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help リーダーに追加 RSS 仕事中だけ鬱になるという“新型うつ病”についての雑感1:一般的なうつ病とストレス反応の異同

<<   作成日時 : 2008/09/01 05:46   >>

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8月初めに仕事中だけに抑うつ感や無気力などうつ病の精神症状が出て、帰宅後や休日には活発に行動できるようになるという“新型うつ病(メディアの通称)”が話題になっていましたが、精神的ストレスの強い状況や活動だけに反応して精神症状が発症するというストレス反応性障害は何十年も前からあります。重症度の高い精神病である“うつ病(気分障害)”という疾病概念を、広範囲の抑うつ状態・無気力感に安易に用いることには賛成できませんが、新型うつ病といった曖昧な認識を持ち込むことで、本来のうつ病患者ではない人(セロトニン系神経の情報伝達に障害のない人)に副作用のある抗うつ薬が処方されやすくなるという問題も出てきます。

仕事をしている時の症状の内容・程度や持続時間によって治療方針や対応の仕方は変わってきますが、仕事の時間が終わればすぐに抑うつ感や気分の落ち込みが回復して元気になるというケースでは、『精神疾患のうつ病』ではなくて『ストレス障害に由来する抑うつ感』であると考えられます。そういった状況選択的な精神症状に診断名を付けるとしても、神経学的原因のあるうつ病ではなくて『抑うつ感を伴う適応障害』と判断するのが妥当だと思います。うつ病の場合には単純に『ストレス因子』を取り除いたとしても短時間で急速に元気になるということはないですが、適応障害のケースでは原因になっている『ストレス因子』を取り除くことで急速に症状の苦痛や程度が改善することがあります。

『会社に行く・仕事をする・職場で過ごす・上司から注意を受ける・取引先に出向く・営業に行く・ノルマをこなす』などのストレス因子を取り除いたときに、抑うつ症状や無気力感が短時間で全快するという状況であれば、精神病としてのうつ病ではない可能性が極めて高いと言えます。ストレス障害や適応障害からより重症度の高いうつ病へと病態が変遷することもありますが、うつ病発症を確認する有効な指標の一つは『眠れない・食べられない・異性に関心が起きない』という基本的欲求の著しい減退です。

特に、うつ病が発症した初期には、『入眠障害・熟睡障害・中途覚醒(早朝覚醒)』など睡眠に関連する悩みが増えてくることが多く、睡眠不足と身体疲労を抱えたままで毎日の仕事をすることになり、慢性的な抑うつ感と疲労感が入り混じった状況で仕事の生産性と意欲が大幅に低下します。食欲も普段より低下して空腹感を感じにくくなり、物事全般に対する興味関心が抑制されて喜び・楽しみの感情が感じられなくなってきます。うつ病にまで至らないストレス反応でも睡眠障害は起こりやすいですが、日常の業務やコミュニケーションに差し支えるほどに眠れない状態が続く場合には、医師の診察と睡眠薬の処方を受けたほうが良いと思います。

精神的ストレスに対する反応としての『一時的な抑うつ状態』と生物学的素因やセロトニン系神経の伝達障害が関与する『精神疾患のうつ病(気分症状)』とは診断学的に区別して考えるべきですし、『新型うつ病』と呼ばれた抑うつ状態に対しては、一般的なうつ病治療ではなくてストレス反応や職場環境(仕事状況)を改善する適切な対応を取っていく必要があると思います。直接的に言えば、『選択的な意欲減退』を呈する新型うつ病というのは、1960年代からの高度経済成長期にも存在した『出社恐怖症・出勤拒否症・欠勤症(absentism)』といった職場不適応の現代版であると解釈することができます。出勤拒否は登校拒否(不登校)とも共通する『会社(学校)に行かなければならないという義務感』を巡る葛藤から生じる不適応ですが、『不快・苦痛の多い会社に行きたくないというストレス回避行動』が無意識的に心身症状を形成するという“二次的疾病利得”の要素もあります。

病気になることによって得られる利得というと『怠け・甘え・ずる休み』といった批判が起こりやすいですが、『〜しなければならないという社会的責任感』があるという意味で単なる怠けとは違い、人並みに会社(学校)に行ってやるべき仕事(勉学)をこなしている内に体調・精神状態を崩すという意味で本人の甘えとも異なる部分があります。本当に、腹痛(ストレス性胃炎・下痢)や頭痛、吐き気、呼吸困難といった身体症状に苦しんだり、抑うつ感や不安感、焦燥感、自己否定感といった精神症状によって職業活動・社会生活に支障を来たすことになるので、ストレス反応の結果として二次的疾病利得(職場拒否の無意識的欲求)があるとしてもいわゆる“仮病(ずる休み)”とは明らかに異なる状態だと言えます。

『会社に行かなければいけないという義務感(生活維持のために働く必要性)』『会社に行きたくないという無意識的願望』の葛藤があり、精神的ストレスを感じながらも表面的には何とか職場(会社)に適応しているという人は数多くいると思います。しかし、ストレス耐性やストレス対処能力、対人スキルには大きな個人差があるので、客観的には同じ職場環境やストレス状況に置かれていても、ストレス障害を発症する人もいれば発症しない人もいます。

職場不適応や不登校などの問題は『努力・忍耐・根性・やる気』といった精神論の文脈で論じられやすいですが、どんな人でも自分のストレス耐性や問題対処能力、体力を超えた職場環境・人間関係の中に居続けると、何らかの不適応問題や精神症状(心身症)が発生してくる可能性はあります。ストレス耐性や問題対処能力、コミュニケーションスキルには『遺伝・気質・性格』といった先天的要因によって決まってくる部分もありますが、『認知転換(考え方の変化)・コミュニケーションの訓練・環境調整』といった後天的要因によって向上させられる部分もあります。

うつ病や適応障害、一時的なストレス反応の区別をきっちりとつけて、それぞれの症状やストレス因子、問題意識(自己認識)に合わせた治療的対応を工夫していくことが必要です。心身症状を緩和させるための『ストレス要因の除去』『可能な範囲での環境調整』と合わせて、どうすれば職場環境や仕事内容に再適応していけるのか、あるいは、現在のワークスタイル(職場・仕事のやり方)を根本的に変えていくべきなのかといった具体的方策を個別的に考えていくことになります。次の記事で、高度経済成長期に笠原嘉が提示した退却神経症の類型と新型うつ病(適応障害・ストレス反応)との相関についてもう少し考えてみます。






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筑摩書房
貝谷 久宣

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