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過去に、『青年期のアイデンティティ拡散と非社会性の問題:搾取から保護への子どもの権利獲得の歴史』という記事を書きましたが、子どもの発達段階における青年期の自立と家族関係について少し補足しておきます。 現在の日本では、よく、家庭における教育(躾)や育児の方法に問題があって、それが子どもの精神発達上の障害や性格の歪みにつながってくるといった主張がなされます。 もちろん、個人の人格形成には、遺伝・体質など先天的要因も関与しますし、環境要因にも学校や友人関係などさまざまなものがあるので、子どもの精神発達上の問題の責任を全て家族関係の歪みやコミュニケーションの問題に還元できるわけではありません。 家庭環境における教育方法や育児行為の問題に注目する場合には、大きく分けて『虐待的・排除的・外傷的な育児の問題』と『過保護・過干渉・溺愛的な育児の問題』とがあります。 前者は『親の愛情不足・暴力行為』によって子どもの他者への信頼感や家族への帰属感へ悪影響を与え、後者は『親の愛情過剰・過保護』によって子どもの社会的自立心や新たな環境への適応力を低下させます。 現代社会にも暴力行為による児童虐待の問題やその影響による精神疾患の苦しみは多く存在しますが、それ以上に、密着した親子関係や愛情の過剰によって子どもの自立心がスポイルされてしまい社会的自立が覚束ない問題が増えてきています。 愛情不足や児童虐待の対極にある『子どもの心理社会的自立の障害としてのひきこもりやNEET』などの非社会的行動の問題は、多くの場合、思春期から青年期において顕在化してくる点が児童虐待とは異なっています。 (NEETという用語の適切性には議論がありますが、とりあえず、経済的自立に付随する心理的問題としてここでは取り扱い、勤労道徳や労働政策上の問題の意味は含めていません。つまり、労働しないという道徳的非難よりも、自力で生計を維持できないという経済的問題がもたらす将来の困難・貧窮を回避すべきであるという観点から書いています。) 精神障害の発病や悪化による病理的なひきこもりや就業困難のケースも確かにありますが、多くの非社会的問題行動のケースでは病的な精神症状や行動パターンは見られません。 過半のひきこもりやNEETの問題は、健康な精神状態でありながら職業選択が出来なかったり経済的自立ができなかったりして、社会的アイデンティティの確立が困難になっている状態だといえます。 経済的収入や学業修得、職業訓練につながる社会的活動を行わないモラトリアム(社会的責務の猶予期間)が長期遷延している心理的原因には実に様々なものがありますが、その中で代表的なものとして『職場環境の業務や人間関係のストレスに耐え切れない心身の脆弱性』『誇大自己・理想自我による要求水準の高さ』『いじめや虐待など過去のトラウマ体験による対人恐怖』『自己の特別視による完全主義欲求の過剰』『観念的な自己実現や政治的な反常識的理念などによる不適応』などが考えられます。 それらのカテゴリーから大幅に逸脱して、一切の対人関係を遮断し、感情表現が麻痺して、意味不明な独り言をつぶやいて部屋の片隅でうずくまっているというような状態であれば、精神病圏の疾患が発病している可能性がありますが、好きなテレビやゲームはできて、インターネットや携帯でのコミュニケーションには興味を示している場合には、重篤な精神病水準の病理の可能性はまずないでしょう。 お小遣いを上げれば、友人と外食や遊びには出掛けられるという場合にも、就業意識の低さや労働意欲の低下といった問題はありますが、精神医学的な健康性という側面では特段、問題視する状況はないと言えると思います。 特別な理由や精神的な不調がなく、怠惰や無為を嗜好する性格傾向が問題の場合には、親子のコミュニケーションを工夫したり、経済的自立を促進する環境を調整したり(少しずつ子ども自身が負担する生活コストを上げていくなど)、子どもの将来の生活設計の認知を確認していくことで、比較的短期に、良い方向への変化が起きることが多いです。 心理臨床的に非社会的な行動の問題を考える場合には、国家政策的な労働力確保の観点や社会保障制度維持の納税者の単位としてクライアントを見ることはまずありません。 その為、家族も本人も、非社会的な生活状況を問題とせず苦悩も感じず、将来的にも経済的に困窮しないのであれば特別な心理学的介入(カウンセリング・心理療法)を行う必要性はないといえます。 しかし、幾ら莫大な資産がある人であっても、一般的な家庭環境や親子関係の中で、一生涯、社会的な自立をせずにひきこもっていたり遊びまわっていても良いというケースはまずないのではないかと考えられます。 基本的に、家族や配偶者、恋人と生活を共にしている人であれば、極端なひきこもりや将来不安につながる就業拒否は解決すべき問題として何処かの時点で立ち上がってくることになります。 また、非社会的な生活状況が長期間続いてくると、本人の承認欲求が満たされずに劣等感によるストレスを感じたり、周囲の人との生活状況の比較によって自尊心の傷つきを覚えたりしてくることが多くなります。 強い対人恐怖や極端な孤独嗜癖でもない限りは、家族内部だけの人間関係では十分なコミュニケーション欲求を満たすことが出来ず、対人関係の貧困による孤独感や虚無感を感じやすくもなるでしょう。 異性との性的関係も断絶しやすくなり、買い物や娯楽といった消費活動も制限されてきますから、フラストレーションが鬱積してイライラしたり情緒不安定になることもあります。 非社会的な生活状況が長く続くと、社会環境下でのセルフエフィカシー(自己効力感)やコミュニケーションを支える対人スキルが低下してきますので、自分で積極的に何かにチャレンジしようとする試行錯誤の行為が起こりにくくなってきます。 本人や家族が現状のままで問題ないと考えている非社会的な生活に、強引に心理学的・医学的介入をすることは出来ませんが、基本的な人間の精神発達過程では『家庭内部から社会環境へとリビドーの転換』が行われ『外部環境・対人関係・職業活動への適応性』を高めるのが一般的であるとされます。 現代社会の親子関係を表現する一つのキーワードである『過保護・過干渉・権威性の喪失』が結果として引き起こすのが、『家庭内部への囲い込みによる精神的自立の阻害』『長期に遷延するモラトリアムと非社会的行動』ですが、これらの問題は家庭環境の要因と社会経済的要因が複雑に絡み合って生まれてくる側面ももっています。 青年期の社会的自立を巡る問題で難しいのは、親子関係における『厳格性と寛容性のバランス』です。 つまり、家庭外部への自立を促す『父性原理が象徴する厳格さ』と外部社会のストレスに耐えうる心理的基盤を形成する『母性原理が象徴する優しさ』のバランスであると私は考えています。 家庭での育児の問題について、“切断する父性と包容する母性”といった親子関係を振り返りながら概略を述べました。 青年期の心理的課題である『家庭環境からの自立と社会的アイデンティティ確立』について、『青年期という発達段階に関係する理論背景や対応技術』を参照するのも有益ですが、最終的には『子どもの将来の健康・幸福・発展・自己実現をどのように支援していけば良いのか』という意識(愛情)を持って、厳しさ(精神的な自立の為の切り離し)と優しさ(帰る場所はあるという安心感の提供)を使い分ける強かさが大切なのだと思います。 家族成員の価値観と青年期にある子どもの価値観との衝突や就職による可能性の低減に対する本人の恐怖、人生全体を俯瞰した上での職業や仕事の自己決定をどう支援するのかといった問題についても書いてみたいと思います。 同時に、精神分析のリビドー発達論でいう性欲が抑圧される潜伏期(6〜12歳:児童期)を終えてからの性的関係性の問題、思春期を経て青年期に至る身体の成熟と性愛関係の変遷、恋愛と結婚の問題についても、心理学的観点から考えてみたいですね。 『性・愛・関係性・結婚制度・異性や家族に対する認知』というものは、青年期の労働モチベーションや人生の進路選択、アイデンティティの確立と密接に関わっています。 『自分の家族を構築する事に対する関心・欲求の個人差』というものが、非婚晩婚化や少子化(DINKSなど含む)の問題としてクローズアップされることがありますが、『性・結婚・家族』を自分の人生にどう位置づけるのかという意識の違いが、『個人の青年期以降の人生の内容』に与える影響は非常に大きなものがあります。 ■書籍紹介 迷走する若者のアイデンティティ―フリーター、パラサイト・シングル、ニート、ひきこもり
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少子化時代の母親の育児ストレス(育児不安)と社会成員の子育てに対する認識・協力の多様化
育児には他の行為とは比較にならないような多くの喜びと幸福がある一方で、毎日、小さな子どもと向き合って献身的に世話をする母親(父親)には精神的にも時間的にも大きな負担がかかります。政治的な少子化対策や育児支援は段階的に進められていますが、日常生活における精神的ストレスや育児不安を和らげるような支援を公的な枠組みで行うことは難しく、『夫婦・親族の協力』や『地域社会の育児に対する対人的な理解・支援』が必要になってきます。しかし、核家族化が進んでいる現在では、実質的に配偶者以外の人から育児の協力を... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/02/06 00:34 |
仕事を通した社会的アイデンティティ確立の問題と子どもの労働意欲・職業選択を促進する家族関係
茨城県土浦市で起きた事件では、フリーターの加害者が父親から『仕事(正社員の定職)に就け』と責められていたことが“逆切れ”につながったという報道がありましたが、20〜30代で職業選択・就職活動で躓いた場合の就労サポートや仕事に対するモチベーション(勤労意欲)の向上は、非常に困難の多い課題になっています。加害者の男性は、バイトではなく定職に就けという父親の就労刺激に対して、頻繁に家の中のモノに当たる家庭内暴力をしていたようです。しかし、思春期以降も小動物に対する虐待や対人コミュニケーションの困... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/04/01 14:49 |
東京八王子市の通り魔事件と現代社会における人格的成熟(精神的自立)の遅滞傾向の問題
愛知の高速道路PAで山口県の14歳の少年がバスジャック事件を起こし、先日は、東京都八王子市の駅ビル内の書店で33歳の会社員(試用期間の社員)が2人の女性を刺して女子大学生が死亡するという事件が起きた。この二つの事件は加害者の年齢も生活状況も全く異なるものだが、動機の共通点として『親への不満(親を困らせてやりたかったという動因)』があり、両親と真剣に話し合えるような信頼関係が成立していなかったという指摘ができる。精神の発達水準を考えると、未成年の14歳少年の『親への依存性・甘え』は一般的なも... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/07/27 07:22 |
“子どもの幸福・成功”を応援できない親の心理的問題と見捨てられ不安:空の巣症候群・境界性人格障害
前回の記事の続きになりますが、娘のほうは母親から精神的に自立していて、新たに『自分自身の人生・関係』を選択して生きようとしているのですが、母親のほうが乳幼児期からずっと一緒に生活してきた娘との『母子密着』を上手く解消することが出来ていない状態です。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/06/28 23:16 |
ひきこもり70万人・親和群155万人の内閣府推計2:経済的報酬と社会的承認による仕事の動機づけ
前回の記事の続きになるが、毎日会社(官庁)に通勤して働いていない人をひきこもりとする『広義のひきこもり』は、自室(自宅)から出られない人をひきこもりとする『狭義のひきこもり』よりもその数が必然的に大きくなるし、比較的健常なパーソナリティ(主観的苦悩の小さい心理状態)を持つひきこもりの人の比率が増えてくる。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/07/26 19:54 |
ブレンダ・ボイド『アスペルガー症候群の子育て200のヒント』の書評:育児のトラブルにどう対処するか?
アスペルガー症候群(AS)の子どもを持つ親が、日常的な子育てや指導・援助で悩みやすいポイントとその対処法を、実際の育児経験の試行錯誤に基づいてまとめた本です。広汎性発達障害(PDD)の専門書ではないので難解な専門用語や理論的な解説が無くて、『実践的な子育ての方法やアドバイス』にテーマを絞っているので、アスペルガー症候群の子どもやコミュニケーションが苦手な子どもの支え方や教育方法について色々な気づきを得られます。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/08/28 16:13 |
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