人が見た目・身なりで判断されやすい都市文化と身分制秩序の崩れ:贅沢な消費で成長する市場経済

都市と田舎の違いとして、人口が少ない田舎はお互いがどういった身分・立場の人かを知っている『顕名性』があり、人口が多い都市では向こうからくる相手がどこの誰だか分からない『匿名性』があるという違いがある。

田舎ではどんな身なりをしたってその人がどこの誰だかみんな分かっているので、身なり(服装)に気を使って格好つけても背伸びに限界がある。更に、自分の身分・地位・立場から大きくかけ離れた華美・豪華な衣装を着ることは、封建主義の身分制の時代には『不道徳・法律違反(ぜいたく禁止法違反)』になってしまうこともあった。

イギリスの地主的・職業的なジェントルマン階級と人々の実際の身分より良く見られたい欲望

18世紀以前のヨーロッパの田舎では誰が金持ち(地主・貴族・経営者)で誰が貧乏か、誰の身分が高くて誰の身分が低いかという情報をあらかじめお互いが知っているので、いくら外見だけ良い格好をしていてもそれによって『あの人は上流階層(中流階層)の人なのだろうか』と思われることなどないので、見かけだけに力を入れてもほとんど無駄だったのである。

お互いがどこの誰だか分からない匿名性の都市は、逆に『身なり・見た目(服装)で判断される文化』を形成する土壌となりやすく、見栄や体裁、はったり(格好つけ)で実際の自分以上の身分・階層・立場であるかのように見せかけるファッション文化が流行しやすくなる。

近代の都市文化というのは、誰がどんな地位にあってどんな仕事をしているか分からない匿名性があるが故に、第一印象や擦れ違う人からの評価を良くしようとして『見た目・外見(服装・髪型・化粧など)』に非常に気を遣う文化なのである。

16~17世紀の近世ロンドンには、見た目・外見に気を遣う人々の増加に対応するため、美容・理容・医療(健康)に関連する職業に就業する人が急速に増加した。この時代になって初めて、イギリスの大都市ロンドンで実際の地位や身分と関係なく『良い恰好・高そうな服装をしている人が上流階級に見えるという考え方(実際の自分よりも高い身分であるかのように見せかけられるという考え方)』が生まれて、他の人と見た目で自分を差異化しようとする欲望が強まってきたのである。

しかし、16世紀にはまだまだイギリスの王侯貴族の権力や封建主義(身分制)の社会秩序が強く残っていたので、繰り返し自分の身分相応の服装をしなければならない、自分の身分を超えた華美で派手な服装をしてはいけないといった『ぜいたく禁止令・倹約令(服装・散財の規制など)』が出された。

この手のぜいたく禁止令・倹約令は日本の江戸末期にも風紀引き締め(身分制の秩序維持)を目的として何度か出されているが、匿名性の高い都市部(誰がどんな身分かその場ですぐには分からない)ではほとんど実効性がなかったり、衣服・生地の需要を落として経済的に悪影響があるとして廃止されたりしているようである。

ぜいたく禁止令のような身分制社会の秩序を維持するための法律が出てくるというのは、逆説的に一般庶民の経済力(購買力)が上がっていて『身分不相応な服装・恰好』ができるようになっていることの現れでもある。

『伝統身分の高さに依拠しない経済力を身に着けた層(貧困ではない中流階層の予備軍)』が出始めたということであり、ちょっとした贅沢やおしゃれをするために働いて消費する『見栄を張るぜいたく(反倹約)の消費文明・成長経済』によって利益・恩恵を受けられる仕組みが生まれてきたということでもある。

近世以前と近代の経済的な価値観の大きな違いとして、近世以前は『庶民のぜいたく禁止・倹約によって生産物を貯蔵すべき(足りなければ倹約すべき)という価値観』があったが、近代からは逆に『庶民の需要・消費を増やすことによって市場経済を拡大させるべき(消費によって経済成長を牽引すべき)という価値観』になっていく。

その経済的な価値観をもたらした最大の要因は、イギリスで18世紀に起こった産業革命と産業革命による生産力の飛躍的な増大(小作農より現金収入の多い賃労働者の急増・貨幣経済の拡大)であるが、イギリスは1604年の段階で既に、国王ジェームズ1世が旧来の身分制秩序を維持する見せかけのためだけになってしまっていた『ぜいたく禁止法』を廃止している。

ぜいたく禁止法に賛成していたのは旧来の身分制秩序を守りたい国王と貴族だったが、擬似的ジェントルマン(平民のジェントリ)としてファッション・服の材料に関連する事業をしている政治家の議員が増えたこともあり、『衣服の市場(マーケット)』を縮小して景気を悪化させるぜいたく禁止法(経営者としてのジェントリはどんな階級の人でも誰でもお金を持っていて買ってくれる人であれば衣服の商品を売りたい)に強く反対するようになっていった影響もある。


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