでみて下さい。 『特性論』は人間の性格を“量的”に研究しようとする立場であり、『性格傾向を構成する特性の組み合わせ』を正確(網羅的)に把握しやすいという長所がある。特性論は性格(パーソナリティ)を『特性の束』として解釈するのである。一方、特性論の短所としては人間の性格の『全体像・傾向性』を直観的に掴むことができず、血液検査の詳細なデータのような感じになってカウンセリング・心理療法などへの効果的な応用(対話への取り込み)が難しいということがある。もう少し類型論と特性論、ポルトマンの離巣性・留巣性と人間の発達可能性(社会的−文化的経験の必要性)などについて補足を書きたいと思います。 ■関連URI 人間の性格における『固定的な部分(気質要因)』と『可変的な部分(環境要因)』:抑うつ性格の悲観的認知 ユングの『外向性・内向性』の区分と精神的危機へ対処しやすい性格類型 W.ヴントの実験心理学の要素主義的な科学性:『類型論』と『特性論』から成り立つ性格心理学 “制縛型の自己不確実者”と“敏感型の自己不確実者”の持つ不安感情と強迫症状の特徴 ■書籍紹介 |
| << 前記事(2008/12/24) | ブログのトップへ | 後記事(2008/12/29) >> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|---|
A.ポルトマンの『生理的早産』と二次的離巣性を示すヒトの性格形成・能力発達の可塑性(変化可能性)
前回の記事の続きになるが、特性論(特性因子論)では性格特性を表現する『形容詞・副詞』を抽出して因子分析を行っていくが、どれくらい多くの特性を抽出すれば十分な網羅性が得られるのかというのも判断しにくい。キャッテルの特性因子論では外部から観察できない内面的な特性である『根源的特性(source trait)』を分類して、『キャッテル16因子質問紙(Cattell Sixteen Personality Factor Questionnaire)』を作成したことによって特性論と類型論が接近した。... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/01/06 15:24 |
岡田斗司夫『オタクはすでに死んでいる』の書評:昭和的な価値の終焉と大人を拒絶する現代社会
ミクロなオタクの文化史について筆者の経験を交えて論じながら、『昭和の死』や『日本の変化』というマクロなテーマにつなげていこうとする意欲的な作品。現代にもたくさんのオタクと呼ばれる人たちはいるが、岡田斗司夫氏は本書において『オタクはすでに死んでいる』と宣言して、オタク文化と昭和の時代の終焉を『新たな個人の時代の到来』として読み解いています。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/12/10 21:02 |
H.フィッシャーの『脳内ホルモンのタイプ論(パーソナリティタイプ)』による性格行動パターン
性格傾向を全体的・直観的に捉えやすい“類型論”には、C.G.ユングの外向性・内向性に基づく『タイプ論』やE.クレッチマーの『体型性格論』、W.H.シェルドンの『発生的類型論』などがありますが、『恋愛関係における特徴・相性』を知る上で役立つパーソナリティ論としてヘレン・フィッシャーの『脳内ホルモンのタイプ論』があります。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/02/12 16:12 |
“家庭・育児の環境要因”は個人の性格形成や知能発達にどれくらいの影響を与えるか?
人間の性格形成や能力向上、精神発達に与える『遺伝要因・環境要因』の影響がそれぞれ何パーセントであるのかを、正確に判断することは難しい。遺伝要因と環境要因の影響を厳密に区別する研究方法(環境条件の統制)には限界があるので、一卵性双生児を用いた『双生児研究(異なる成育環境で成長した双生児の性格・知能・適応の比較)』などの成果を元にして遺伝要因と環境要因の大まかな比率を推測するしかないからである。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/02/25 03:15 |
| << 前記事(2008/12/24) | ブログのトップへ | 後記事(2008/12/29) >> |