19歳少年による『爪楊枝混入偽装事件』の雑感:現実での孤立感とウェブでの自己顕示

スーパーの箱入りの菓子につまようじを入れる様子やコンビニでペットボトルのジュースを万引きする様子を撮影した動画が、動画投稿サイトYouTubeに投稿された事件で、東京都三鷹市の19歳の少年が逮捕された。

しかし、実際には店頭で販売されている菓子の箱につまようじを入れてはおらず、自分で事前に購入していた菓子をスーパーに持ち込んで、つまようじを刺して入れる振りをしただけとの見方が強いようである。

ペットボトルのジュースの万引き映像にしても実際には盗んではおらず、事前に購入していたジュースをコンビニに持ち込んで冷蔵庫に入れた上で、あたかも万引きしているように見せかけていただけだという。

動画投稿者がこの19歳少年であることが特定されて逮捕状が取られたが、少年は『無能警察・超余裕・反省は絶対にしない・どこに逃走しようかな』などと警察に対する挑発的発言をYouTubeにアップロードして、逃走中の実況中継を続けた。

羽田空港を出てから、神奈川県川崎市や静岡県のJR浜松駅などを通過して名古屋・滋賀方面に逃走していたが、滋賀県内で警察に発見されて身柄を拘束されたという。直接の逮捕容疑は、コンビニに自演自作の悪戯をするためだけに侵入したという建造物侵入の容疑であるが、窃盗や威力業務妨害の疑いでも取り調べを受けることになるという。

マクドナルドの異物混入事件や少し前の『若者による悪ふざけ動画・バイトテロ動画』がマスメディアで大きく取り扱われたこともあり、この19歳少年の事件は『実際の被害・迷惑の影響度』以上に、マスメディアで集中的に長時間にわたって取り上げられることになった。

少年が投稿した動画にある挑発的なハイテンションのコメントを、丁寧なテロップつきで何度も紹介するなど、結果としてマスメディアの報道が『法律に触れるリスクを侵してでもネット経由でみんなにもっと見られたいもっと知られたい』という少年の自己顕示欲求や承認欲求を後押しするような形になってしまった。19歳の少年で顔写真も公開されていないことから、報道が容疑者逮捕を側方支援したというわけでもない。

犯罪まがいの動画や一般常識・マナーを極度に逸脱した動画を配信する個人の目的は、大きく分ければ『金儲けをしたい(経済的な動機づけ)』『自分が目立ちたい(自己愛的な動機づけ)』だと考えられる。

今回の事件の容疑者も、『有名人になった・ヒカキンを超えた・英雄になりたかった・少年法改正を訴えたかった』などの発言をしており、YouTube動画に寄せられた閲覧者のコメントに対してはお礼の言葉を返すなど、『できるだけ大勢の人から自分の存在・行動を認知(承認)されたい』という自己愛的な動機づけが非常に強いように見受けられる。

YouTuberとしてテレビCMに出演したこともあるヒカキンは、閲覧されれば閲覧されるほど広告収入が増えるというプロフェッショナルなパフォーマーで、経済的な動機づけが強いだろう。いくら少年が『ヒカキンのアクセスを超えた』といっても、それはマスメディア報道の力を借りた瞬間風速の一時的なアクセス数に過ぎず、少年がYouTubeを通して広告収入を受け取っていたという追加報道もない。

人気動画を作成して金儲けをするために、犯罪まがいの過激な動画や悪ふざけの度が過ぎた動画をアップロードしても、そういった投稿は炎上しやすいので持続性がなく、本当に法律に抵触していれば逮捕されてしまうリスクも高い。通常は、YouTuberとして人気を高めてお金を稼ぐことをメインの目的にしているなら、『違法性のない動画(閲覧者から通報されない動画)・限度以上のバッシングを受けない動画』を選んでから投稿するだろう。

19歳少年は、自分自身で生活保護を受けている(生活保護のお金で電車に乗って逃走する)といった発言もしているが、現実世界での実際の生活状況や経済状態、親子関係(家庭生活)、過去の学校生活(友人関係)などについては報じられておらず、現在は無職であるということ以外はどんな生活を送っていたのかは分からない。

インターネット上で注目を集めたいという似たような動機づけに基づく犯罪行為の前歴があるという報道もあり、少年が『他者からの注目・承認・関心(コメント等の声かけ)』に飢えていたということは想像に難くないが、ここまでの強烈な自己顕示欲求や承認欲求が生じる背景には『現実社会における孤独感・対人関係や承認経験の乏しさ・誰にも構ってもらえない淋しさ』があるようには思う。

特定の誰かを傷つけたり困らせたり、お店に直接の損害・被害を与える行為はしていない、撮影された犯罪的な行為のほとんどは見せかけだけの『自作自演』であったことを考えれば、19歳の少年は根っからの悪人ではないだろうし、他人を暴力的に傷つけるタイプのパーソナリティー(性格構造)ではないとも思うが。

無論、マスメディア報道の影響も含めて世間を騒がせたり見ている人を不愉快にさせた罪はあるだろうし、本当につまようじなどの異物が商品に混入されたと思い込んだお店やお客さんに直接・間接の迷惑を掛けてしまった可能性もある。

『とにかく目立てれば何をやっても良い』という自己愛が肥大した価値観に基づく『挑発・悪ふざけ・犯罪偽装の動画』は、自分ももっとこの少年のように注目されたいという『現実世界での孤立感・存在感の希薄さ』を抱えた模倣犯を増やす恐れもあるだろう。

こういった行き過ぎた悪ふざけ動画や警察・社会をいたずらに挑発する動画の公開は許されるべきものではないが、19歳という若い年齢で、学校・職場・仲間集団といった帰属できるコミュニティがなく、自分の夢や野心、不満、つらさなどを話して共感し合えるような友人知人・恋人がいないという問題はやはり深刻なものである。

そういった若い人たち(若い人でなくても)が、この少年だけではなく潜在的に数十万、数百万人の単位でいるということ(承認・親和・共感・自己顕示といった欲求が満たされずに孤立感・無力感・存在の希薄さを抱えてどうして良いかわからずにいるということ)に対して、大人や社会ももっと自覚的に『他者の声・気持ち』に耳を傾けたり、各人の存在や人格がもっと承認されるような場・機会を増やしていかなければならないように思う。

仕事・家庭・学校・人間関係などのネットワークやコミュニティからこぼれ落ちて孤立感を抱えてしまうと、『自分なんかこの世の中にいてもいなくても何も変わらないのではないか』という自己アイデンティティの拡散や自己存在の希薄化が起こりやすくなる。

その結果、人によっては自分が本当に他人に見えているのかどうかさえわからなくなり、確かに自分がこの世界に存在していて他人から見て貰えているという実感を必死に狂気的に追い求めてしまうことがある。

この少年にまつわる報道では、親子関係や家庭生活の影が殆ど見られないが、過去から現在に至るまでの親子間での『自分の存在や能力の承認(肯定的な評価・無条件の受容)』などを与えてもらえなかった可能性も含め、『親密な他者からの承認(現実世界における他者から認めてもらうことによる自己存在の確証)』『不特定多数の他者からの評価(ウェブ社会における自己顕示欲の肥大)』の葛藤が起こり、後者の自己顕示欲のほうが過度に大きくなって自制心が完全に失われてしまったように感じられる。






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