生物学的本能(エス)と超自我・社会適応・学習との間で葛藤する“精神分析的な人間観”

“人間的な社会性・倫理観・適応力(自立性)”の基盤を獲得するために、『潜伏期(6~12歳頃)の教育活動・人間関係』において他者と相互作用して物事を成し遂げる協働性・連帯感を培ったり、社会経済的な交換原理(何かを得るために何かで貢献するという対価性・互酬性)を経験的に学んだりしているということになるのだろう。

精神分析のリビドー発達論における『潜伏期(小学生時代)』と社会性・知識技能の学習期間

近代以降の人間が構成している“社会(society)”というのは、その構成員が『膨大無数の知らない人(匿名的な他者)』でありながらも、『帰属感・協働性・連帯感・教育効果(常識・遵法の共有)・交換原理(貨幣経済)』によってその統一的で安定的な秩序とルールが維持されている巨大な集団なのである。

人間社会にも『国境・領土領海・私有地』といった排他的独占の領域はあるが、人間は家族単位(部分)と社会単位(全体)の排他的な切断がなく、夫婦・家族であってもそれ以外の夫婦・家族と職業的社会的に協働する傾向が強い。

他者と上手く協力して集団活動していく『社会的知能(言語能力含め)』、みんなで共通の目標を達成しようとする『共同体的な連帯感・帰属感(全体主義の反動リスクも含め)』、それぞれの適性を発揮し合う『経済的・職業的な分業体制』というのは、個人の社会化・倫理化の拡大と人間社会のグローバルな拡大との両方の可能性を指し示しているのである。

社会集団の巨大化や経済的な分業体制の複雑化、マクロな生産力の向上によって、『政治・経済階層の身分』が生まれたり『資源配分(所得配分)の不公平』が生まれたりもした。

そして、これらの格差感・公平感に対する人間の認知・感情の能力は極めて高度に発達して、『理不尽な格差・納得できない不公平』が長く続くと、個人間の争いや集団間の戦争の原因にもなったわけだが、集団内で不正行為(貢献せずに分配だけ取ろうとするフリーライダー)をしている人を反射的に見つけ出す認知モジュールとして『裏切り者発見モジュール』が知られている。

社会的動物である人間は、『他者の裏切り・不正(ずるさ)』に対してかなり鋭敏に反応して価値判断しやすい傾向(裏切らない不正をしない人を好み、そうでないずるい人を嫌う傾向)を持っている。

精神分析の理論において、理想自我を取り込むことの多い『超自我(superego)』の概念も合わせて考えると、『両親の理想化されたイメージ=理想自我』と『自分にとって理想的な自己イメージ=自我理想』との葛藤の中で、『社会・他者に対してどれだけ誠実であるべきか,社会の共通ルールや道徳的な規範をどれくらい遵守すべきか』といった倫理感・人間性の水準や傾向が自ずから規定されてくるのである。

精神分析的な人間観では、『善悪を分別しない生物学的本能(エス・イド)』『親の躾・教育による超自我形成(権威性のある倫理観)』『社会的・経済的な現実原則の要請(他者との協働・連帯・集団帰属)』の段階的かつ複雑な組み合わせによって、それぞれの個人の適応度と精神的な満足度が変わってくる。

その複合的(時に病的)な心的内容をより精確に理解するために『無意識』という概念が導入されたとも言えるが、無意識という直接に観察できない広大な領域で機能している心的装置として上記したエス(イド)や超自我があるのである。

『自由連想・夢・症状』などを語って分析する行為を通して、今まで自分でも認識することができなかった無意識の心的内容に気づいたり洞察したりしながら言語化していくのが精神分析だが、精神分析の要点は『無意識の言語化・意識化』と同時に、正に他者と向き合って自分の抱えている心的な事象・変化を率直(自由)に語り続けることができるという『関係的な経験主義』にもある。


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