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zoom RSS パトリオティズムとナショナリズムの愛国心1:人類の集団社会の歴史的変遷

<<   作成日時 : 2006/04/29 22:53   >>

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前回の記事で、愛国心と公共心の概念が内包する意味の違いについて書いたが、今回は、平和主義と宗教理念の相関について述べた後で、郷土や同胞を守る『愛国心(パトリオティズム)』と近代以降の国民国家を前提とする『国家主義(ナショナリズム)』についても若干補足しておきたい。

一つのテーマで記事を書くとそこから様々な話題や時代の連想が湧きやすくなるが、愛国心という概念の射程は相当に長大であり、人類の歴史に与えてきた影響の大きさを軽視することが難しい。
また、置かれている時代や集団によって愛国心が指示する内容が多様である為、一義的かつ独断的に愛国心を語り尽くすことは出来ないし、愛情や貢献を捧げる郷土・国家・家族・同胞・所属組織とを一まとめにして語ることには無理がある。

集権的な統一国家が成立していない時代や集団においては当然、郷土愛や同族愛はあっても愛国心は存在しない。
日本も戊辰戦争を戦った幕末の歴史段階では、日本という統一国家に対する愛や忠誠を明確に意識していたのは、勝海舟や坂本龍馬、大久保利通、木戸孝允など一部の進歩的知識人、革新的な活動家だけであったし、江戸時代以前には東北や北海道の人々は日本という統合的な共同体の成員であるという意識は当然なかっただろう。

中央政体としての幕府や地方政体としての藩への忠誠心や愛着が、中央集権国家としての日本国への忠誠心や愛着に変質する歴史過程には、明治維新による体制変革があり、明治政府の教育改革による国民アイデンティティの醸成があった。

もちろん、この歴史的変遷による国民国家の成立と国民意識の普及を、反ナショナリズムのイデオロギー的観点から否定することは正しくなく、当時の国際状況と時代背景を無視して明治政府による中央集権体制の価値を評価することは出来ない。

日本国の一員であり、国家に忠孝を尽くすという国民アイデンティティが、戦争を遂行する自己犠牲的なナショナリズムを生んだともいえるが、同時に、近代以降の日本の発展や繁栄の原動力となってきたことも否定できない。
19世紀の歴史状況で、集権的かつ機能的な国民国家の成立に失敗することは、そのまま、西欧列強に植民地化され政治的独立を失うことを意味していただろう。

歴史的スパンを長くとれば、食料を探し求める移住生活を送っていた狩猟採集の石器時代には、家族愛や同胞愛はあっても土地への愛(執着)はあまり存在していなかったはずなので、愛国心の定義や表現は時代によって大きな差異を抱えていることになる。

自らが置かれている時代背景や国際情勢を鑑みながら、現在の帰属集団に必要とされる愛国心や公共心がどのようなものなのかを国家でなく個人が考えていくことが大切だと思う。
集団での熱狂や排外主義を呼ぶナショナリズム形態は、20世紀の軍事対立の状況では有効な側面もあったが、他国を尊重し共栄を図る愛国心としては有効でないばかりか逆効果であることに留意が必要である。

平和主義や人権思想とのバッティングが問題となる愛国心とは、国家に対する忠誠服従や自己犠牲を伴う愛国心(ナショナリズム)のことであり、自衛範囲の狭い家族や仲間、土地を守る為の原始的なパトリオティズムとは異なる。

人類の集団社会の発展過程を詳細に検証する材料をここで十分に提出する余裕はないが、少なくとも生物種としての人類が、国家共同体を意識し始めてからの歴史(約数千年の時間)はそれ以前の歴史(数百万年に及ぶ血縁集団・部族集団の時間)よりも圧倒的に短いのは確かなことである。

パトリオティズムとナショナリズムは人間集団が大規模になるにつれて区別することが難しくなるというのは心に留めておいたほうが良く、特に、人口が流動的な都心部において国家(官僚制度と政治機構)を想定しない郷土愛というものを体感的に認識することは難しい。

ナショナリズムと不可分な近代国家の愛国心が問題視されるのは、原始的な共同体(血縁集団・部族集団・首長社会)と比較して、集権的な統治力と圧倒的な軍事技術を持っているからであり、軍隊の戦闘動員数が多く、銃火器やハイテク兵器を用いた戦闘が大規模な殺戮へと発展しやすいからである。

原始的な共同体では、首長社会(フールダム)を除いて土地所有への執着が殆どなく、定住生活をする集団も少なかった為、小規模集団の戦闘が起こっても、その周辺地域へ人口が拡散するか数十人規模の殺傷で戦闘が終結していた。
また、農耕牧畜などの食糧生産を始めた定住生活部族が多くなってくると、戦争が持つ意味合いが『無償の労働力としての奴隷確保・生産基盤である土地の侵略・税金を徴収する人口の増大』へと変化してくる。

定期的な収穫が見込める食糧生産を行わない血縁集団や部族社会では、土地を所有する価値を認識することがなく、精々、他部族に邪魔されずに歩ける自由な土地が、狩猟採集の探索範囲を広めるといった認識を持っているだけだった。

農耕や牧畜による余剰生産物を持たないという事は、部族全員がその日暮らしの食料獲得に駆り出されることを意味し、階層分化(職業分化)がなく平等な社会だが、技術・文化・軍事の進歩のない定常型社会に留まることを意味していた。

人類集団の営為の歴史過程において、少数の例外を除き、日々の食料確保に追われる狩猟採集部族が、余剰食糧を蓄積する農耕牧畜部族に侵略され同化されたのは半ば必然的な出来事であった。
社会契約論で著名なジャン・ジャック・ルソーは、『人間不平等起源説』の著作において、『土地所有の観念の芽生えが、私有財産制度の始まりであり、人類の階級分化(社会的不平等)の起源である』といった説を述べている。

快適な居住地となる土地、食物の生産基盤となる土地の所有が、定住生活を営む個人・集団の利益になると人類が気づいた時に、一定の領土で区切られる共同体(初期の部族社会)が誕生の産声を上げた。
土地所有の価値を承認しない狩猟採集を行う小規模な血縁集団は、余剰生産物を蓄積することが出来なかったために、食料の採集以外の政治的・文化的・宗教的活動に携わる専門的職業人を生み出すことが出来なかった。

専門的な軍事集団・職人集団を組織した集団や集権的な政治機構・宗教権威を構築した集団を支えたのは、『直接的な食料生産活動に従事しない集団成員(専門分化した政治家・聖職者・軍人・職人)を養う余剰生産物』である。
歴史の発展段階は客観的に見れば正に弱肉強食の過程を辿っていて、ようやく第二次世界大戦後に普遍的な理念や人権思想への配慮が弱肉強食の論理に抑制をかけられるようになってきたばかりである。

人類の歴史過程において、各部族が国家へと発展するか消滅の憂き目を見るかの命運を分けたのは、効率的な社会階層化と専門的な職業分化を成し遂げる経済基盤を持てたか否かということであり、国家防衛につながる忠誠心や自己犠牲を伴うナショナリズムを国民が持てたか否かということだっただろう。

現在の国際社会は、近代国家とそれ以前の軍事パラダイムをまだ完全には抜け出していないという国際認識を持っている人は、社会ダーウィニズムの国家観と性悪説の人間観に基づいて国際情勢を見ていることになるが、世界の現状ではリアリズムのある言説の一つとして認識されている。
ナショナリズム(集団への帰属心と奉仕欲求)が乏しく国防への意識が弱い国は、軍事外交をする他国に侵略されたり、勢いのある周辺文化に同化されてしまうのではないかという警戒心や不安から完全に自由になることは難しいからである。

しかし、永遠にその弱肉強食と軍事外交の近代国家間のパラダイムに留まり続けているわけではなく、国内政治においては福祉国家構想を無視できなくなっているし、国際政治においても平和主義戦略(対話外交と途上国支援の贈与経済)への圧力が強くなってきている。
人類集団と政治行動の歴史推移を見ると、最終的に軍事外交(集団対立)のパラダイムを止揚するのは、『人口問題の解決による致命的不足のない適正分配の達成』にあると思われる。

文化人類学的な人間集団の歴史的変遷の話題や経済格差・人口問題を巡る経済システム改善の問題も興味深いが、次の記事で、冒頭で書くといった平和主義とキリスト教的な宗教倫理の関係についても書いておきたい。


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