境界性パーソナリティー障害の人とどのように接すれば良いか?:共感・寄り添いの調整と自他の境界線

前記事はメラニー・クラインの精神分析的な理論の話になりましたが、境界性パーソナリティー障害(BPD)の人の激しい感情・衝動に巻き込まれ過ぎず、否定し過ぎずに対処するにはどうすれば良いかを考えてみます。BPDでは一般的に相手との心理的距離感が縮まって、何でも言える親しい関係になってきた時に、『怒り・悲しみ・寂しさ・空虚感(虚しさ)・不安感・恐怖感・絶望感・自己否定』などの激しい感情をぶつけてきやすくなります。

そういった激しい感情をぶつけられた時にやってはいけないのは、『嫌な話を聞かせるな・そんな風に言われると自分までイライラする(落ち込んでくる)』など感情的に興奮して返すこと、あるいは『大したことはないから気にするな・そんな風に悪い方向にばかり考えたり感じたりするからダメなんだ』と相手がその感情を感じていること自体を軽視したり否定したりすることです。

境界性パーソナリティー障害(BPD)の『理想化・こきおろし』とメラニー・クラインの妄想-分裂ポジション

境界性パーソナリティー障害の人への接し方・治療法

ネガティブな激しい感情に巻き込まれないように気をつける必要はありますが、まずはBPDの人が今感じている感情を認めて受け入れてあげることで、『その強い感情を感じていること自体は否定しないこと(感情を持つこと自体は当然のことであると一旦受け止めること)』です。

『あなたはそういったつらい感情を抱いていたんですね。その状況であれば悲しみや怒りが強まるのも当然なことだと思います。よく頑張って今まで耐えてきましたね』などの反応を一旦返してから、段階的にそのネガティブな気分・感情を転換(変容)させる認知療法的な方法を一緒に考えていくスタンスになります。

そういった感情を抱くことそのものは悪いことではないけれど、ずっとそのままでいれば何も物事は進まず自分自身も苦しめられるだけだからということを前提にして、『できる所からやっていこう・今の自分にできる小さなことから始めていこう・今の自分が当たり前と思い込んでいる認知(考え方)とは別の認知がないか考えてみよう』などの小さな変化のとっかかりを探してみる方法があります。

客観的な状況や関係を納得いくように整理して、それらの状況・人間関係に対する『否定的・悲観的な認知(物事の考え方)』を修正していく姿勢をまずBPDの人に持ってもらうことが第一の課題になるでしょう。認知療法的な対処法に家族や専門家と一緒にとりあえず取り組んでみようという姿勢が、『自分の激しい感情との距離感の取り方』『ネガティブな情動反応のセルフコントロール(自己制御)』にもつながってくるのです。

境界性パーソナリティー障害(BPD)の人は、愛情飢餓が強くていつも無条件の愛情と承認、保護を求めているところがありますが、その過度の要求は概ね満たされず失望することが多いので、相手が本当に自分のことを大切に愛してくれているかどうかを試す『試し行動』を取りやすくなります。

試し行動というのは簡単に言えば『相手を困らせたり怒らせたりうんざりさせたりする行動』であり、『相手の我慢・忍耐の限界』を試して『何をしても自分に好意的に接して愛してくれること(認めてくれること)』を確認するためのものです。

具体的には、悪口や批判を言ってきたり、不機嫌な顔で接して大きな生活音を立てたり、不貞腐れてやる気のない態度を見せたり、恋人(配偶者)を裏切る浮気の素振りを見せたり、自傷行為をして脅しをかけたりなど様々な試し行動がありますが、こういった挑発的・他者操作的な行動は意識的なこともあれば無意識的なこともあります。

試し行動は端的には自分の不平不満や怒り(イライラ)、不安を表現している行動ですが、『何をしても自分を無条件で受け入れてくれる相手』なのか『やっぱり自分を嫌いになって見捨てていく相手』なのかを試すことによって、後者であれば自分の『人間不信・否定的な確信』を強めて他者を操作し巻き込んで振り回すBPDの対人関係パターンが強化されやすくなってしまいます。

試し行動に対しては、あまりシリアスに受け取って怒り・否定で返すのではなく、柔らかく試しを受け止めて『少しイライラしているみたいだけど何か気に入らないことがあった?』『何か私に話したいことがあるのなら遠慮せずに言ってみてください。』『あんまり困らせられると私も疲れきってしまうからそのくらいでお願いね』といった何気ないニュアンスの返しをしながら、相手のイライラした気分・感情が落ち着いてくるのを待ち、落ち着いたら改めて『相手の客観的な行動の意味・理由・影響』について話し合う機会を持つというのが良いと思います。

境界性パーソナリティー障害(BPD)の人は試し行動や挑発的な態度を取っていてもその相手のことが本気で嫌いで憎いということはまずないわけで、BPDの人と接する時には『その人の言葉・行動・態度』を額面通りに受け取り過ぎずに、『その人の真意・本当の気持ち』を推測して汲み上げて(依存になりすぎない程度に)軽く共感して上げるようなコミュニケーションが有効であることが多い。

BPDの人と接したり話したりする時には、『見捨てられ不安を背景とした無条件の強い愛情・承認・保護』を求めるBPDの人の期待を満たせずに、家族・恋人でも罵倒されたり挑発されたり傷つけられたりして疲弊してしまうケースは多いのですが、BPDの問題行動としてある『各種依存症・自傷行為・自殺企図』にしてもその本質は『自分をもっと分かってほしい・もっと自分と向き合って受け入れて欲しい』ということにあります。

『自他の境界線(危険な巻き込まれの防止)・どこまでしてあげられるかの最低限のルール(犯罪・自殺企図などは入院も検討するなどのルール)』をある程度明確にしながら、BPDの人の『真意・苦しみ・求め』に向き合う粘り強い関係維持や対話機会が重要になってきます。

家族や夫婦、恋人、親友がBPDの人と接する時に大切なのは『愛情・関心の注ぎ方のメリハリ(普段は優しく愛情を注いで良いが、過度の依存や巻き込みがあればシンプルな落ち着いた対応に切り替える)+ある程度の自他の境界線を引くこと(最終的なBPD治療の目的は自他を共に尊重する自立性の獲得であるので、他者と自分をあまり一体化させない)』になってきます。また暴力や自傷行為、自殺企図など『自分個人で対応できる限界』を大きく超えるレベルの問題がでてくれば、精神医療・入院治療などの専門的サポートも利用を検討すべきでしょう。


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