テーマ:小説・ミステリー

村田沙耶香『消滅世界』の書評

現代社会で起こっている『恋愛の減少(若者の恋愛離れ)・未婚化晩婚化・少子化・家族の減少(単身世帯の増加)・夫婦のセックスレス・恋愛や性のバーチャル化』などをモチーフにした作品で、テクノロジーが進歩して物理的な性行為に基づく家族・恋人が消滅しかかっている近未来の日本をSFタッチで描いている。 冒頭の会話で、主人公の雨音(あまね)が『…
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村上春樹『騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編』の書評:2

免色渉は『個人主義・自由主義』の現代における典型的成功者である中年男性のイデアとして機能しているが、その免色が『冤罪で拘置所の狭い場所に長く閉じ込められる恐怖の経験とその克服』をしているのは象徴的であり、免色という存在そのものが『他者・共同体とストレートにつながれない現代人の孤独と愉楽』を感じさせるのである。 個人主義的な生き方を…
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村上春樹『騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編』の書評:1

第1部の顕れるイデア編では、別のハンサムな男ができた妻に突然の別れを切り出された“私”、起業で大きな経済的成功を収めながらも結婚の決断をできずに別の男と結婚した元彼女を永遠に失った“免色渉(めんしきわたる)”という二人の人物を描くことで、『現代のある種の中年男性の孤独・モラトリアム』を寓話的に示した。 36歳の私と54歳の免色渉の…
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森博嗣『彼女は一人で歩くのか?』の書評:超長寿化・生命創造による人口減少世界

科学技術の驚異的な進歩によって、人間の寿命が数百歳以上にまで延びた代わりに子供が産まれなくなった近未来を舞台に展開されるSF小説で、人間の死生観とテクノロジーについて考えさせられる。近未来社会に生きる人類のシミュレーションのような物語の流れが面白いだけでなく、現在進行形の高齢化社会や少子化問題にも関わってくるテーマ性もある。 ハギ…
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村上春樹『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』の感想:3

免色渉の肖像画を描きあげていくプロセスで、私と免色は次第に個人的にも親しみを感じ合うようになり、それぞれの人生・感性・考え方についての知的なコミュニケーションを繰り返していくのだが、その会話の言葉一つ一つもなかなか示唆的で含蓄がある。 免色渉の肖像画の作成において、私はいつもの調子で淡々と普通の写実的な肖像画を描くことができず、最…
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村上春樹『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』の感想:2

約6年のユズとの結婚生活が終わろうとしていた私は、精神的に非常に不安定な部分があり、端的には『この先どのように生きていけば良いのか・何を目指して生きていけば良いのか』という方向感覚を喪失していて、そのつらさを意識化しないために世俗から離れた山奥の家に暮らして、宛てのない『車の一人旅・自由な芸術創作・刹那の性的関係』にのめり込んだ所がある…
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村上春樹『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』の感想:1

現代人の孤独と自由、特にセンシティブな中年男性の孤独を感じさせる作品だ。未読なのだが村上春樹の作品に『女のいない男たち』があるが、この『騎士団長殺し』もまた『女のいない男たちの物語』として読める。基本的に男性の目線から見た『社会にスムーズに適応できないこだわりのある人生の型』であり、『結婚・夫婦の枠組みに収まれない男の孤独・奔放な性・潜…
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宮部みゆき『ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件,上下』の感想

宮部みゆきの『ソロモンの偽証』のハードカバーが出版された時に気になっていたが、あまりに分厚くて読むのに相当な時間がかかりそうだったので読まずにいた。文庫版が全6巻で完結したので、一冊一冊マイペースで読み進めていきたいと思っている。 1ページずつストーリーを楽しむために、敢えてウェブの書評などの前提知識を入れずに読んでいるので、『第…
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貴志祐介『雀蜂(スズメバチ)』の感想

貴志祐介のミステリーでは、『新世界より』や『天使の囀り』といった重厚な物語の構成(プロット)があって、意外な視点から各テーマの探求・解釈をしてくれるような作品が好きだが、本書『雀蜂(スズメバチ)』は短編の感覚で気軽に読むことができるライトなホラーサスペンスに仕上げられている。 貴志祐介はホラー小説の分野でも活躍している作家で、サイ…
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村上春樹『1Q84 BOOK3<10月‐12月>』の書評2:現代の神話的構成と救済のラブロマンス

村上春樹の小説全般にその傾向があるのだが、青豆も天吾も『標準的な成育歴・家庭生活(親子関係)・職業活動・社会適応』からは遠いイメージのある登場人物で、実在する人物というよりは象徴的なイコンのようにも感じられる。 村上春樹『1Q84 BOOK3<10月‐12月>』の書評1:一人の孤独な少年と一人の孤独の少女の再会 『あけぼの』…
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村上春樹『1Q84 BOOK3<10月‐12月>』の書評1:一人の孤独な少年と一人の孤独な少女の再会

村上春樹の『1Q84』のハードカバー全3巻のうち、“BOOK2<7‐9月>”までは一気呵成に読み終えていたのだが、その後に間が空いてしまい、最後の“BOOK3<10月‐12月>”をようやく何年かぶりかで読み終えた。 BOOK2では、インストラクターで殺し屋稼業も営む青豆雅美が、オウム真理教をイメージさせるような新興宗教『あけぼの』…
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湊かなえ『少女』の書評:相手の本心が分からなくなった由紀と敦子の友情や因果応報を巡る物語

湊かなえというと映画化もされた『告白』のイメージが強いが、学校生活における複雑な人間関係(友人関係)や生徒・教師の思惑(憶測)が交錯する心理を題材にしたテンポの良い物語を作るのが上手い作家である。本作『少女』では、幼馴染の友人である女子高生の由紀と敦子の友情のぐらつきと再建を描いているのだが、学校という閉じた世界で生活する高校生にありが…
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東野圭吾『幻夜』の書評2:“雅也(亮司)の献身”と“美冬(雪穂)の冷淡”の構造

『幻夜』でも『白夜行』と同じように、美冬の清楚さと妖艶さを兼ね備えた美貌に魅了された男たちは、次々と悪どく利用されて不幸に追いやられていき、美冬の謎に満ちた過去を深入りして探ろうとする者は冷酷に命を奪われていく。美冬一人では完璧に実行することが不可能な犯罪と計略の実務を担当しているのは、言うまでもなく、美冬と完全につながっていてこの犯罪…
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東野圭吾『幻夜』の書評1:秘密(犯罪)を共有する新海美冬と水原雅也の物語

東野圭吾のベストセラーでドラマ化・映画化もされた『白夜行』の続編という位置づけに当たるのが『幻夜』であるが、まったく別の悪女の物語としても読める。唐沢雪穂(西本雪穂)と桐原亮司の組み合わせが、新海美冬(しんかいみふゆ)と水原雅也(みずはらまさや)に変わっているが、『白夜行』のエピローグ後の雪穂が美冬として再設定されており、『トラウマ(殺…
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新田次郎『アラスカ物語』の書評3:“アラスカのモーゼ”と呼ばれたフランク安田の生涯

アラスカの旧支配者だったロシア人とゴールドラッシュでアラスカに進出してきた荒くれの白人による“鯨・海獣・カリブー”の行き過ぎた資源濫獲によって、エスキモーの食糧になっていた獲物が激減してしまい、エスキモーたちは長年続けてきた『伝統的な狩猟採集の生活様式』を維持していく事が困難になっていく。自然の再生産能力を超えた海洋資源の乱獲は、現代で…
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新田次郎『アラスカ物語』の書評2:日本人とエスキモーの異文化コミュニケーション

冒頭の『第一章 北極光』では、オーロラの妖艶な美しさと不気味さ、冷気で水蒸気が氷の粒となるダイヤモンドダストの清冽な輝き、静かで寒い星明かりの夜、全てを剥ぎ取って凍りつかせるような暴風雪などが精緻に描かれており、凍りついた北極海から厳寒のアラスカへと歩いていく過酷な冒険小説の臨場感を高めている。 氷原と陸地との境界線を見分ける事が…
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新田次郎『アラスカ物語』の書評1:人生の閉塞感からアラスカに向かった日本人

明治時代の日本に、北アメリカ大陸の酷寒のアラスカへ、孤独な外国航路の見習い船員として乗り込んだ少年がいた。地域の名望家だった一族の零落と医師の進路の喪失、心を寄せていた女性・千代との別離によって、日本に己の居場所を見いだせなくなった安田恭輔は、三菱汽船のアラスカ航路の船員として弱冠19歳で名乗りを上げる。 安田恭輔(やすだきょうす…
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貴志祐介『ダークゾーン』の書評

奨励会に所属してプロの棋士を目指している塚田裕史三段は、中学生の頃から天才的な将棋の才覚を発揮していたが、プロ棋士の関門である『三段リーグ』を勝ち抜けないままに20歳を越えてしまい焦っている。塚田三段はプロ棋士となる『四段昇格』を目指して、同世代でほぼ互角の力量を持つライバルの奥本三段と激しく競い合っている。 中学生でありながら先…
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新田次郎『栄光の岩壁 上下』の書評4:マッターホルン北壁に登頂した岳彦の強さと弱さ

岳彦と大五郎より少し前に登り始めたパーティーは、晴天の気象に恵まれたお陰でアイガー北壁を制覇することができたが、ほんの僅か登り始める日が遅くなっただけで、登攀が不可能な気象になってしまうのである。そして、岳彦らの横を急いで通り抜けていったスペインの遠征隊は、悪天候になっても退却せずに無理をして(日本へのライバル意識を出して)強行軍で突き…
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新田次郎『栄光の岩壁 上下』の書評3:アイガー北壁を目指す岩壁登攀と仕事・結婚との両立

“河本峯吉・辰村昭平・谷村弥市”と相次いで親しい人たちを山で亡くしてしまった岳彦は、自分と一緒に山に登った者は次々に死んでしまうと感じ、自分自身を不運な疫病神のように蔑んだりもする。だが、高校時代に冬の八ヶ岳で峯吉と一緒に死んでいてもおかしくなかった自分がこうやって生かされていること、もう二度と歩けないはずの足が再び歩けるようになったば…
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新田次郎『栄光の岩壁 上下』の書評2:“山を歩く登山”から“岩を登攀する登山”への転換

同級生の誰よりも優れた体力があり、長距離を歩いても疲れないだけのスタミナを持っていた岳彦だったが、足を失ってからは『山道を歩くこと』が途轍もない苦痛となり、歩くことに対する苦手意識にも囚われるようになった。 山から離れられない岳彦が見出した活路は、『山道を歩く登山』ではなく『岩壁を登攀する登山(腕力で岩に取り付いてよじのぼる登山)…
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新田次郎『栄光の岩壁 上下』の書評1:敗戦による社会・人心の変化と冬の八ヶ岳での遭難

新田次郎の書いた小説『孤高の人』は、不世出の登山家・加藤文太郎を題材にしたヒューマンな山岳小説だったが、『孤高の人』では長距離をひたすら歩き続ける縦走登山と日本の冬山での過酷なビバーク(厳冬期の野営を可能にする生命力)に力点が置かれていた。この『栄光の岩壁』という作品は、『孤高の人』『銀嶺の人』と並ぶ新田次郎の長編三部作の一つとされてい…
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新田次郎『孤高の人 上・下』の書評4:“不死身の加藤”の槍ヶ岳・北鎌尾根での最期

小説『孤高の人』では、園子と花子という二人の女性を巡る加藤文太郎の恋愛も描かれ、そこに加藤のことを尊敬して慕って弟子のように加藤の登山を真似ていく宮村健(みやむらたけし)が加わってくる。洗練された知的なお嬢様のような雰囲気を持つ園子に、加藤は『別世界の理想的女性』としてのイデアを見て憧れて惚れる。 園子は外山三郎の親戚筋に当たる女…
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新田次郎『孤高の人 上・下』の書評3:“冬山の自然の厳しさ”と“世俗の人間関係の難しさ”

小説内の加藤文太郎の登山は一流の域に達してはいくが、徹頭徹尾、誰にも学ばず誰とも一緒に登らない登山であり、その単独行は『山では自分以外の何ものをも頼ることはできない。自分独りであればどんな状況でも死ぬことはない』というストイックなまでの他者の存在を拒絶する信念であった。遂には外山三郎も藤沢久造も加藤を正規の登山界に組み入れることを諦め、…
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新田次郎『孤高の人 上・下』の書評2:社会人登山家の嚆矢となった加藤の友人関係と孤独感

漁師町の兵庫県美方郡浜坂町で産まれた加藤文太郎は、元々は海・泳ぎに親しみを持っていたが、18歳から独自に山登りを実践しはじめ、20歳の段階で和田岬の寮を朝早くでて、横尾山、高取山、菊水山、再度山、摩耶山、六甲山、石の宝殿、大平山、岩原山、岩倉山、宝塚までの片道50キロを縦走し、その日の夜までに17時間で和田岬に帰ってくるという『六甲全山…
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新田次郎『孤高の人 上・下』の書評1:驚異的な脚力と精神力で登山に臨む“単独行の加藤文太郎”

登山小説(山岳小説)を多く書いている新田次郎の作品では、『槍ヶ岳開山』の書評を書いたが、『孤高の人』もまた加藤文太郎(かとうぶんたろう,1905-1936)という実在の登山家をモデルにして書かれた小説である。 加藤文太郎は弱冠31歳という年齢で、厳冬期の槍ヶ岳・北鎌尾根へという難所に強行軍で登って命を落とすのだが、『不死身の加藤・…
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貴志祐介『悪の教典 上・下』の書評

生徒や同僚の教師から信頼されて好かれている爽やかな英語教師が、他人の苦痛や恐怖に共感できず合理的な損得計算だけをする『サイコパス(精神病質)』だったらという前提で書かれたサイコサスペンスのホラー小説。小説全体の雰囲気や流れからすると、同じ学校内での殺戮を題材にした高見広春の『バトルロワイヤル』にもどこか似ているが、貴志祐介の今までの作品…
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桐野夏生『ポリティコン 上・下』の書評2:唯腕村の村内闘争と高浪東一の権力と愛・性への欲望

旧世代の村民のサボタージュとボイコットの結果、唯腕村の『世代交替』が急速に進み始めるのだが、それは東一にとってはうるさい老人たちを退かせる渡りに舟の変化でもあり、父親の素一の後を襲って理事長の座に就いた東一は、唯腕村を『自分の王国(自分に都合の良い村)』に変革するために、北田・スオンら・メディアの力を借りて村内改革を進めていくことになる…
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桐野夏生『ポリティコン 上・下』の書評1:理想的で閉鎖的な農業共同体としての唯腕村の歴史と現状

慌しくストレスの多い資本主義・企業経済の世界から脱け出して生きていきたいという欲望の現れとして、『自給自足的・非貨幣的なコミュニティの形成』がある。心から信頼して助け合える同志と呼べるような仲間と一緒に汗水を流して懸命に働けば、『お金・企業・市場に束縛されない人生』の道が切り開けるのではないか、『仲間・共同体のための労働』ができるのであ…
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村上春樹『1Q84 BOOK1<4月―6月>』の書評3:さきがけの宗教団体化と天吾の親子関係の記憶

自然と共に生きる有機農業を精力的に行う『さきがけ』の評判は高まり、深田保を慕って農業生活を送りたいという人々や家族が次第に増加して農業コミューンは大きくなっていったが、初めに深田保の共産主義的な政治思想に感化されて参加していたメンバー(学生)は『非革命的・非政治的になったさきがけ』に不満を覚えるようになる。 そこで武闘派の過激分子…
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