トランプ大統領の『壁』に象徴される政治理念と内向き志向2:自由・国際協調からの後退

アメリカ側から周辺国に参加を求めてきたTPP(環太平洋経済連携協定)からの突然の離脱も、『アメリカ人の労働者とアメリカ企業の製品市場の保護』を目的にしており、トランプ大統領は『アメリカの製品を買う・アメリカ人を雇う』という二つのシンプルなルールを守れば、アメリカ経済は更に拡大してアメリカ人が豊かになると考えているようだ。

トランプ大統領の『壁』に象徴される政治理念と入国制限令1:限定されるアメリカ国民

自由貿易を否定してアメリカ企業の製品と競合する外国製品には高い関税をかけ、アメリカ人を雇わない外資系企業には高い税金や厳しい規制をかけようとしているが、自由貿易というのはアメリカ一国だけが損をするような類のものではなく、多くは相互利益の互恵性(デヴィッド・リカードの『比較優位の原理』)を伴うものである。

外部世界(外国・外国人・異教徒)の脅威からアメリカを守るとする『壁』は、『メキシコの不法移民の防御・保護主義のブロック経済・中東やアフリカの特定国家の入国制限』などにもつながるトランプ大統領の世界観や政治理念を象徴するものだろう。

高い壁を築くことによって『味方と敵・内側と外側・アメリカ人と外国人(ムスリム)』を区別して、内側にいる味方の利益になりそうな政策だけを実現していくというのが基本スタンスになっているが、これは今まで米国の歴史的・思想的な国家理念として長く機能してきた『自由主義・資本主義(市場経済)・国際協調主義・移民国家(多民族の共生)』の自己否定になり逆に偉大な米国の再建の足かせになりそうな感じもある。

トランプ大統領の政策や演説とそれを熱狂的に支持する白人労働者層から伺えるのは、アメリカ人が国際社会(諸外国・グローバリズム・ムスリム)に対して意外なほどの被害者意識を持っていたということであり、これは日本人の多くが持っていたと思われる『世界最強の軍事国家・経済大国である米国のイメージ(世界秩序を主導的に構築して国際社会から利益を得ている米国のイメージ)』を覆すものだったのではないだろうか。

トランプ大統領の信任が厚いジェームズ・マティス国防長官は、アジア太平洋地域(日韓)を優先して訪問し、尖閣諸島問題に対して日米安保条約の第五条(共同防衛)が適用されると明言した。更に米国のアジア太平洋地域における安全保障体制(米日韓との集団的自衛)とプレゼンスは今後も維持されるとして日本人や韓国人をとりあえず安心させたが、トランプ政権の全体的な印象としてはやはり世界秩序の主導(世界の警察的な役割)から撤退したいコストを減らしたい『内向き志向』が顕著になっている。

トランプ大統領の政治はアメリカ国内の格差・貧困の深刻化を反映しており、特に白人ブルーワーカーの中流層の凋落に対する危機意識からの保護主義が目立っている。アメリカは世界最大のGDPと軍事力を保有する超大国として、歴史的に国際社会の価値や問題解決を先導してきたが、ここにきて超大国としての国際社会における振る舞い方を変え、『アメリカ人(特に白人の中流以下の移民を嫌う層)のためだけにアメリカの力を使うこと』を強く訴えるようになってきている。

メイド・イン・アメリカの製品だけを買う保護主義の経済、紛争地帯のムスリムや難民の入国を制限する外交、不法移民を物理的にシャットアウトする壁などが、『偉大な米国の復活』に寄与するとも思いにくいのだが、トランプ大統領の当座の政策目標は『第二次産業のアメリカ国内への誘致・白人労働者の中流階層としての復権・世界秩序や国際問題におけるアメリカの国力使用の節約』にあるように見受けられる。

トランプ大統領は、第二次世界大戦後の米国主導の世界秩序や自由貿易、軍事活動(同盟関係)を『外国・世界のための米国持ち出しの無償奉仕活動』のように認識している節もあるが、20~21世紀の米国の外交・軍事の多くは外国から見れば『世界の警察を掲げた米国の戦略的・国益的な活動』に見えていたのであり、その意味ではトランプと諸外国で正反対の見方になっているのだろう。

トランプ大統領は移民・難民を災厄のように嫌って入国制限しようとしているが、アメリカの歴史で活力と成長のエネルギー源になってきたのも『移民の労働力・ハングリー精神・アメリカの人口増加』だったのではないかと思う。移民・難民も含めた多様性・寛容性を受け入れることによって、歴史的な米国市民(米国民)としてのアイデンティティーが形成され、アメリカの人口・経済・軍事の国力が拡大してきたという多民族国家としての経緯も忘れるべきではないだろう。


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