テーマ:小説・ミステリー

村上春樹『1Q84 BOOK1<4月―6月>』の書評2:男女のジェンダーと農業コミューンの変質

DVや性犯罪の被害に遭った女性たちをシェルターで匿い、タマルという屈強なボディガードも雇っている麻布の老婦人(女主人)は、自らが信じる『正義の遂行』と『女性の保護』のためには如何なる手段をも選ばない(罪の意識を持たず迷いも抱かずに暗殺をも指示する)冷徹な女性である一方、普段は温室で植物・蝶を愛でながら穏やかに紅茶のカップを傾けるような貴…
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村上春樹『1Q84 BOOK1<4月―6月>』の書評1:青豆の暗殺業と罪に対する罰、屈曲した性愛

『青豆』という不思議な姓を持つ暗殺者の女性と『天吾』という自我の宿命を感じさせる名前を持つ作家志望の塾講師の男性との物語が交互に繰り返されていくが、BOOK1の段階では青豆と天吾の直接の接触や会話はない。だが二人が出会う予兆めいた言葉として、不特定多数の中年男性とストレス発散のための放縦な性交を重ねる青豆は、『少なくとも私には好きな人が…
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島田荘司『写楽 閉じた国の幻』の書評3:“平賀源内=写楽説”の頓挫と鎖国体制の盲点を突く推論

本作『写楽 閉じた国の幻』では、幾つかの有力な別人説を塾講師の佐藤貞三が片桐教授の援助を受けながら検証していくところがメインになっているが、今まで取りざたされた別人説は正に何十人にものぼるという多種多様な状況であり、『決定的な物証・証拠』が無いために、どの仮説が正しいのかを確実に言うことはできないようだ。今まで江戸美術史で取り上げられた…
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島田荘司『写楽 閉じた国の幻』の書評2:浮世絵・錦絵の歴史と東洲斎写楽の謎

開人を襲った悲惨な事故は、実際に2004年に六本木ヒルズ森タワーで起こった『回転ドア死亡事故』に題材を取っていることは明らかであるが、作中では追加でコイン投入できないパーキングメーターの不親切な設計と合わせて、センサー作動で急停止しても事故回避ができない回転ドアの構造上の問題を、『回転ドア事故被害者の会』での会話で論じていたりする。 …
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島田荘司『写楽 閉じた国の幻』の書評1:佐藤貞三の家庭生活の破綻・挫折感と回転ドア事故

世界的に著名な浮世絵師の葛飾北斎(1760-1849)の研究をしていた東大卒の佐藤貞三(さとうていぞう)は、川崎市の準ミスでお嬢様の千恵子と28歳でお見合い結婚をして、総合商社M物産の役員の義父(小坂)の支援を受けながら大学教授のポストを目指していた。叩き上げで権力と財力を掴み取ってきた義父は尊大で威圧的であり、自分の娘の結婚相手として…
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万城目学『プリンセス・トヨトミ』の書評:“大阪城地下・大阪の大衆文化”に隠蔽された謎

会計検査院第六局に所属する副長の松平、部下の鳥居と旭ゲーンズブールの3人が、大阪府庁や公益法人・特殊行政法人の会計検査を実施するために大阪を訪れる。アイスクリーム好きだが検査の厳格さで知られる上司の松平、怪しい経理書類を独特の嗅覚で見極める特技を持つ鳥居、内閣法制局出身のエリートで容姿端麗なハーフの美女の旭ゲーンズブールといった個性豊か…
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天童荒太『静人日記』の書評:『匿名の死』を悼む坂築静人の奇妙な生き方と現実の他者との距離感

人間と動物の差異として『死を悼む』ということがある。人間は血縁のある家族の死を悼むだけではなく、自分と付き合いがあった親しい友人の死を悼み、何かの縁があった知人の死を悼む。飼っていた愛らしいペット(動物)の死を、悲しみに暮れながら悼む人も少なくないだろう。しかし、人は年月の経過と共に『死を忘れる』ものでもある。あれほど悲しみや痛みに打ち…
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伊坂幸太郎『終末のフール』の書評:地球・人類の滅亡が決定されても残る人生(日常)の意味とは?

宇宙科学の天体運動の予測により、8年後に地球に小惑星が衝突することが分かったという前提でSFチックな物語が展開する。地球滅亡のカウントダウンを告げるニュースがテレビ・新聞を占拠すると、多くの人々は日常生活や仕事を、今まで通りに規則正しく行うことの意味を見失い、世界中が大パニックになる。 末期ガン患者の闘病でも、自分に残された『生の…
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篠田節子『逃避行』の書評:家族との縁が切れた主婦と愛犬ポポの悲しくも温かい逃避行

人間よりも犬のほうが好きという『無類の犬好きな人』は多くいるが、ペットブームや単身世帯の増加の影響もあって、愛犬や愛猫との生活に癒しを感じてのめり込む人は今後も増えるのかもしれない。人間と犬との共同生活の歴史は、数百万年前の旧石器時代にまで遡れるほどに古いといわれるが、多くの人は物言わず自分をひたすら慕ってくれる犬が好きだし、『愛犬と暮…
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平野啓一郎『ドーン』の書評:“分人主義・顔認証検索・宇宙開発”から予測される近未来

宇宙船ドーン(Dawn)による世界初の有人火星探査の成功、人々のイデオロギー(基本的価値観)の分断を鮮明化するアメリカ大統領選挙、自己アイデンティティが複数化する『分人主義(ディビジュアリズム)』の拡大、地球からは見えないドーン船内の人間関係のドラマ、アメリカの貧困層の兵士化と戦争ビジネス……ハリウッド映画でキャスティングされても違和感…
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恩田陸『不連続の世界』の書評:現代の怪奇と各地の旅情が漂うトラベルミステリー

音楽プロデューサーの塚崎多聞(つかざきたもん)が次々と経験する『少し怖くて不思議な話』を題材とした恩田陸のミステリー短編集。どこか茫洋として憂き世離れした雰囲気のある音楽プロデューサーの塚崎多聞、完璧な経歴と家柄を持つ美人な旧通産省官僚の美加、イギリスの名家の生まれで美加に思いを寄せる証券マンのロバートといった登場人物は共通しているが、…
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歌野晶午『絶望ノート』の書評:いじめを記録したノートから“複数の視点”を通して展開する物語

大刀川照音(たちかわ・しょおん)が、具体的ないじめの状況を書き記した『日記(絶望ノート)』を巡って様々な事件が起こるという物語。いじめをする是永雄一郎、庵道鷹之、倉内拓也と、いじめを受ける大刀照音とのやり取りが毎日の日記に記されていく。 名前からの連想で“タチション”という侮辱的な渾名をつけられ、絶対に負ける遊びに参加させられて罰…
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東野圭吾『使命と魂のリミット』の書評:職業倫理と過去の執着からの離脱を描く医療ミステリー

ベストセラー作家である東野圭吾の医療系ミステリー小説ですが、東野氏が小説の題材とするテーマや社会問題は非常に幅広くて、どれも一定以上の物語のクオリティを持っています。『使命と魂のリミット』は、大学病院で心臓外科医を目指す研修医の氷室夕紀が、『過去の医師・母親にまつわる個人的な不信』を乗り越えていくという筋立てですが、夕紀を取り巻く『親子…
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島田荘司『龍臥亭幻想 上下』の書評:森孝魔王の正義の復讐と村落社会の迷信・差別の悲しみ

明治維新によって幕藩体制と身分制度が解体され、備中藩の旧藩主・関森孝(せきもりたか)はかつての所領と家臣の多くを失い、関家の遺産を元に暮らすことになった。廃藩置県と四民平等によってかつての威勢と富裕を失ったとはいえ、関森孝は江戸時代であれば備中藩を治める殿様であり、明治の御世に入っても派手な暮らしを繰り返して次第に関家の財産は細っていっ…
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海堂尊『ジェネラル・ルージュの凱旋』の書評

『ジェネラル・ルージュの凱旋』は、医療ミステリー小説としてベストセラーや映像作品になった『チーム・バチスタの栄光』と『ナイチンゲールの沈黙』の続編(3作目)に当たる。医療系小説にありがちな難易度の高い手術や発症率の低い難病を取り扱ったような内容ではなく、『病院内の派閥闘争・医療倫理や病院財務の問題・Ai(死亡時画像診断)・業者との癒着』…
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桐野夏生『メタボラ』の書評:“居場所”と“記憶”を失って漂流する若者の暗くて明るい物語

過去の記憶をすべて失って南国・沖縄の原生林をさまよっていた「僕」は、天真爛漫で田舎臭さが抜けない宮古島出身の美青年・伊良部昭光(いらぶあきみつ)と偶然出会う。何が何だか分からないまま、混乱した気持ちで沖縄奥地のジャングルを抜け出した「僕」は、昭光と一緒に名護に向かう国道沿いのコンビニに駆け込み、自分の顔を初めて確認する。鏡に映っていた「…
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小川洋子『貴婦人Aの蘇生』の書評

私の母方の伯父は、地質学を研究して海底油田の調査をする仕事をしていたが、その仕事を辞めてからは職を転々としたり、色々と怪しげな事業に手を出しては失敗を繰り返していた。気が向くままフワフワと仕事を渡り歩き、地に足がつかない『自由人』としてのライフスタイルを謳歌していた伯父は、真面目さと堅実さを絵に描いたような常識人である私の父母とは反りが…
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伊坂幸太郎『魔王』の書評:ファシズム(群集心理)の不安と安藤兄弟の超能力を巡る物語

自分が頭の中で念じている内容を『他人の口』から喋らせることができるという超能力(腹話術)を持つ会社員の安藤が、閉塞した日本に忍び寄るファシズム(全体主義)を警戒して阻止しようとする。経済が悪化して景気低迷が続く日本では、失業率が史上最悪となり、国民の心は希望の無い諦観に緩やかに包まれていた。国内の政治・経済に活路を見出せない国民の感情的…
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佐藤賢一『カルチェ・ラタン』の書評:青年ドニ・クルパンの“自立”に向かう友情と性的成熟の物語

パリ有数の資産家クルパン水運の次男であり、純情過ぎるが故に女性が苦手なドニ・クルパンとパリ大学神学部が輩出した女好きの俊英マギステル・ミシェルの友情を中心にして、16世紀パリの『キリスト教改革(神学論争)』と『男女の性愛の葛藤』を小説化した作品である。 冒頭の序文では、ドニ・クルパンは類稀な業績を残した偉人の『大ドニ』として言及さ…
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村上龍『半島を出よ 上下』の書評

村上龍の大部の長編小説だが、北朝鮮の特殊部隊である『高麗遠征軍(こうらいえんせいぐん)』が近未来(2011年)の日本に解決困難なテロリズムを仕掛けてくるという政治サスペンスである。北朝鮮のミサイル実験や核開発問題などを考慮するとタイムリーな物語設定であるが、北朝鮮の兵士ひとりひとりの人物像と心の揺れの詳細な描写により、単純な勧善懲悪の筋…
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京極夏彦『邪魅の雫』の書評:“毒の雫”を持つことによる危険な誘惑と男女の別離に絡みつく情念

陰陽師の拝み屋で古書店を営む中禅寺秋彦(ちゅうぜんじあきひこ)が、“言葉の呪力”で『憑き物落とし』をする京極夏彦の京極堂シリーズを何年ぶりかに読んだ。想像妊娠をトリックに用いた『姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)』や戦時中の科学研究が絡んだ奇怪な事件を題材にした『魍魎の匣(もうりょうのはこ)』から京極堂シリーズを読み続けているが、最近は新作が出…
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島田荘司『帝都衛星軌道・ジャングルの虫たち』の書評:妻の突然の失踪を巡る謎と夫の絶望からの回復

それまで女性に全く縁が無かった信用金庫に勤める銀行マン紺野貞三(こんのていぞう)が、行き着けの定食屋『ひょっとこ』で見初めた美砂子(みさこ)にダメ元で声を掛けてデートに誘い、あっさりとOKを貰う。風采が上がらない真面目だけが取り得の紺野貞三だったが、堅い安定した仕事をしているだけに、お見合いの話は両親や上司から何度も舞い込んでいた。しか…
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伊坂幸太郎『砂漠』の書評:『砂漠(現実社会)』へと乗り出していく大学生たちのモラトリアムの思い出

5人の大学生のモラトリアムの期間と友情・恋愛のプロセスをテーマにした小説ですが、いかにもありそうな人間関係の展開と各場面のエピソードが、上手く学生生活や恋愛関係のリアリティを浮き立たせています。伊坂幸太郎という作家は、日常的な人間の行動や発言を『小説の表現』に自然に乗せることがかなり上手いと感じますが、『砂漠』では主人公の北村の『冷めて…
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平野啓一郎『決壊 上下』の書評:人間の“生きる意味”の錯綜と格差社会に蓄積する無力感の恐怖

格差社会や無差別殺傷事件、将来不安、少年犯罪、ネットでの犯行予告、うつ病の増大の根底にマグマのように蓄積している『ルサンチマン(弱者の怨恨・憎悪)』を文学作品として昇華させた作品であるが、元々どちらかというと暗いトーンの作品が多い平野啓一郎の著作の中でもその陰鬱さと虚無感が際立っている。一応、物語の後半で良介と『悪魔』が対峙する場面では…
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貴志祐介『新世界より 上・下』の書評:倫理的な人々が構築する“完全な世界”と“人間の原罪”

戦争も争いも犯罪も環境破壊もない『完全無欠な世界』はどのようにすれば建設できるのだろうか?あなたがそういった完全な平和と秩序に覆われた理想の世界や倫理的な人間のみによって構築される社会を夢想したことがあるならば、貴志祐介の『新世界より』はかなりおすすめの小説であり一度は読むべき価値があると思う。ロールプレイングゲーム(RPG)のような冒…
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島田荘司『UFO大通り/傘を折る女』の書評:“二つの中篇小説”を“一つのトリック(謎解き)”でつなぐ

島田荘司の御手洗潔シリーズの作品ですが、表題の『UFO大通り』ではガソリンスタンドの元店員の変死と宇宙人とUFOを家の近所で見たという老女小平ラクさんの証言が計算された物語のプロットの中で上手く結び付けられていきます。奇妙な状況で亡くなっていたガソリンスタンドの元店員・小寺隆の死亡の謎は合理的に納得できるものになっていますが、小寺の婚約…
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有川浩『図書館内乱』の書評

図書館と図書館司書、メディア規制を題材にとったちょっと変わった色合いの小説ですが、『図書館戦争』という前作を読まずにこの『図書館内乱』を読んだので登場人物のキャラクターと人間関係に少し手間取りました。ウェブで検索してみると『図書館戦争』シリーズとして『図書館危機』『図書館革命』などがありますが、恋愛小説的なストーリー展開やトレンディな場…
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伊坂幸太郎『重力ピエロ』の書評:性愛・家族・内面の倫理を巡って紡がれる『罪と罰』の物語

伊坂幸太郎のミステリー小説を初めて読んでみましたが、軽快で読みやすいウィットの効いた文章と個性的な登場人物の取り交わす哲学的な会話が印象に残る作品で、『性』と『生』の悲愴感溢れる相関を照射しながら進むストーリーは人を引き込むものがあります。現代小説で人気の高いベストセラー作家には、東野圭吾や宮部みゆき、桐野夏生、重松清など色々な作風の小…
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平野啓一郎『あなたが、いなかった、あなた』の書評

数ヶ月前に村上春樹の短編集『東京奇譚集』を読んだまま書評を書きそびれていたが、村上の短編集を興味深いストーリーと人物で関係性のエロスをメタファー化した作品と評するならば、平野啓一郎の『あなたが、いなかった、あなた』は小説を叙述する多様なテクニックを駆使しながら平野の日常風景や人間観を巧みに切り取った作品のように感じた。現代小説には小説の…
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レフ・トルストイ『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』の書評

『イワン・イリイチの死』は、『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』で知られるレフ・トルストイ(1828-1910)の後期の代表作の一つである。過去に『戦争と平和』を読んだ時には、作品自体の長さと写実的な描写の回りくどさに辟易した記憶があり、一般に冗長で読みにくいといわれるドストエフスキーと比較してもトルストイの作品には若干の苦手意識を持…
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