72歳の元自衛官による自爆自殺:高齢者の家族(夫婦)・金銭・居場所を巡る問題

23日午前11時40分ごろ、栃木県宇都宮市本丸町の宇都宮城址公園の駐輪場で72歳の元自衛官の男が、花火から火薬を大量に抜き取って金属を混入した『手製の爆弾』を爆発させて自爆自殺をした。元自衛官の男性は、公園の駐輪場以外にも自宅とコインパーキング(有料駐車場)にとめた車にも爆弾を仕掛け自宅と自家用車を爆破している。その理由の一端は、民事訴訟を起こされて裁判離婚した妻に財産を残したくなかったから(自宅も競売に掛けられることになっていた)だとも伝えられている。

何十年も自衛官としての職務を果たした後の高齢者の自殺は悲しいが、自殺の手段と影響がここまで悪質なものは珍しく、他者に与える危害・迷惑が非常に大きなものとなった。公園の爆弾爆発では周辺にいた男性三人が重軽傷を負っていて、うち二人は骨折しているが、もう少し距離が近ければ自爆に巻き込まれて死亡者が出ていてもおかしくない。自分の自殺に他人を巻き込んで殺しても仕方ないとでもいうような、半ば自爆テロのような卑劣で危険な自殺方法である。

『自爆自殺』という衆目を集める手段を選んだ理由として考えられるのは、『離婚裁判の判決に納得できず社会に自分の訴えや不平不満をどうしても聞いてほしかったこと(=爆発・被害でマスメディアの注目を集めて自分の遺書及びウェブのメッセージを聞かせたかったこと)』『妻・裁判官・調停員に対する不満や怒りの強さ(=自分の言い分を全く聞いてもらえず一方的に悪者にされたかのような不利な判決が許せず妻・家族を困らせたかったこと)』『離婚して孤独になったこともあり、一人では死にきれない寂しさ・弱さ(他人を巻き込むことで覚悟を固める悪質な道連れ自殺)』だろう。

爆発物の予備知識がまったくない70代男性に、ゼロから破壊力の強い爆弾(仕掛けてから暫く時間が経って爆発しているので時限式爆弾とも見られる)を製造する能力はないと思われるが、教官も務めた元自衛官ということなので、爆弾の製造・取り扱いに関する一定の知識・経験があった可能性もある。

また自爆自殺した70代男性は、一般にイメージされるインターネットや機械に疎くて時代の流行についてこれないパソコン・スマホも使えない高齢者ではなかったことも、今回の事件の動機と関係しているのではないかと思う。70代男性は不特定多数の人たちに自分の主義主張やメッセージを伝えられる可能性を持つ『個人メディア』としてウェブ(自分のTwitterやfacebookなど)を認識していたのではないだろうか。

今までも凶悪事件が発生すると、その容疑者のウェブ上のアカウントや写真が徹底的に検索・調査されてマスメディアのワイドショーなどで長い時間取り上げられているので、『人目を集めるインパクトのある自爆事件』さえ起こせば、自分の主義主張をもっとテレビやウェブのニュース報道を通して聞いてもらえるのではないかと考えた動機が想定される。

70代男性はインターネットやWebサービス(SNS・動画投稿サイトなど)を積極的に使いこなすなど、デジタル時代の情報技術やライフスタイルをキャッチアップしていた、特別な体力・歩行能力の衰えなどもなくて健康状態も良好であったと言われる。最近は高齢者でもスマホを自在に使いこなせる人は増えており、熱心にウェブ上のSNSで写真や日記を投稿して交流する層も出てきているが、この72歳男性も『インターネットを使えない(情報・流行・世論に非常に疎い)従来の高齢者像』には当てはまらない人物だったと考えられる。

本人のアカウントと思われるTwitterやfacebookでは、離婚裁判を担当した宇都宮家庭裁判所の裁判官・調停員に対する批判や不満が頻繁に書き込まれており、自分が映った動画までアップロードして、『妻子にDVをしたとされて自分だけが一方的に悪い・自分だけに家庭崩壊の大きな責任があると判定され敗訴した裁判』にどうしても納得できないという主張をしていたようである。

報道される所によると、自衛官を退職後に中年期の娘が統合失調症を発症・悪化させて精神障害者となり、娘の病気も一因となって妻とも不仲になっていったというが、妻に民事裁判を提訴される理由となった『DV(家庭内暴力)』がいつから始まりどのような内容・程度のものだったのかは伝えられていない。

72歳男性の言い分では、娘が精神病になってから妻が病気平癒のために新興宗教に入れ込むようになり、2000万の退職金の大部分をその怪しげな新興宗教に献金してしまったことが老後生活・夫婦生活の破綻のきっかけになったのだという。

夫婦間の問題はDVにせよ新興宗教にせよ娘の統合失調症発症のきっかけにせよ、客観的な証拠が提示されていないので、どちらの言い分がより事実に近いのかは分からないが、宇都宮家庭裁判所は妻のDV被害の訴えをほぼ全面的に認めて、72歳男性は『慰謝料支払いのための債権差し押さえ・年金分割』で預金1500万円を含め持っている財産の多くを没収されてしまうことになったようである。

72歳男性は動画サイトに投稿して『判決は全て敗訴、到底承服できない』『DVは男性の意見は聞きません。全く信用されません』などと投稿しており、離婚裁判や妻の言い分への強い不満と落胆を滲ませているが、夫婦仲の悪化やDVと解釈され得る言動、話し合いの困難の末に至った『熟年離婚+孤立化・相対的な貧困化(分割される年金部分はあるので極度の貧困とまでは言えないにせよ)』が自爆自殺の背景にあったのだろう。

『熟年離婚』の精神的ショックや先行きの悲観は、一般に夫である男性の方が大きく、気持ちが冷めていて長年の不満を鬱積させている場合には、妻である女性の方はショックよりもむしろ開放感・安堵感が強いとも言われる。熟年離婚のストレスやショック、孤独感・不安感によって、男性は酷く落ち込んでうつ病になりやすく、妻以外の新たな他者との社交的な人間関係を楽しめる人の割合も低いと言われる。高齢で熟年離婚して妻子・家族とのつながりを失うと、男性は一般的に完全に孤立化しやすく、社会的・心理的にも疎外されて物心両面のサポートを無くしやすいのである。

それでも熟年離婚や離婚裁判を突きつけられる原因となった事柄に、男性自身が納得して自分も悪い部分があったのだと受け容れることができれば、『妻・家族・裁判所に対する怒りや不満』は抑えられる。

だが自爆した72歳男性のように、『妻子の言い分や裁判所の調停・判決にどうしても納得できない,自分だけが悪いわけではなく相手にも相応の責任や問題があった,自分は犯罪的なDVなどした覚えはない、ちょっとした過去の暴言や喧嘩について揚げ足を取って大げさに騒ぎすぎだ』という思いがあると、自分だけが理不尽な扱いをされて不当に財産権を侵害され(無理やりに慰謝料・損害賠償・年金分割の支払いをさせられ)、わがままな妻や家族に利用され馬鹿にされているという『被害者意識』が非常に強くなってしまう。

現状を受け容れない被害者意識は必然的に『不満・怨恨・報復・復讐の感情』を呼び起こしてしまうが、前頭前葉の高次脳機能(意思決定・衝動制御・思考能力・社会性の配慮など)が低下してくる高齢者の老齢期には、『外向性・内向性・対抗心・攻撃性・自己主張などの元々の性格行動パターン』が強化されやすくなってしまう問題もある。

高齢者の前頭前葉の高次脳機能低下は、『自制心・倫理観・社会性・言語能力の低下や欠如』を引き起こすこともあるが、自爆自殺や殺人・傷害のような重大事件を起こす人は稀であるとしても、『頑固で融通の効かない人・自己主張を曲げない人・人の話を聞けなくなる人・執着心や猜疑心、復讐心が強くて消えない人・言葉が追いつかずに暴力的になる人』などは、(この72歳男性には認知症症状はなかったようだが)軽度認知症の影響の可能性も含めてどうしても増えてくる。

高齢になるほど『元々の気質・性格に基づく攻撃衝動や自己主張』を社会性・倫理観によって抑えにくくなりやすい。その意味で、72歳男性がfacebookに書き込んでいたという『子、妻から斬殺殺害され人生を終えた方が幸せだと思う今日この頃である』『秋葉原無差別殺傷事件のような事件を起こしたい』などのメッセージは、元々本人の精神構造のどこかにあった『暴力的な攻撃性・反社会的な衝動・無責任な自暴自棄の行動』が、『本人にとっての理不尽さに対する絶望感・孤独感』によって強まってきていたとも解釈することができる。

熟年離婚や年金分割・慰謝料支払いは高齢者の精神的危機の一因ではあるが、その危機が『自己否定・うつ病・無気力化(他者や社会と関わる気力の喪失)』に向かうか『反社会性・対抗心・事件化(復讐や騒擾)のアクティビティ』に向かうかは、本人の持つ元々の気質・性格とも相関している。

自爆自殺した72歳男性は普通に考えれば公務員として何十年も勤務してそれなりの公的年金も退職金もあったはずなので、経済的には低年金・無年金の同年代の人よりもかなり恵まれていたとも言える。

だが『中年期の娘の精神病発症とその原因・妻の新興宗教ののめり込みと退職金の使い込み・夫婦と家族の不仲・DVと熟年離婚(これらがどこまで客観的事実でどこからが一方的な過剰な言い立てなのかは分からないが)』によって老後の人生設計や家族関係がぼろぼろに崩壊してしまった。

72歳男性は『自分だけがDVをした悪者であるとする裁判所の判決・処遇』がどうしても許せず受け容れられなかったのだろう。本当に長年のDVがあったのなら自業自得ということにはなるが、妻の言い分だけを全面的に認める裁判所の判決に『今までの自分の人生・仕事・家庭生活のすべて』が否定されたかのような絶望感や虚しさ(人生の無意味感)、激しい憤りを抱くことになった。

そこに『慰謝料支払いのための今の自分にとっての全財産に近い預貯金・自宅の没収命令』などが重なり、老後の安定した生活が成り立ちにくくなったことで、世間を騒がせ自分に注目を集める『自暴自棄の自爆自殺(世間への自己主張・自己正当化を兼ねた自爆自殺)』を本格的に計画・実行しようとする気持ちが固まったのだろうが……人生経験を蓄積・整理して後続世代に生き方の範を示すべき高齢者としては、あまりにも身勝手で無責任な他人を巻き込む自殺方法である。

『高齢期における家族・金銭・居場所の問題の発生(離婚・疎外・貧困・子供の依存やひきこもり・居場所がない・話し相手がいない)』は深刻なメンタルヘルス悪化の原因になるだけではなく、時に自暴自棄や孤独感・絶望感に陥った高齢者による『殺人・自殺・心中・傷害』などの事件事故を誘発しかねない問題である。熟年離婚(老年期での本人が納得できない慰謝料支払い・債権差し押さえ)も増えると思われる超高齢化社会では、類似の問題構造や不満を溜め込んだ家族関係が増加することも憂慮される。


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