宮部みゆき『ソロモンの偽証 5・6』の書評1:人物のパーソナリティーの多面性を描く学校内裁判

クリスマスの夜、城東第三中学校の屋上から飛び降りて死んでいた不登校の柏木卓也(かしわぎたくや)。死亡の経緯がはっきりしない柏木卓也の不審死を巡って、“自殺”か“他殺(殺人)”かの憶測が飛び交い、一年後に受験を控えた同級生の気持ちを掻き乱す。

そんな中、学校・担任教師の森内恵美子(もりうちえみこ)・優等生で刑事を父に持つ藤野涼子(ふじのりょうこ)宛てに、『柏木卓也は大出俊次たち3人の不良グループに屋上から落とされて殺された』ということを告発する怪文書が送られてくる。

宮部みゆき『ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件,上下』の感想

“いじめ・恐喝・脅迫・暴行・夜間徘徊・怠学・性的嫌がらせ”などの素行不良や補導歴で知られる札付きの不良・大出俊次(おおいでしゅんじ)ら3人に『柏木卓也殺害』の嫌疑がかけられ、少年犯罪やいじめ、体罰、自殺などの学校問題に強い興味を抱くジャーナリストの茂木悦男(もぎえつお)が大出を殺人犯と見なす前提での執拗な取材攻勢を掛けてくる。

大出俊次らが柏木卓也を殺害した理由として挙げられたのは、柏木が不登校になった原因として指摘された『理科の実験準備室でのトラブル』だった。普段はおとなしくて目立たない柏木卓也が大出俊次・井口充・橋田祐太郎の三人と口論になり、柏木が大出に対して椅子を振りかざして投げつけたというトラブルである。当初は大出たちが因縁をつけてそれに対して柏木が自衛のために反抗したと認識されていた。

大出俊次の父親・勝は、自分の息子の過ちを認めずに息子の非行行為を注意されれば学校に怒鳴り込むチンピラのようなモンスタクレーマーである。大出勝は勉強なんか何の役にも立たない、世の中に出ればカネが全てだというバブル時代の叩き上げの拝金主義者で、自身が経営する建築資材会社で絶対的な権力を握ってカネを稼ぎ続けている。札付きの悪とされる息子の俊次も、父の勝に気に入らないことがあればいつも殴られて威圧されており、一方的かつ暴力的な物言いで押さえつけてくる父親には全く抵抗することができない。

『ソロモンの偽証』は大出俊次が柏木卓也を殺したのか殺していないのかの真実を明らかにする為の『学校内裁判』がメインテーマに据えられているが、その始点となるのがニキビの多い顔に劣等コンプレックスを持ち、容姿を理由にして大出ら3人に屈辱的ないじめを受けていた三宅樹理(みやけじゅり)が書いた大出俊次らが殺人犯だとする『告発文』である。

ニキビと容姿に劣等感を持つ三宅樹理は、肥満体型にコンプレックスを持ちながらも明るく気立ての良いタイプの浅井松子(あさいまつこ)を子分のように扱いながらいつも二人でつるんでいたが、いじめの私怨を理由とする『虚偽の告発(大出俊次らを殺人犯として指弾する告発)』の共犯関係に松子を巻き込んでいく。

この告発文を巡るテレビ報道によって、世間から半ば殺人犯として決めつけられていく大出俊次とその家族、遂に大出の自宅が(当初は卑劣な少年犯罪に義憤を高めた第三者の犯罪と推測されるが)何者かの手によって放火されて祖母が無くなるという事件まで起こってしまう。事なかれ主義の保身のために告発文を廃棄したという疑いを掛けられた担任の森内恵美子も追い詰められて教師を辞職することになる。

この森内教諭が告発文を捨てたとされる事件の真相は、若くて綺麗で人生が充実していそうに見える(愛人を作った夫に捨てられて離婚されかかっている無職の自分と比較して輝いて見える)という妄想的な理由で、森内教諭を一方的に嫌悪・憎悪していた隣人の垣内美奈絵(かきうちみなえ)の犯行だった。

一方、かわいこぶりっ子した感じがあって、『生徒の好き嫌い(気に入った生徒への分かりやすい依怙贔屓)』が透けて見える森内恵美子教諭は、『生徒からの評価』も大きく割れていたりする。男子生徒からは概ね好印象を持たれているが、主人公の藤野涼子はじめ女子生徒の中には、先生なのにどこか女を意識した軽い所を見せる森内教諭に対して苦手意識・不快感を持っている生徒もいる。

『ソロモンの偽証』は、森内恵美子教諭に限らずこういった“ある人物に対する印象・評価”“その人物を見ている人の立場・性格・状況・価値観”などによって大きく変わってくるという『人物評価の多面性+パーソナリティーの複雑性』を精緻に描写した小説としても読むことができるように思う。

特に、真冬の夜に死んでいた柏木卓也の人物評価の多面性とパーソナリティーの複雑性は『内省的な現代人の孤独と自己愛・虚無主義と甘え』を掘り下げていくような恰好になっている。自己愛の肥大と自分を理解されない孤独に落ち込む柏木卓也は『自分と神原和彦の友人関係の質の変容』に次第に絶望感・不満感を募らせていくが、この部分は思春期にありがちな人生の生き方や感受性の分岐点としても解釈できるのかもしれない。






■書籍紹介

ソロモンの偽証: 第III部 法廷 上巻 (新潮文庫)
新潮社
2014-10-28
宮部 みゆき

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