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help RSS 7月29日の参院選と政権交代のない二大政党制の問題:ローレンス・レッシグの『これからの10年』の感想

<<   作成日時 : 2007/06/25 22:03   >>

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自民党の安倍晋三首相は国会会期を12日間延長して、現在審議中の『国家公務員法改正案』や『社会保険庁改革関連法案』などの重要法案を可決する構えを見せています。国会が閉会するまで『数の論理』に基づく強行採決が続きそうな様相ですが、この会期延長と重要法案の強行採決が参院選の投票結果にどのように影響してくるでしょうか。安倍政権下では日本国憲法改正や教育基本法改正、安全保障体制の見直し(集団自衛権の議論)などを核にした『戦後レジームからの脱却』が目標とされ、政権発足後間もない時期に、日本固有の文化や歴史を尊重する『美しい国』のスローガンが唱導されました。

今までの政権運営では、上記した国家の理念的・国防的な問題と比較すると、公的年金などの社会保障政策(医療・介護・福祉・年金)への関心は余り強くない印象があり、自民と民主の対立軸は『国家の基本理念の再検討』『社会保障制度の再構築』に置かれているようです。目指すべき『美しい国』が、国民の福利や国家の魅力を増進するという意味での美しい国なのか、国家の権威や伝統的な価値規範を強化するという意味での美しい国なのかによって安倍政権の位置づけは変わってきますが、安倍首相の思想信条に対して『戦前・戦中の日本』の価値観や社会道徳を美しい国のモチーフ(原型)にしているのではないかという疑念もあるようです。

今までの政策論議や法案決議の内容を見ていると『共同体主義的な秩序』『保守主義的な規範の復権』に政治改革の重点が置かれている印象がありますが、そういった方向性は、国家安全保障上の危機意識や近代日本の歴史認識における名誉回復とつながっているので、国内世論も保守主義(義務・規律重視)と自由主義(自由・権利重視)で二分する場面が多くなっています。自民党・公明党にせよ民主党にせよ他の野党にせよ、総論賛成で各論反対(各論賛成で総論反対)という場面が多いのは以前からあまり変わらないかもしれませんが。

保守主義と自由主義は重複している部分もあり、自由主義の中にも『政治的な自由』と『経済的な自由』の違いがありますが、安倍政権の教育制度改革などでは国家や郷土を愛する心など精神的な自由に一定の中心軸(国民の共有価値)を与えることが目指されています。福祉国家を支持する自由主義者(リベラリスト)もいれば市場主義を肯定する自由主義者(リバタリアン)もいて、自由主義の単純な区分は余り意味がありませんが、安倍政権の提示する保守主義の価値観は『自己責任を原則とする市場主義・伝統や規範を尊重する道徳主義』などに基づいていて、社会福祉の増進や政治的自由(価値多元主義)の拡大との相性がやや悪いといった感じがします。

『個人の自由・権利の拡大』が国民の道徳意識(エートス)を堕落させ、他者の権利を無視するエゴイズム(利己主義)を氾濫させるという考え方は、18世紀のアメリカ独立戦争(アメリカ独立革命)やフランス革命の時代からありますが、安倍政権の保守思想はそういった共同体の連帯感(一体感)を高めようとする道徳主義の背景を持っているように感じます。共同体の連帯感や一体感を高めることそのものは必ずしも悪いことではありませんが、そこに過去の歴史認識の見直しや学校教育への愛国心の導入、日本国憲法改正による平和主義理念の変質が関係しているので問題が複雑になっています。

小泉政権の基本路線を継承したと言われる安倍政権ですが、経済的な新自由主義(市場原理主義)やグローバリゼーションの進行度合いは目に付きにくくなり、政治的な保守主義や伝統主義の色彩がやや濃くなったように感じます。『戦後レジームからの脱却』という目的意識に関しても、自由主義や個人主義、基本的人権、平和主義など戦後日本の基本的な価値観を批判的に見る傾向が感じられ、『未来志向の新しい体制(レジーム)』を作るというイメージよりも『過去にあった伝統的な体制(レジーム)』を再構築するというイメージがあります。

『戦後レジームからの脱却』が、戦後から現在までの日本よりも暮らしやすく安心できる社会の構築につながるのかは未知数ですが、立憲主義・自由民主主義を前提として個人の自由と規範のバランスを取る方策を立てていって欲しいと思います。日本の政治のもっとも根底的な問題は、1955年の保守合同以降、実質的に自民党政権が長期継続していて政権交代の緊張感が失われていることであり、政界・官界・財界の相互依存的な癒着構造(もたれあい体質)を抜本的に改革することが殆ど不可能になっていることです。

現代日本の政党政治において民意を反映することが難しくなっている理由としては、政党政治のオルタナティブ(選択肢)が国民個々人のニーズや立場にフィットするほど多様性がなくなっていること、政党に過去のイデオロギー闘争の残影が色濃く残っている為に冷静な政策単位の判断を国民が下し難いこと、既得権益・地方利権と選挙との結びつきが強固になっているために政策よりも政党で判断する比率が高くなりやすいことが考えられます。選挙をしても何も変わらないという人の棄権票は膨大な数になりますが、投票率を上げるという課題と共に、選挙に行きたくなるような政党政治のオルタナティブをアピールすることも大切です。

自民党と社会党のイデオロギー対立を軸とした『55年体制』が自民党と民主党の『二大政党制』へと変遷したと言われますが、日本の政党政治はアメリカやイギリスのような政権交代のある二大政党制とは異なっており、与党(自民党)と野党(民主党)が固定的な関係にある印象が強くあります。かといって、自民党や民主党とは異なる全く新しい政治勢力が出現するという可能性も低く、今まで選挙に行かなかった人たちが魅力や同調を感じるような政党の選択肢は余り多いとは言えないでしょう。

こういった政・官・業の癒着構造や既得権益の問題はアメリカをはじめとする欧米諸国も例外ではなく、インターネット時代における知的財産権や法規制の問題を創造的に考察し続けてきた法学者ローレンス・レッシグ「次の10年の課題」として「政治プロセスにおける腐敗(corruption)への対処」を上げています。首相制と官僚政治が並存する日本と比較すると、行政府の幹部クラスまでも大統領が任命するアメリカの大統領制は官僚政治の弊害は相対的に低いのですが、それでも大統領や議員の意志決定に対して一定の影響力を及ぼす利益団体や圧力団体・宗教団体が無数に存在しています。

日本の場合には首相(内閣総理大臣)や閣僚は、中央省庁の人事や懲戒に対して直接的な権限を持っていませんので、政治家が必ずしも行政機関の公務員に対して指導的な立場に立てるわけではなく、政権与党と行政は持ちつ持たれつの関係になりやすくなります。日本の二大政党制が成熟しないと言われる由縁も、「55年体制」において自民党と社会党が持ちつ持たれつの共同歩調を取っていたことがあり、社会党が実際的な政権交代への意欲を持っていないことにありました。例えば、7月29日に実施される参院選で自民党が仮に過半数割れに追い込まれたとしても、自民党と民主党の間で政界再編のための多数派工作がなされる可能性が高く、真の意味で『選挙での二大政党制の対立軸』を意識することが日本では難しくなっています。

自由と民主主義の国アメリカにおいても、利益誘導政治の弊害やロビイストの暗躍、圧力団体や利益団体の影響力から立法府や行政府は全く自由ではない実情があり、レッシグは自分自身の研究課題を『政治プロセスの腐敗』に置きながらも、自分の研究や活動においてこの種の腐敗を根絶することはまず不可能であろうことを確信しています。

しかし、『幻想は抱いていない。10年が経過しても、この問題がまだ存在していることは99.9%確信している。だが、失敗の確実性はときに挑戦の理由となる』というレッシグの言葉には、成功や失敗の安易な二元論に陥らない『飽くなき前進と改善への意志』を読み取ることが出来ます。ローレンス・レッシグは、サイバー分野の法学者として一定以上の権威と評価を築いてきましたが、過去の業績にこだわらず『政治分野の単なる入門者』になることに一切の迷いはないようです。政治分野の新参者として専門の法学分野に注いだのと同じだけの熱意やエネルギーを再び注ごうとしているのですから、レッシグの肉体年齢に対する精神年齢の若さには敬服せざるを得ません。今までとは全く異なる目的や課題へと立ち向かうチャレンジ精神、過去に獲得した栄光や利得にこだわらない潔い決断、あるいはこういった『過去と現在の連続性(キャリア)からの逸脱』が政治プロセスの腐敗への有効な対処策なのかもしれません。


必読:これからの10年:Lessig Blog

答えは政治プロセスのある種の腐敗にある。あるいは、政治プロセスの「腐敗」のひとつと呼ぶべきか。贈賄という単純な意味ではない。わたしがいうのは、システムがあまりにもカネの影響に歪められてしまい、著作権保護期間の延長ほど単純明快な問題でさえまともに対処することができなくなっているという意味だ。政治家たちは利益団体が提供できるリソースに飢えている。米国では、資金源の命ずるとおりに動くことが再選を確保する唯一の方法だ。影響力の経済によって、公共政策はつねに理性からドルへとねじ曲げられてしまう。

むろん新しい問題ではない。どころか、派閥への警戒はわが国の成立とおなじくらい古い問題だ。われわれの政治システムがいかに腐敗してきたかを明らかにしようと、数限りない人々がすばらしい仕事をしてきた。解決策も数十となく提案されてきた。解決のための取り組みが欠けている分野ではないし、有能な人々が不足している分野でもない。


■関連URL
国家財政の基本機能と構造改革:あなたが望む政府の規模と機能とは?

2005年衆院総選挙を振り返っての雑感:自公と民主の明暗を分けた前進的革新のイメージの強度

日本の近現代史

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現代の政党と選挙
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