「自意識過剰・自他の比較」によって人は悩みやすくなる1:理想自我・完全主義とのギャップ

森田正馬の森田療法では、「自分の感覚・意識へのとらわれ(自意識過剰)」を改善することに重点を置いて、「神経症(森田神経質)」を治療しようとしました。

思春期・青年期以降に「自分が対人的・社会的にどのような人間であるのか」「自分は他人と比較して優れているのか劣っているのか」といった自意識・自我が強まってくるのですが、自意識・自我が強い人ほど心理的に悩みやすい傾向があります。

自意識過剰や自我への執着は、精神分析的療法で苦悩の原因とされる「理想自我と現実自我の乖離(ギャップ)」を誘発しやすいことも、心理的に悩みやすい原因の一つになっています。

身分制度が廃止されて人権が尊重されるようになった近現代人は特に、「建前の平等と現実の差異のギャップ」に悩みやすくなり、自意識過剰や自我への執着、知的な判断能力によって「自己嫌悪・自己批判・不安感・抑うつ感」に苦しむ人も増えました。

自我が強くなる思春期の若者は、自己評価・情緒が不安定になってナーバスになったり刺激に過敏(防衛的)になったりします。自意識過剰な若者だけに限らず、人間は「自分がどう見られているかを含め、自分のことばかりを考える(自分と他者の客観的特徴・能力・状況ばかりに意識を向けて比べる)」ようになると、余計に精神状態は不安定かつ繊細・過敏になりやすくなるのです。

精神的に健康で悩みの少ない人は、「自意識・自我が適度なレベル」に自然に調整されていることが多く、意識が「行動・活動(今からやるべきこと)」「他者・環境(適応したり気遣ったりする対象)」に向きやすくなっています。

もちろん、誰でも自分自身の客観的状態に対する「自意識」や他者・理想と比較する「自我」はあるのですが、精神的な健康を保つためには「外向的な意識(自分の外にあるものに向かう意識)」「内向的な意識(自分の内面・自己像に向かう意識)」のバランスが自然に取れている必要があるのです。

人間が自意識過剰(自我の強さ)で悩みやすいもう一つの理由として、「完全主義欲求」があります。かつては精神的に問題が起こるような「完全主義の欲求・思考」を持つ人はかなりのマイノリティー(少数派)と考えられていましたが、現在ではうつ病の認知療法の研究などを通して、人間は誰でもある程度は「完全主義の欲求・思考」を持つことが分かってきています。

心理テスト(心理測定尺度)で、「自分は仕事・勉強を完全にこなそうとするタイプである」や「細かい部分にとらわれてしまったり丁寧にやり過ぎたりして、時間がかかって最後まで仕上げられないことがある」「いい加減な仕事・作業を許すことができない」などの項目があると、過半の人は「とても良く当てはまる」までいかなくても「ある程度は当てはまる」の項目を選択しやすいのです。

完全主義欲求の存在は、人間の内面には多かれ少なかれ自分は完璧な存在でありたいとか人から常に認められたり好かれたりしたいとかいう「理想自我」があることを示唆しています。

客観的に見て、どんなにダメダメな人でも能力・魅力が高くない人でも、内面心理には一定以上の「完全主義欲求・理想自我(かくありたい理想の自分)」があるのです。自意識ばかりが過剰になると「完全・理想・望ましい他人との比較とギャップ」によって、人は落ち込んだり無気力になったりしやすい傾向があります。

そして、人生・仕事・人間関係が上手くいっていない時ほど、人は逆に自意識過剰(自己防衛的)になりやすいので、メンタルヘルスの維持管理やセルフコントロールはなかなか難しいのです。理想自我と現実自我のギャップがあまりに大きくなると、人は現実の自分を納得できるレベルにまで高めることを諦めて、「現実逃避(妄想・否認・自己否定・他者や社会の否定・ひきこもり)」に至りやすいのです。

自意識過剰が極端になる「自己愛性パーソナリティー障害」においても、自己愛は自分一人で都合の良い妄想に浸っている時(他者が自意識に合わせてくれてちやほやしてくれる時)に肥大しやすいのですが、自分が他者と比べて劣っているとか大したことがないという「客観的な状況・ネガティブな情報」に接すると、途端に機嫌が悪くなったりその現実自体を無視しようとします。


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