|
インターネットの広告事業の伸張によって新聞広告費が圧迫されていましたが、今回の金融危機の影響もあって、アメリカの新聞業界に大きな業界再編の波が襲い掛かりつつあるようです。ウェブ(PC+モバイル)が日常生活に浸透しつつある日本やアメリカなどの先進国では、インターネットの広告費は既にラジオと雑誌の広告費を抜き去っており、次の競合メディアとして新聞広告費を射程に収めています。「Internet Watchの記事」によると、2007年度の日本の広告費ではネット広告費は6003億円で新聞広告費は9462億円ですが、ネット広告が年率20%程度の増加傾向にあり新聞広告が減少傾向にあることを考えると、広告費の総額が大きく増えない以上は新聞の広告業は段階的に縮小していく可能性が高いと予測されます。 日本では今後5年くらいのスパンでネット広告費が新聞広告費に並んでくると思いますが、モバイル広告の成長速度によっては新聞広告がネットに抜かれる日はもっと早まるような感じもあります。マスメディアで最も大きな影響力とイメージ広告の効果を持つ『テレビ』の広告費をネットが抜くのは難しいですが、『テキスト主体のコンテンツ』が多いという意味では、インターネットはテレビよりも新聞にとっての脅威的な競合メディアになりやすい性格を持っています。アメリカの新聞・出版業界では、一足早く業態転換やビジネスモデルの見直し、人員のリストラなどを迫られているようですが、アメリカでは新聞広告費の減少速度が日本よりも速くなっており2007年度は9.4%も広告費が減少しています。 新聞業界の減少した広告費がすべてインターネット広告に流れているわけではないと思いますが、戸別配達制度や折込チラシが普及していないアメリカでは日本以上に料金を支払って新聞記事を読む人の数が減っており、新聞広告とネット広告の費用対効果を比較するとネット広告に軍配が上がりやすいのでしょう。
日本とアメリカでは新聞業界・配達制度を取り巻く状況や読者が新聞に期待するものが違うので単純比較はできませんが、各種メディアに広告を出稿する『広告主の心理』は似通ったものではないかと思います。広告主はできるだけ安い費用でできるだけ大きな広告効果(商品の認知・問い合わせ・販売実績・ブランディングなど)を得たいと思っていますから、費用対効果を追求して広告を出稿する媒体を選定してきます。そのため、新聞やインターネットの記事(コンテンツ)の質ももちろん重要なのですが、それ以上に『コンテンツを閲覧する人の数と質(年代や購買力)』に広告主は注目していると考えられます。新聞を読む人の数が増加傾向にあり、すべての世代が偏りなく紙の新聞に接しているのであれば、新聞広告は間違いなく伸びますが、現実はその反対の状況にあり読者数の減少と読む世代の偏り(高齢化)という問題を抱えています。 メディア(情報媒体)としてのマス(大衆)への訴求力が落ちているということ、紙の新聞を読まない人の数と世代が増えていること、こういった要因が新聞社の広告事業の先行きに暗雲を投げかけており『紙』から『ウェブ』への業態転換を後押ししています。私もここ数年は紙の新聞を読む機会がめっきり減りましたが、なぜ新聞を読まないのかというと『各新聞社のウェブサイトのニュース』だけで一日に起こった出来事を大体把握できるからであり、『一面・政治・経済・国際・社説』をざっと読むくらいの時間しか物理的に掛けられないことが多いからです。ウェブ界隈では余り評価の高くなかった『新s あらたにす』ですが、私は興味を惹かれたタイトルの記事と社説を読むために利用しており、新sとGoogleニュース、テレビの23時台からのニュース番組を主なニュースのリソースにしています。一日の限られた時間の中で、新聞に記載されるニュースや論考ばかりに何時間も費やすことはできませんから、読みたい書籍とのバランスなども考えると、どうしてもウェブ中心のニュースのチェックになってしまいますね。 その意味では、『ネットが普及して新聞が読まれなくなった』という見方は一面的であり、『紙媒体の新聞は読まれにくくなったが、ウェブに公開された記事や社説を読む人の数・世代は増加傾向にある』というのが正しいのではないかと思います。新聞社が配信するニュース記事は、新聞社サイトだけではなくYahoo!やGoogle、mixi、モバゲータウンなどさまざまなウェブ媒体のニュース項目で利用されていますから、新聞社が作成した元記事の消費量そのものは増えていると予測されますし、mixi日記やブログなどで新聞記事にコメントをつける読者の数は過去とは比較にならないくらいに増えています。新聞やテレビといったマスメディアにはさまざまな批判もありますが、インターネットにおいて新聞社のウェブサイトが全く無くなればやはり困るわけであり、いくらインターネットが隆盛しても『一次情報・ニュースの配信元』としての新聞社の存在意義や必要性が無くなることは無いわけです。 インターネットで自生的に形成されるウェブやブログの論壇があるとしても、サイト・ブログの作成者が自ら現地に取材に行ったり関係者にインタビューしているケースは殆どありませんから、リンク元となる一次情報を作成する新聞社・マスメディアのような存在が必要になってきます。今後、新聞広告費がある程度減少するのは確実としても、ニュース配信という新聞事業そのものを継続できる程度の利益が『紙+ウェブの事業』で上がってくれれば良いのですが、問題は『ウェブ広告の利益率』が一般に『新聞広告・新聞販売の利益率』よりも小さいということですね。 アメリカの全国紙であるクリスチャン・サイエンス・モニター(CSM)紙は、日刊部数がピークの22万部(1970年)から現在の5万2千部まで減ったそうですが、契約購読料が900万ドル、新聞紙広告100万ドル、ウェブ広告130万ドルということで利益の大半は購読料から出ていたようです。CSMはウェブサイト中心の業態に転換して週刊誌を発行するということですが、朝日新聞の記事に『来春の経営転換により、広告と購読料は一時的に減る一方、新聞発行に伴う印刷、発送などの経費が消えることで負担が軽減され、長期的にはウェブ広告の拡大とコスト削減努力で経営は改善すると見込んでいる』とあるように、経費削減とウェブ広告費の増大によって失われた紙媒体の購読料分の利益を賄えるかというのがポイントになってきますね。 『バナー広告・検索連動型広告・コンテンツ連動型広告』などのインターネット広告が有利な点としては、少額から広告出稿が可能なことやクリック率・コンバージョン(申し込み)などで広告効果を測定しやすいことがあります。芸能人・著名人を起用したダイナミックな映像が使えるテレビ広告の場合には『商品やサービスの認知度向上・ブランディング効果・マスへの大量伝達による話題づくり』の面でインターネット広告よりも優れた面がありますが、テレビ広告よりもインパクトや認知率が落ちやすい新聞広告・雑誌広告の場合にはインターネット広告に対する際立った優位性が見出しにくいというのもあるかもしれません。 ただ、インターネットはユーザーが自分で情報を検索して取捨選択する『能動的なメディア』ですから、『広告に興味がない人(ネット広告でターゲティングできない人)』にもそれとなく商品やサービスのイメージ(写真・名称)を見せるという意味では、新聞や雑誌の広告にも利点がないわけではないと思います。テレビ・新聞・雑誌・街頭の広告には『広告にもともと興味がなかった人の欲望を無意識的に喚起する効果』を少しは期待できると思いますし、実際に、広告やチラシ・DMが嫌いな人でもテレビCMしている代表的な商品やブランドの名前をいつの間にか覚えてしまっているというケースは幾らでもあります。 それに対して、インターネットの広告では『広告のテキストやイメージにある程度興味を持った人』にしか広告効果がないという限界もありそうです。そのため、直接的な問い合わせや契約に結びつかないとしても、『商品・サービス・企業名などをとにかく知ってもらいたい』というような認知広告では新聞・雑誌もインターネット以上の効果を発揮する場面がないわけではなく、最終的には広告効果と企業の広告出稿目的に合わせたネットとマスメディアの棲み分け(広告効果の相互補完)が形成されていくのではないかと思います。 ■関連URI 朝日・読売・日経の記事を比較して読める“新s(あらたにす)”の感想とネット時代における新聞の需要 情報革命がもたらした“紙の新聞”の需要減少と“情報コンテンツ”のビジネスの困難:2 『消費者の有限の時間』を奪い合うメディア間競争と生産者と消費者が重複するウェブコンテンツの面白さ 情報化社会における著作権・知的財産権の問題3:著作権ビジネスとマスメディアが生んだ創作物の経済価値 ■書籍紹介 ネットは新聞を殺すのか-変貌するマスメディア NTT出版 国際社会経済研究所 ユーザレビュー: 個人発信の情報ツール ... ネット・ジャーナリズ ... そのまま日本に当ては ...Amazonアソシエイト by ウェブリブログ |
| << 前記事(2008/10/31) | ブログのトップへ | 後記事(2008/11/02) >> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|---|
“Gmail”で『テーマ(背景のデザイン)』を変更可能に。ウェブメールとコミュニケーション・ツール
GoogleのGmailの機能が幾つか追加されて、『テーマ(背景のデザイン)』を選択したり『ケータイメールのような絵文字』が使えるようになっている。Gmailには携帯版(http://googlemail.com)もあり、外出先で携帯電話からも簡単にアクセスしてメールを送受信することができる。携帯で数千文字の長文メールを読み書きするのは流石に困難だが、スマートフォンなどキーボードで入力できる端末であればPCのメールと殆ど同等に使いこなすことができるだろう。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/11/23 00:23 |
G7で景気対策・雇用創出の共同声明、アメリカでも景気対策法案が可決:保護主義の誘惑と日本経済の課題
日米欧のGDPがマイナス成長に転じることになり、世界経済の急速な悪化(金融危機・需要減速・雇用減少)は深刻さの度合いを増している。主要企業の業績の落ち込みを受けて、各国が自国産業と雇用を守るために関税障壁を高くして輸入規制を強化する『保護主義』を発動する懸念も依然として残っている。保護主義は自由貿易と対置する経済政策であり、外国の輸入品ができるだけ国内に入らないような貿易障壁(関税引き上げ・輸入数量規制のセーフガード)を設けて、国内企業(特定の貿易協定のある国の企業)の製品だけを国内に流通... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/02/15 16:00 |
堀江貴文『徹底抗戦』の書評
2006年1月16日に、証券取引法違反の容疑で六本木ヒルズのライブドア本社に東京地検特捜部が強制捜査に入り、その後間もなく、ライブドアトップの堀江貴文社長や宮内亮治取締役が逮捕された。それまでのライブドアは旭日昇天の破竹の勢いで、M&A(買収・合併)や株式分割を繰り返し飛躍的に『事業規模・時価総額』を拡大させて日本のIT業界を牽引しており、堀江貴文社長は“ホリエモン”という愛称で時代の寵児となりマスメディアに持てはやされていた。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/03/28 11:23 |
“紙のメディア”から“ウェブのメディア”への転換を迫られる新聞:個人としての書き手に対する市場の評価
長期的には、マスメディアの果たしてきた役割の大部分がインターネット(ウェブ)に移行することはほぼ確実であり、日本の広告収入でもインターネットは『ラジオ・雑誌』を抜いて『テレビ・新聞』の広告事業の規模に近づいている。日本の新聞の戸別宅配制度は毎日、『パッケージ商品化されたニュース・時事評論(社説)』を読むには効率的なシステムだったが、各新聞社のニュースや社説をウェブで読めるようになってからは、宅配される紙の新聞の割高感が高まりその需要は落ちている。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/04/12 03:28 |
日経新聞のウェブ刊(電子版)発刊についての雑感。電子ブックリーダーの普及と電子出版。
日本経済新聞が3月末に『有料のウェブ刊(電子版)』を創刊しましたが、新聞社の既存の宅配・広告のビジネスモデルに限界が見える中、このウェブ刊にどれくらいの需要が集まるのかが注目されます。日経新聞のウェブ刊がどういったUI(ユーザインタフェース)を備えていて、どのような機能があるのかについては、以下のはてな代表取締役の近藤淳也氏が日経新聞社を訪問したという記事が参考になります。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/04/01 01:28 |
スマートフォンの普及と電子書籍の可能性1:スマートフォンとフューチャーフォンはどこが違うのか?
NTTドコモやau、ソフトバンクモバイルがスマートフォンの宣伝販売に力を入れており、スマートフォンの契約台数が急速に増えているようだ。2010年のスマートフォン出荷台数は当初440万台と予測されていたが、675万台にまで拡大するというニュースもあり、携帯キャリア各社がスマートフォンの機種のラインナップを強化したことで、スマートフォンに乗り換えるユーザーが増えている。2015年頃にはスマートフォンの契約数がフューチャーフォンを抜いて、携帯電話の主流になるという市場の見方もあるようだ。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/12/17 19:36 |
| << 前記事(2008/10/31) | ブログのトップへ | 後記事(2008/11/02) >> |