回避性パーソナリティーの病理的特性の考察とシゾイドの要素:他者への興味・欲求・喜びの強度

回避性パーソナリティー障害の特徴である『失敗して恥をかきたくない』『挫折や拒絶によって傷つけられたくない』『人付き合いや社会的活動を面倒・億劫に感じる(今以上の責任・義務・仕事の負担を負いたくない)』というものは、一般的な人格・性格と照らし合わせてもそれほど珍しいものではなく、自分にも当てはまる項目や当てはまっていた時期があると思う人は多いだろう。

その程度が軽微であり常態的に不適応が続いておらず、自分の社会生活や人間関係に受忍限度を超えた不利益・不都合が生じていなければ、人付き合いが好きではない人、引っ込み思案で慎重な人、自分に自信がなくて傷つきやすい人、自分ひとりで過ごすのが好きな人、仕事や社会活動に消極的で無気力な人という風に見られるだけとも言える。

パーソナリティー障害の『自己機能』と『対人関係機能』の分類:他者・社会状況を回避する心理

しかしそこで『主観的苦痛・他者への迷惑・社会的職業的な不利益』が目立ってきて本人が社会生活や対人関係に適応できなくなり苦痛を感じて実際の不利益が大きくなってくれば、パーソナリティー障害としての診断・治療・カウンセリング・効果的対応などが必要になってくる。

パーソナリティー障害は健常と異常の間に連続的な程度の段階があるスペクトラムモデルでも理解することができるが、研究者によってはパーソナリティー障害の『健常者との質的な差異』を強調する人もいる。

特に統合失調型パーソナリティー障害や反社会的パーソナリティー障害、強迫性パーソナリティー障害では、スペクトラムの程度問題よりも明らかに平均的な人格構造や価値判断とは違っているという『質的な差異』が目立ちやすいが、回避性パーソナリティー障害の診断項目に含まれる以下のような『機能的特性』は、その程度が弱ければ、自分にあまり自信がなくて傷つきたくない(他者から傷つけられたくない)と感じているかなり多くの人に当てはまりやすいものだろう。

DSM-5の試案である代替的診断基準は、パーソナリティー障害を『機能的特性』『病理的特性』に分けていて、病理的特性には今までの診断基準とはやや異なる視点や特徴が含まれている。

回避性パーソナリティー障害は、以下の4つの機能的特性のうち2つ以上が当てはまるとされる。

1.社会的な不適応感、自己の能力・魅力の不全感、劣等コンプレックスなどによって、自己評価・自尊心が低下しており、自分の不十分さに対して恥の感情がある。

2.慎重かつ小心な性格で、リスクを取って目的を追求すること、今までしたことのない新しい活動(新しい相手との人付き合い)に対して非常に消極的であり、できればやりたくないと思っている。

3.自分が何かしたら、他人から非難・批評・拒否を受けるのではないかという不安や心配にいつも囚われている。

4.(何度も向こうから愛想よく肯定・支持されたり世話をされるなどして)拒絶や非難をされる恐れがないと確信できた他者としか関わりを持つことができない。
回避性パーソナリティー障害は、以下の4つの『病理的特性』を持つとされるが、『1.心配性』が必須項目で、2~4のうち2つ以上が当てはまれば診断されるという試案である。

人付き合いや社会的活動をしても喜び・楽しみが得られないので積極的に関わろうとはしないという『無快感症』は、今までは回避性よりも非社交的で他者に興味関心のない統合失調質パーソナリティー障害(シゾイドパーソナリティー障害)に特徴的とされるものであった。

1.心配性……社会的活動・対人関係における不安感・緊張感・パニックが強く、他者から傷つけられた過去の不快な出来事を思い出したり、未来で起こるかもしれない出来事を先回りして過度に悲観して心配する。他者と関わる社会的状況に対して、過度に神経質・臆病で心配性なところがある。

2.ひきこもり……社会的場面・対人状況が苦手なので寡黙になったり回避したりしやすく、自分一人でひきこもっている否定・拒絶されない状況に安心を覚え、自ら積極的に対人関係を持とうとはしない。

3.無快感症……人づきあいや社会的活動などの人生経験から得られる喜び・楽しみが乏しく、人・物事への関心も弱いために、そうした人間関係・社会的活動に自ら参加しようとはしない。

4.親密さの回避……友人関係・異性関係(恋愛・結婚)を含めて人と親密な関わりを持つことを避けて、他者への愛着もほとんど持たない。

他者に初めから(本音の部分で)興味・関心がなくて、無理に関わっても喜び・楽しみが実感できないから他者と関わらないというのは、今まで統合失調質パーソナリティー障害(シゾイドパーソナリティー障害)の診断項目であったが、DSM-5の代替的診断基準では本音の部分では他者に興味・関心があって本当は認められたいのだけれど、傷つきたくない不安や緊張、気疲れのほうが勝って回避してしまうという『回避性パーソナリティー障害の心理的原因』をあまり重要視しない傾向も出ているようである。

統合失調質パーソナリティー障害(シゾイドパーソナリティー)の原型が、統合失調症の感情鈍麻・無為・自閉(外界・他者への無関心)など自分だけの世界に閉じこもるような『陰性症状』にあることを考えると、人づき合いや社会的活動を回避している心理的原因を問わずに、回避性パーソナリティー障害の中に『初めから他者への興味関心が乏しく非社交的な特徴・人づきあいや社会的活動といった人生体験から喜びを感じられない無快感症』を含めて良いかは議論の残るところだと思う。

努力や無理をして社会的・生活的な体験をしてみても、そこから喜び・楽しみの報酬がほとんど得られないから消極的になり回避的になるというのは因果関係そのものは明確である。シゾイドパーソナリティーほど深刻でなくても、『社会的活動・対人関係に伴う緊張感・義務感・配慮のストレス』と比べて『それらから得られる喜び・楽しみ・充実感』が圧倒的に弱いから他人や社会とそれほど関わりたいと思えないという軽度の無快感症・孤独癖(一人が好きで楽)の人も確かに一定の割合でいるだろう。

無快感症・孤独癖はなくても一般的な対人関係が煩わしくて面倒くさいと感じ、義務的・職業的な関わりがなければ、他者と別にそれほど会いたくない(努力してまで他人と一緒の時間を過ごしたくなくて得られる喜びが乏しい)という回避性パーソナリティーの人も現代では珍しく無くなっているのかもしれないが、そういった人格構造や性格傾向の時代的変化が『無縁社会・非婚化・SNEP(孤立無業者)の問題』などの背景にあるのかもしれない。

とはいえ、義務や必要がなければ自分からは人間関係に参加しようとしない人というのは、かなり昔から存在する非社交的な性格傾向の一つの型ではある。義務・必要から人づきあいをするとしても、他者と交わる事を好まない非社交的な人はどこか腰が引けていて深い関わりには消極的であることが多く、そういった儀礼的・形式的(事務的)なやり取りに終始する消極姿勢は相手にも伝わるので自然に親しい密接な人間関係からは遠ざかりやすくなる。

昔から少なからずいる『自分からは人間関係を求めない消極的・非社交的な人(社会的・職業的にはそれなりに無難に適応してやり過ごしている人)』はパーソナリティー障害とまでは言えず、『自分の側から誘ったり電話をしたり訪問したりすることのない人』ではあるが『強く誘われればそれなりに応じる人(逆に相手からの働きかけがなくなれば音信不通になる人)』であることも多いだろう。

しかし自分から話しかけたり誘ったりの行動がほとんど見られないので、友達付き合いのような人間関係では物足りない冷めた人物、情の薄い面白みのない人物と見られやすく、自然に形式的な人間関係ばかりになって親密な他者との付き合いからは距離を置くことが多いのだが、本人自身は(社会的・職業的にそれなりに適応できていてごく少数の家族や旧友などがいてくれさえすれば)主観的に苦悩していたり寂しくて孤独で困っているというわけではない。

ここでは『心配性』が回避性パーソナリティー障害の中核的な病理的特性として上げられているが、それは回避性パーソナリティー障害の人が『物事や人間関係の良い側面を過小評価する+物事や人間関係の悪い側面を過大評価する(物事や人間の悪い可能性ばかりを気にして囚われ不安になって行動することができない)』という特徴である。

自分が傷ついたり恥ずかしい思いをしたりする『悪い結果』が出る可能性がわずかでもあるのであれば、初めから他者との関わりや社会的活動を回避したほうが良いとする回避性パーソナリティー障害の基本的な行動パターンを説明しているのである。


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