アベノミクスと物価上昇・給与水準停滞・原油価格下落・ギリシャ問題:改善しづらい生活実感

異次元の金融緩和と公共投資(公共事業)の強化、株式市場への公的資金投入(GPIF投入)などによって、アベノミクスは官製相場と言われながらも、『株高・円安(輸出利益の増大+貿易収支の改善)』を実現した。

だが、日経平均が17000円を超えても大企業やその正社員、公務員以外には『賃金増加』の恩恵はほとんど及んでおらず、日本の労働者全体の賃金水準は逆に落ち込みの様相を見せている。前年11月には労働者の実質賃金は4.3%下落しており、アベノミクスによる景気回復が賞賛される一方で、実質賃金は17ヶ月連続の下落となった。

消費税増税による内需の減少と給与水準の停滞もあって、2014年のGDPはマイナス成長に転じたため、安倍政権は衆院の電撃解散と総選挙によって『消費税10%への増税』を2015年10月から2017年4月に延長した。

円安の持続と世界の需要増によって食品価格の値上がりが続いており、労働者の賃金水準も落ち込みが続いているので、消費税増税の時期を先送りしたのは妥当な判断だと思う。

しかし、アベノミクスが期待するすべての労働者への『トリクルダウン効果(大企業・成長企業が儲かって内部留保を溜め込んだ後に、中小零細企業・自営業にも利益の恩恵が少しずつ滴り落ちてくる)』が、本当に起こるのかは不透明な部分が多い。

経済学者の中にも、金融緩和・競争原理による『格差拡大の傾向(市場の敗者・大手の下請けが景気拡大局面から取り残されてしまう傾向)』は今後も続く、企業の法人税減税(+外形標準課税の強化)は儲けている一部の企業にしか恩恵がないという見方もある。

日銀の生活意識調査、「ゆとりがなくなってきた」が2年ぶり半数超

日本銀行が2014年12月に実施した『生活意識に関するアンケート調査(第60回)』の結果では、現在の景気が1年前と比べて「良くなった」という回答から「悪くなった」という回答を引いた景況感DIはマイナス32.9で、3期連続で悪化したという。前回9月はマイナス20.4であり、12.5ポイントも大幅に生活実感(景気実感)が悪化しているのである。

暮らし向きに『ゆとりがなくなってきた』と答えた人の割合が51.1%だから、このままでは財布の紐がより固くなって、消費意欲(内需)の高まりやGDPの成長は期待しづらいということになるが、ゆとりがなくなってきた最大の原因は『収入が減って支出が増えた』というシンプルな原因である。

暮らし向きが厳しい理由について、『物価の上昇』を上げた人が71.1%、『収入の減少』を上げた人が50.4%に上っており、食料品・雑貨を中心とした円安による物価上昇と給料の伸び悩みが生活実感を悪くしている。給料に限れば、一部上場企業など大企業の過半では5%近い昇給やボーナスの積み増しを実施しているようだが、大多数の労働者が働いている中小企業では給与・賞与は据え置きだったり、逆に減額されたりしているのである。

アベノミクスは確かに上場企業を中心にした企業業績を伸ばして、個人消費を一時的に増加させたのだが、2013年度は好調だった景況感が消費税の8%への増税後にがくんと悪化してしまったことが見て取れる。増税と急激な円安(物価高)が重なった副作用も大きい。昨年11月の段階の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は18ヶ月連続で上昇しており、給料が多少増えても物価上昇と相殺されたりマイナスになってしまう構造になっている。

アベノミクスの成果としては『雇用の増加』があり、有効求人倍率は22年ぶりの高水準である1.12倍をマークしている。だが、この雇用増の大半はアルバイト・派遣などの非正規雇用であり、政策の効果だけではなく少子化・労働者総数の減少による『人材不足の影響(特に飲食・販売・土木建築・ITなどの分野における量的な人材不足)』も大きい。

若年層にとって時給が前よりも引き上げられたアルバイトが増えることは悪いことではないが、正規雇用の求人が増えてこないと、可処分所得の増額による『消費意欲の増加・結婚する人(子供を持つ人)の増加』は期待しにくいだろう。

原油価格が24週連続で下落して、ガソリン代や灯油代はかなり下がってはいるが、
ガソリンには『ガソリン税(暫定税率)・石油税・消費税・関税の多重課税』があるので、原油価格が大きく下落している現状でもそれほど極端に安くなるわけではない。

無論、中東・ロシア・南米の産油国にとってダメージが大きい『原油安』は総合的に見て、日本経済と日本人の生活にとっては追い風にはなる。『ガソリン代・灯油代・航空運賃』などの燃料代が安くなるだけでも恩恵は大きいが、時間遅れで5月頃には、電気・ガス料金が値下げされる予定になっている。JALとANAでは2~3月の航空チケットの発券で燃料費上乗せ運賃(燃油サーチャージ)を最大50%値引きしたが、4月以降は更に燃油サーチャージを引き下げることになるという。

しかし、グローバル経済では日本の景気も、間接的に『産油国(ロシア・中東諸国・南米諸国)』の需要・政治情勢と相関しているため、『原油価格の急落の継続』は世界経済の混乱やロシアと貿易関係が深いEU経済の悪化を引き起こすリスクも考えておくべきだろう。

原油急落の要因は、原油の需要に対する供給超過であり、OPECが減産に踏み切らないからだが、減産しない理由の一つはアメリカの『シェールガス革命』への対抗措置で、原油価格を低い水準に保つことで『シェールガス開発の利益』を減らして開発を頓挫させようとしている。実際、アメリカではシェールガスの開発会社が、原油安による利益減少に耐えられずに倒産したりもしているようだ。

もう一つの原油安の原因として言われているのは、ウクライナ侵攻を強行した産油国ロシアに『間接的な経済制裁』を与えるために、アメリカ・EU・OPEC諸国が『原油安の政策方針』で一致しており、背後で連携しているのではないか(ルーブル暴落に喘ぐロシアに経済的な痛みを与え続けて、ウクライナ問題での政策転換を狙っているのではないか)というものである。

原油安と合わせた国際的な混乱要因としては、財政破綻状態にあるギリシャがEUのユーロ圏を離脱するかどうかで揺れる『ギリシャ問題』がある。

25日のギリシャの国政選挙で、ギリシャがユーロ圏にとどまるかどうかの非常に大きな判断が行われることになるが、ユーロ圏離脱となれば貨幣価値(政府の信用力)がほとんどない『ドラクマ』が復活し、ギリシャ経済は更なる悪化の一途を辿る恐れ(国債暴落で外国の金融機関にも衝撃を与える恐れ)がでてくる。

ギリシャではユーロ圏に留まるための条件である『緊縮財政の継続(財政赤字の圧縮のための公務員給与と公的サービスや公的年金の大幅な切り下げ)』に反対の有権者が増えていて、国民生活を圧迫する緊縮路線を続けるくらいならユーロを離脱すべきとする野党(急進左派連合)が勢力を増しているようだ。

野党が勝利しても即座にギリシャのユーロ圏離脱となるわけではないと思うが、『ユーロを離脱すれば世界的経済危機が起こるかもしれないという予測』は、ギリシャ債務を保有する欧州中央銀行(ECB)、欧州金融安定化基金(EFSF)、国際通貨基金(IMF)にとって『大幅な債務減免』の圧力(ギリシャにとってはユーロ離脱をほのめかしながらの交渉材料)となることは確かである。

一方、欧州中央銀行(ECB)と欧州金融安定化基金(EFSF)に最大出資しているEUの盟主ドイツでは、国内で『ギリシャ支援に対する反対意見(無責任な放漫財政を続けたギリシャのために勤勉なドイツ人が負担をするのはおかしい)』の広まりもあり、ギリシャがユーロ圏を離脱するなら離脱しても良いとする判断を下す可能性が出てきている。

原油急落は日本や日本人にとってはプラスの要因になることのほうが多いと思うが、2015年は『円安による原材料高騰・食品の値上げ』が国民生活を圧迫することになりそうである。1月はパスタや食用油、インスタントラーメンなど即席麺が値上げ、2月はレトルトカレー、3月は天ぷら粉や乳製品、アイスクリームなどの値上げが続くことが予測されている。

こういった食品の物価上昇の悪影響を抑えこめるくらいに『株高・原油安・光熱費値下げ・トリクルダウンによる給与上昇などの影響』がより多くの人々に行き渡るかどうか、『規制緩和・減税』など追加的な成長戦略が実際に景気を引き上げられるかどうかがアベノミクスの正念場になってくるように思う。






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