橋本治『いつまでも若いと思うなよ』の書評1:『若さ・新しさ』を持てはやす現代の風潮と老い

『いつまでも若いと思うなよ』は中高年の人にとってショッキングなタイトルだ。『若さ・美しさ・生産性(能力)』が持てはやされる現代では、多くの人ができるだけ年寄りにはなりたくないと思っていて、特にあまり親しくもない女性に年齢を聞くことは一種のタブーでもある。お金のある中高年には、できるだけ若くありたい(見かけ・気持ちが老け込みたくない)という欲求から、アンチエイジングのサービスや健康商品、美容整形などにかなりお金を突っ込んでしまう人も多い。

20代くらいまでの若い頃には、本格的な老いからまだまだ離れている安心感もあって、『私(俺)ももう年で若くない・10代の若者とは違って疲れやすい』などと冗談めかして言えるが、30代後半~40代以上になってくると社会的・客観的に『若者ではないこと(10~20代の若者のカテゴリーや仲間には入れない)』が決定されてきて、体の状態や肌・胃腸の調子にも加齢の影響がでてきやすくなる。

30代~40代は他人から年齢のことを言われるのが少しずつ嫌になってくる年代でもあり、『自分ではまだまだ若いと思っている人』も『自分はもう年を取って体力も気力も落ちてきたと思っている人』も、どちらも『本当の若者ではなくなってきた実感』を自分なりの考え方や生き方で受け止めていかなければならない段階でもある。中年期・壮年期を過ぎて、60代以上の老年期になれば『本当の中年(現役)ではなくなってきた実感』に対して、もう一段階上の受け止め方や割り切り方が求められるようにもなる。

自分の『主観的な自意識』『客観的な年齢』があまりにも食い違っている場合には、『中年期の危機』と呼ばれる精神的危機に陥ることもあるし、かつては『年齢段階ごとにやるべきとされてきた結婚・出産・子育て』などをしていないと、どうでもいいと思っている人でも一定の不安・焦りを覚えやすい年でもある。

本書『いつまでも若いと思うなよ』は、橋本治さんの個人的経験を踏まえた高齢者論であり、現代における老年期の適応戦略でもある。人の多くは、決定的に年齢で体力気力が低下するか大きな病気をするか(慢性的な老年期疾患で悩むか)でもしないと『老い』を自分のものではなく、『他人事』として捉えられないというのは確かにその通りだろう。

高齢者であることの年金・医療・介護などの『制度的な特典』は受けたいが、『自分自身が年寄りであること・人から年寄りと言われること』は認めたがらない傾向
があるというが、年寄りでさえも年寄りであることの価値を認められなくなった『敬老・孝行の薄れた超高齢化社会の時代背景』も影響しているように思う。

高齢者の人口比率が増えたり(昼の街は高齢者ばかりになり)、核家族化で家に高齢者がいない人が増えたり(子供時代もじいちゃん・ばあちゃんとの接点が薄い人が増えたり)したことで、『年寄りであるだけで尊敬されたり親切にされたり特別扱いされたりすること』がかつてほど期待しづらくなった。60~70代くらいならまだよぼよぼではなく元気な人も多く、強気・頑固で攻撃的な人も多いというのがあるが、気質性格や話し方、笑顔の良さなどの部分で『可愛がられて親切にしてもらいやすい高齢者か否か』という格差も大きくなっているのかもしれない。

老いに慣れることができなくなった現代人という視点は斬新で、『若さ・新しさ』ばかりに高い価値が置かれる現代では、『年寄り・古臭い』と思われることが時代や人間関係の第一線から追い払われてしまうことを意味する。そういった年を取っていくことがマイナス評価されやすい現代の風潮があればこそ(単純に40~50歳くらいでも労働市場では若い人より格段に採用されにくくなり社会や企業にあまり必要とされていないという実感を持たされる人も多い)、心身が相当に弱らない限りは、老いを認めたり慣れることが難しくなっている。

『老い』は心身が弱るとか以前ほど元気がでなくなるという点では『病気』に似ている部分もあると著者は語るが、老いと病気の最大にして決定的な違いは『老いは治らないということ(病気は致命的疾患や慢性疾患でなければ治る可能性も高いということ)』である。橋本さんが50代の時に自分の顔色が悪くなっていることに気づいて、『疲れているな』と思い、疲れを取るために『十分な睡眠時間』を取って眠った。しかしぐっすりと眠ってもまだ顔色が悪いままだった時に、『これは疲れじゃないよ、老いだよ』と

老いは治ることがなく、いずれ死んでしまう有限な人間(生命)の苦になる宿命であればこそ、仏教の創始者である釈迦(仏陀)は『生老病死』の四苦の一つに上げているのである。体力気力が衰えたり、しわしわになって美観を失ったり、病気になりやすくなったりすることは、可能であれば避けたいことかもしれないが、避けられないからこそ人間にとっての根本的な苦の一つであり、どうにもならないからこそ人間は自分なりの人生観や価値観、子孫の存在などをもって『老いの意味・価値』を解釈して受け容れていくとも言える。

最新の現代医学では『老化』をいつか克服すべき『病気』のように見なして、遺伝子治療をすることで老化を抑制したり寿命を延ばしたりしようとするような研究もあるが、そういった研究は人間の欲望の終わりのなさを象徴すると同時に、『何事も諦めきれなくなった現代人の苦悩(精神分析のフロイトは諦める術さえ知れば人生は生きやすいといった事を語ったとされるが)』の現れの一端でもあるように思う。


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