精神分析のリビドー発達論における『潜伏期(小学生時代)』と社会性・知識技能の学習期間

文明社会を成り立たせる人間らしい社会的・倫理的・知的な行動様式、それらを身につけるための準備期間のようなものとして、異性への興味関心・コミュニケーションが同性社会(男同士・女同士の仲間関係)の中で抑制されやすい『潜伏期』があるのである。

文明社会参加の心的基盤を築く『潜伏期』:リビドー潜伏と“超自我・教育・人間関係”からの学び

『潜伏期』は発達心理学の『児童期(6~12歳頃)』とも重なる発達段階の時期であるが、この時期は性的な成熟・関心(関わり合い)を一時的・環境的に抑制することによって、人間が社会的存在として機能するために必要な知識・技術・集団行動・役割意識を習得していく『長期の学習期間・準備期間』になっている。

フロイトは、乳幼児期の性倒錯、思春期・青年期の性的成熟(異性関係へのアプローチ)という二つの時期に潜伏期的なリビドーの抑制が解放されて強まるという『二相説』を唱えた。

近代的な学校教育制度が普及していない未開社会・部族社会であっても児童期の異性関係におけるリビドー充足は社会規範や通過儀礼前の行動範囲などで禁忌とされていることが多く、(学ぼうとする内容やレベルはさまざまで違いがあるが)人類は概ね一般的に長期の学習期間としての『潜伏期』を持っていると思われる。この学習期間の潜伏期によって、個人の社会化・技能向上や文化的価値・歴史的記憶の世代間伝承を進める心的体制の基盤が作られやすくなる。

精神分析のリビドー発達論における『潜伏期』というネーミングの面白さというか妙味は、人は既に『児童期』において男女関係・夫婦関係(結婚)の原型の理解が概ねできあがっているにも関わらず、いったん小学生の年代になるとそういった男女関係の原型への欲求や言及が潜伏してしまうということである。

幼稚園生の頃に言っていたような『同じクラス(父親・親戚)の誰々と結婚したい・誰々のことが一番好き』といったような発言を余りしなくなって(あるいはちょっとでも同級生の誰かが好きだなどと言ってしまうと大げさなからかいや笑いのネタにされやすくなって)、その種の恋愛・性の欲求が表面的にはかなり潜伏するということ(中にはおませさんで小学校高学年くらいから擬似恋愛的な交際をする人もいるが)でもある。

人類の文明社会の歴史的発展では、夫婦・子供・祖父母などを中心とする『血縁の親族関係(家族関係)』と複数の家族・職業者が共同生活を送っていく『部族・経済の社会集団』との両立が模索されてきた。

そこには家族を形成して異性(配偶者)を独占しようとする“本能・競争”と経済・社会生活の中でお互いの配偶者や家族関係を侵害しないようにしようとする“婚姻・慣習・法の相互規制(不倫の禁忌などによる争いの事前抑止)”とのせめぎ合いもあった。

多くの社会において女性の社会進出・職業的平等の獲得に時間がかかっている背景にも、『女性の経済力上昇による男女の性別役割分担(婚姻の自明視)の揺らぎ・女性の自由化による離婚や浮気のリスク(閉鎖的な家族関係の秩序の緩み)』に対する男性社会の警戒感や保守的な家庭の秩序意識が影響している可能性はある。

個人の内面にある『超自我(superego)』にしても、みんなの逸脱行為を規制する社会規範としての『法律・道徳』にしても、それらは『個人の欲求・都合・利益』が激しくぶつかり合って社会秩序が失われる『(トマス・ホッブズの社会契約論にあるような)万人闘争状態』を回避するために大きな役割を果たしてきた。

人は自分の欲求と他者の欲求を単純にぶつけ合って勝ち負けを争うだけではなく、“倫理・法・慣習(常識)・自尊心(こだわり)”などとお互いの欲求・主張を照らし合わせて善悪・責任の割合を判断しながら、交渉したり妥協したりするだけの社会性を備えているのである。


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