パーソナリティー障害の『自己機能』と『対人関係機能』の分類:他者・社会状況を回避する心理

回避性パーソナリティーの認知傾向の特徴は、『マイナス要因の過大評価+プラス要因の過小評価』である。自己愛性パーソナリティーでは『実際以上に自分を自己中心的(わがまま)に高く評価する認知傾向』が見られるが、回避性パーソナリティーでは『実際以上に自分を悲観的(卑屈)に低く評価する認知傾向』が見られる。

そのため、自分は大したことができない取るに足らない存在だから絶対に失敗しないように、傷つけられないように、恥をかかないようにしなければならないという心理になって、自己抑制的で他者や社会的活動をできるだけ避けようとする回避の傾向が強まるのである。回避性パーソナリティーの人は失敗・挫折・拒絶によって傷つくことを、自己の存在そのものの完全否定のように恐れるので『石橋を叩いても簡単には渡らない』といった極度に慎重で消極的な生き方になりやすい。

回避性パーソナリティー障害の診断基準と自己評価を低下させる認知の歪み

回避性パーソナリティーの回復段階では、実際以上に自分を低く評価して自己批判的だった傾向が弱まってきて、少しずつ実際の自分の身の丈に合った欲求・興味・関心を持って行動できるようになってくる。回復の一つのポイントとして『実際の客観的な自分の能力・努力に合わせた目標設定』ができるようになるということがあり、社会的活動の回避が強い時には『絶対に成功して失敗しない簡単すぎる目標(できて当たり前のレベルでチャレンジする意義のない簡単すぎる目標)』を設定してしまうことが多い。

自分の実際の現状や能力に見合っていない『あまりに簡単すぎる目標』を設定してしまうことの問題として考えられるのは、『仕事・恋愛・結婚などの少なからぬ不確定性のリスク』がある活動に対して過度に消極的になったり、結果がどうなるか分からない事柄に対してまったく何もできなくなるということである。少しでもリスクのある不確定な活動や人間関係はまったくなくても良いと本心から思えるのであればそれでも良いかもしれないが、仕事や人間関係に過度に消極的になると実際の経済生活や精神の安定(メンタルヘルス)にも悪影響が及ぶ恐れはないとは言えない。

極端なリスク回避による自己防衛と現状維持の心理の背景の中心にあるのは、『失敗して恥をかきたくない』『挫折や拒絶によって傷つけられたくない』ということである。

面倒くささ・億劫さ(無気力)にもつながる精神活動抑制を引き起こすもう一つの要因として『多少のメリットがあっても今以上に責任や義務、課題の負担が増えるのは嫌である(他者や社会活動から距離を置いた自分一人の自由な時間を確保したい)』というアパシーシンドロームや他人に興味の薄いシゾイドパーソナリティーと類似した心理も想定される。

パーソナリティー障害(人格障害)の定義は『平均的な人格構造・性格傾向から過度に偏っていて長期間にわたってその行動パターンが持続していること(遅くとも青年期か成人期早期にはその行動パターンが発現していること)』『社会的状況・対人関係状況に対して柔軟な反応ができないこと』であり、パーソナリティー障害であるか否かの境界線は必ずしも0か1かで分けられるものでもない。

パーソナリティ障害の過度に偏った内的体験と持続的な行動パターンは、『1.認知、2.感情、3.対人関係機能、4.衝動コントロール』の4領域の内で2つ以上に表れるとされるが、DSM-5の代替診断基準ではパーソナリティー障害を『パーソナリティー機能の障害』と定義して、パーソナリティ機能を以下の4領域(自己機能の2つの領域+対人関係機能の2つの領域)に分類整理している。

自己機能は『同一性』『自己志向性』に分類される。

同一性(Identity)……自己と他者の境界線が明確であり、自他を唯一の存在として認識することができ、自己の人生について選択的に決定することができる。自分が社会的・実存的にどのような人間であり、どんな人生を生きていきたいかを認識して、人生を前向きに発展させて生きていくための『安定的な自尊心と適度な自己評価』を得ることができる。

自己志向性(Self-direction)……自分がどのような人生を生きていきたいか、どんな人間関係を持ちたいかについて『短期的・長期的な人生の目標』を持っていて、社会適応的・他者調和的な行動規範を適度に利用することができる。過度に悲観的・消極的にならずに、自分と他者のために生産的・建設的に内省して判断する能力を持っている。

対人関係機能は『共感性』『親密さ』に分類される。

共感性(Empathy)……『他者の感情・体験・意図(動機)』を推測して理解することができ、他者の存在や気持ちを尊重することができる能力である。自分の言動が他者に与える影響について理解しており、『自分と違う考え方・感じ方』を受容することができる。

親密さ(Intimacy)……他者との関係の深さと親しみを持続させる能力であり、他者との親密さに対する適度な欲求があってそれに適応することができる。対人関係・対人状況において、相互的な配慮・信頼や互恵的な利益関係を持つことができる。

平均的な性格特徴から過度に偏った内的体験や行動パターンがあって、本人に『主観的苦痛+社会的・職業的な不利益』がある場合に、はじめてパーソナリティー障害であるか否かの検討・診断が始まり、そこからどのような治療的・改善的な対処策を講じていくべきかが考えられることになる。

各種のパーソナリティー障害の診断基準を読んでみると、『自分にも当てはまる項目が多い・自分の家族や知人に当てはまっている』と感じるものはあるが、それは各パーソナリティー障害の特徴はその程度が極端(過度)でなくて常態的(いつも)でなければ、かなりの人に多少は当てはまるような項目になっているからである。


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